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災難その7



昼夜という概念のないこの世界において、夜明け前を思わせる薄暗い空の下。
数少ない、コスモスの加護の残るこの場所は敵の侵入を許すことのない安全な空間だ。
寝食するのには最適である。
だからといって、建物があるわけでもなくもちろん寝具などは一切ない。
ただある程度のものは望めば手に入れることができるようだ。
力の源となる食料や就寝時に羽織る毛布など、あくまで必要最低限のものばかりだが、それでも敵の襲来を気にすることなく寛げる場所というものは有り難い。

そんな有り難い空間で11は今、正座をしていた。


「地面が固くて痛いです、フリオさん」

目の前にはフリオニールが座っている。
芝生が生えているとはいえ、生足で正座は少し痛い。
足を崩そうと体を動かしてみるとフリオニールに静止される。

「せっかく早くに起きたんだからもっと有意義に過ごしましょうよ〜」

フリオニールが自ら進んで起きたのではない。
11に無理やり起こされたわけだが。
せっかくの安定した睡眠時間を邪魔されてしまったのでは堪ったものじゃない。
ここはひとつセシルを見習い、11をしっかり教育しておこうととりあえず正座をさせてみた。
しかし、先ほどから11の口からは文句ばかりが流れてくる。


「なぁ11」

この混沌の世界の中で、ここがいかに貴重な場所かを淡々と告げる。
いつでも辿り着ける場所ではない。
見つけたらそこを拠点として、しばらく鍛錬に励むこともある。
限られた時間の中でいかに心身ともに鍛え、休め、次へと生かすか。
その鍵ともいえる空間なのだ。
そして必要な休息というものはひとりひとり違う。
だからいくら11が元気でも、他の者が充分休めたかといえばそうとも限らないんじゃないのか…など、極当たり前なことを真剣に語る。


「つまり、まだ眠いんですね」
「…そうだ」

そもそも誰のせいで必要以上に疲労しているのかはここでは黙っておく。
また余計な展開に持ち込まれるのはゴメンだからだ。
腑に落ちない表情を浮かべながらも、一応最もらしい話に納得したのか「わかりましたよ〜」と軽い調子で応え、足を崩す為に動こうとしたが、再度フリオニールに妨害される。

「なんですか、も〜」

寝てしまうならひとりで散歩でもしてくるという11を引き止め、教育と名打った今回のメインともなる話題を振る。

「起こすは起こすでも、あの起こし方はやめた方がいいんじゃないのか」

ひとり身の寝起きにあの刺激は強すぎる。
ティーダあたりだったら、同じ青い者同士でも器用に避けれるのだろうがフリオニールはそんなに器用ではない。
こと女性に関しては。

「それにだな、あのキ…キ」
「キス?」
「…そう、それだ。冗談でもそんなこと軽々しく言っちゃダメだ」

誰にでもそんなこと言ってるようじゃ、変な誤解を生んでしまうだろと助言する。
そういうコトは本当に大切な相手と想い通わせてからするもんじゃないのかと持論の展開。
もちろん経験はない。
まだまだ青い若造だ。

「誰にでもじゃないですよ」
「え?」

さらりと発せられた11の言葉に耳を疑う。

「ふたりで行動してて思ったんですけど」

なんだかんだ言いつつ11の我侭の相手になってやったり、何かと面倒見の良いフリオニール。
それは彼自身の性格ゆえに見過ごすことが出来なかった為だろう。
そんなフリオニールに対し、彼女なりになにか思うことがあったようだ。

「なんだかフリオさん、お父さんみたいで。安心感があるっていうんですか?」
「お父さん…?」

お父さん…安心感…親愛のスキンシップ。
保護者ポジション確定である。
確かにフリオニール自身、11の保護者役的な感覚に陥ることが多々あったが、その対象たる本人からも確定されたとなるとなぜか心中穏やかでない。

(…なんだこのガッカリ感は)

お父さん=異性として見ていない。
それこそフリオニールだって、11はただの仲間だ。
仲間として接してきた…はずだ。
次元の歪みに飛び込んだのがもし他の仲間だったら、特に追うこともなかっただろうと思う。
彼らは、ひとりでも充分立ち回れるのだから。
だからそれは11のことをウォーリアに頼まれていたからだ…と思う。


(いつからだ?)

妙なところで世話焼きな自分の性格は知っている。
ただその
<仲間として>
から
<異性として>
の境界線はどこからだっただろうか。


「フリオさん、足、いいですか?痺れちゃって」

そう言いながら漸く足を伸ばすことのできた11。
チラリと11を見れば余程痺れているのかソロソロと靴を脱ぎ、痺れを逃すように足の指を引っ張っている。
なんとも間抜けな光景だ。

「なんですか、その憐れんだような目は」
「……いや、なんでもない」

痺れを治すのを手伝えと言われ、脱力しつつも指を引っ張ってやる。

(なんだってコイツなんかを…)

思わぬ展開のうちに自身の恋心に気がついてしまったフリオニール。
しかも相手はよりにもよって11だという事態にまたひとつため息を吐く。

災難な日々はまだまだ続きそうだ。

-end-

2009/06/08




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