願い
カオスへと続く道は開かれた。
最後の闘い。
その時が訪れたのだ。
力が衰退していたとはいえ、光の神コスモスを一瞬にして消滅させた混沌の神。
その力は計り知れないほど強大なものだろう。
それでも、戦士たちは挑まなければならない。
たとえ、無事ではいられなくとも。
世界に調和を取り戻すため。
闘いの輪廻を終わらすため。
そして、自分達の世界へ還るために。
各々がそれぞれの思いを胸に、道を進んでいく。
11はそんな仲間たちに別れの言葉を告げ、見送る。
彼らがどうか無事であるように。
そんな願いを込めて。
「11、僕ももう行くよ」
「オニオンさんも、ありがとうございました」
最年少ながらも、一番にクリスタルに辿り付いたのは彼だ。
オニオンナイトの称号は伊達ではない。
それを知らしめてくれた、勇気ある少年。
ティナを守る、という大役もここまで立派に勤めてくれた。
常日頃、大人びた物言いをする彼だが、時折見せる子供らしさにティナと微笑ましく思っていたものだ。
そんな彼もこれからカオスへと立ち向う。
まだ子供なのに、と言ったらオニオンは拗ねるだろうか。
「ティナさんに聞きました。これ、オニオンさんも手伝ってくれたんですよね」
耳の宝飾に手を添える。
ティナから貰った、宝物。
あれからずっと身に付けている。
どうにも不器用なティナは、オニオンの助けを借りながら漸く創り上げることが出来たと言っていた。
それではオニオンにも礼を言わなければと言ったところ、彼が手伝ってくれたという話を聞いたことは内緒にしていて欲しいとティナにお願いされてしまった。
”彼、きっと恥ずかしがるから”
そう苦笑を零していた。
”ティナが自分で作ったっていうんだよ!”とオニオンに念を入れられていたようだ。
でも、もう告げてもいいだろう。
最後なのだから、礼くらい言わせて欲しい。
「大切にします。これから先も、ずっと」
そう告げ、オニオンの手を取り握り締める。
仲間と共に過ごした証。
消えることのない大切なものだ。
「…大丈夫だよ、11。大丈夫」
11の手を握り返してくるオニオン。
「あんまり深く考えないで。単純なことだよ」
その言葉の意図が読み込めず首を傾げる。
「僕たちがササっとカオスなんかやっつけてくるから、11はただウォーリアのことだけ考えてて」
オニオンらしい、自身満々な言葉。
しかし、”ウォーリアのことだけ考えていて” とは、彼にしては珍しく根拠のないとことを言ってきたものだ。
「ここまできて解決策も見つからなかったんだから、あとはウォーリアへの想いだけでしょ」
まぁ、そんなのは常々想ってるんだろうけど、それに望みを掛けるしかないとオニオンは言う。
悔しいけれど、知恵のある自分でさえウォーリアと11の問題を解く方法は思いつかなかったのだから。
「でもさ、これってあながち間違ってはいないと思うよ」
力だけでも、知恵だけでも、困難を乗り越えることは出来ない。
遂げたいという強い思いがあるからこそ、成し遂げることが出来る。
「オニオンさん…」
「この僕がそれを証明済みだからね。大丈夫」
勝てない敵とは戦わない主義であった自分が、ティナを守るという一心の思いでそれを乗り越えることができたのだから。
だから11も強い想いを忘れないで、と告げる。
「成る程。”強い想い” が大事だというわけだな」
いつの間に傍に来ていたのか、ウォーリアが声を掛けてきた。
「オニオン、そろそろ俺たちも向わなければ」
フリオニールだ。
11に元気で、と簡潔に別れを述べ、オニオンに先へ急ごうと促す。
道を進むふたりを見送り、残った者はウォーリアと11。
ウォーリアに振り返り、彼を見上げる。
どんなときでもぶれることなく前を向き進む、彼の目を見つめる。
いつの頃からだっただろうか。
彼への思いが、憧れから親愛に変わったのは。
「貴方には、お別れは言いません」
「そうだな」
「思い出になんかしたくないんです」
「私もだ」
「だから、迎えに来てくださいね」
「あぁ」
「ずっと…待ってますから」
ウォーリアの手をとり、そっと口付ける。
「貴方に光のご加護を」
そう告げ、祈るように手を握り締めているとウォーリアに強い力で引っ張られた。
彼の腕の中に納まり顔を上げようとすれば、それを遮るようにきつく11を抱きしめてくる。
「貴女にも、光の加護があらんことを」
額にひとつ口付けを落とし、身を離す。
「…では、行って来る」
マントを翻し、11に背を向け歩き出す。
待ち受けている、強大な力と対峙する為に。
辿り着いた先は、混沌の果て。
-end-
2009/11/13
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