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抱擁



「なので…この戦いが終わったら、お別れなんです」

淡々と話し終える11。
こちらを真っ直ぐ見つめ、その瞳が揺らぐことはない。


かつて、コスモスが言っていた事を思い出す。
この世界に調和が戻れば、自分達の世界に戻れると。
混沌の神カオスを倒すことばかりに気を取られ、すっかり失念していた。
記憶のない自分ですら、おそらく還る世界はあるはず。

11は別れと言った。
彼女はコスモスが創造した者。
この世界の、たったひとりの住人。
簡単なことだ。
自分は自分の世界に戻り、11はこの世界に留まる存在。
当たり前なことだけに、改めて意識したことなどなかった。

11をたったひとり、この世界に残して行かなければならない。
この、愛しいと思う心を抱えて、自分の世界に戻らなければならない。
そんな単純なことに気がつかなかった自分の愚かさに、息を吐く。


「…君は、それでもいいと…、だから、私の想いを受け入れたのか?」

11の目が揺れる。
その瞳が不安を誘う。
そんなことはないといって欲しい。
確かに、偶に一方的すぎるような愛情表現だったかもしれないが、それでも11は受け入れてくれていた。
自分の光に惹かれると、好きだと言ってくれた。
それだけでも充分だと、いつまでも傍に居てくれるのだと、自惚れすぎたのだろうか。

「スコールさんに言われたんです」

スコール。
いつも11に惚気話を聞かされて鬱陶しいと言っていたな。
しかし、彼も彼なりに11のことを気に掛けてくれているのだろう。
少し妬けるが、自分よりも先に仲が良かったことは知っている。
なにかと相談でもしていたのだろう。

「そんなのは、自己満足だって」
「自己満足?」
「ウォーリアさんの想いにしっかり応えろって言われました」

首を僅かに傾げ儚げに微笑む。
最初は別れることは当たり前の事として諦めていたという。
自分の中で、思い出として昇華すればいいのだと。
でも、そんなことは馬鹿らしいとスコールに叱責されたようだ。
もっと自分自身の為に考えてもいいのではないか、とも言われたという。

背伸びをし、こちらに向けて腕を伸ばしてくる11。
抱きつくように首元に腕を絡ませてきた。
バランスを崩さないように、しっかりと彼女を抱きとめる。

「大好きです、貴方が。離れたくない」

そう言い、肩に顔を埋める。

「まだ、お別れしない方法は模索中なんですけど」

絶対に見つけてみせますから、ときつく抱きついてきた。
彼女の背中にまわしている腕に力が篭る。
別れたくないという思いは同じ。
それを知り、安堵する。
安堵と共に疑問もひとつ。

「それは…私の為、だろうか?」

そう問えば、首を横に振る。
頬にあたる柔らかな髪。
それすらも手放したくない。

「それもありますけど、…私自身の為、にです」

貴方から与えられた全てのものを、思い出なんかで済ませたくないんです。
これが私の想い。
顔を上げ、頬に手を添えてくる11。
貴方が私を想ってくれているよりも、私の方がもっと想ってるんですから、と微笑む。

「愛しい貴方を、不安になんかさせません」

そう告げ頬に口付けてくる。

「11…」
「だから、お傍に居させてくださいね」

再び、きつく抱擁する。

戦いを終わらせることばかりに気が逸り、別れのことなど考えてもみなかった。
このまま、このことを知らずに元の世界に戻ったとしたら、どうなっていたのだろうか。
全く、己の浅はかさに自嘲する。
しかし悔いている場合ではない。
解決策など見当もつかないが。
それでも彼女の想いに応えたいと願い、そっと額に口付ける。

-end-

2009/9/1




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