望むもの-side11-
「すみません、遅くなってしまって」
少し離れた場所から光と共に出現した11。
そう言いながら、召喚したティーダのもとへと駆け寄って来た。
光の加護が無くなって以来、以前のようにコスモスの休む神聖な領域で日々を過ごしているという。
些か特殊な次元のようで、この異界の中での往来と違い今までのようにすんなりと移動できないらしい。
それでも仲間達の助力になろうと、こうして変わらず帆走している。
懸命さは見ていてわかるものだ。
「気にすんなって。安全第一、っスよ!」
申し訳なさそうな顔をしている11を元気付けるように背中を軽く叩いてきた。
それを受け、眉根を下げほんのり微笑みを向ける。
加護喪失の本当の原因は仲間達には伝えていない。
幸いにも皆はコスモスの力の衰退が原因と考えていたし、コスモス自身も皆にそう伝えた。
光と闇は紙一重だというコスモス。
本当のことを話し、ウォーリアが自責の念に駆られでもしたら、クリスタルどころではなくなるのではないかと懸念してのことだ。
ティーダが集めた素材を渡してくる。
「たぶん、もうちょっとでアイツとケリつくと思うんだ」
そんな予感がする、と頼りない笑顔を向けてくるティーダ。
ティーダが乗り越えなければならない相手は彼自身の父親だ。
口では平気だと言っているが、その心中は複雑だろう。
皆それぞれの思いを抱えながらクリスタルを手に入れているのだ。
11も、そんな仲間たちの助力になれるよう、今まで以上に気を引き締めなければと改めて心に刻む。
「11、寂しくないっスか?」
生成を終えティーダに渡す際、ふとそんなことを尋ねられた。
どうやらフリオニールにウォーリアと11の仲を教えてもらったようだ。
そういえば急遽コスモスの元に戻って以来ウォーリアとは会っていない。
本来彼自身、生成さえして貰えればいいというスタンスだったのだから今の状態が通常なのだろう。
行動をともにしていたのは、もともと11の勝手だったのだから。
「やっぱ好きな人と離れ離れになるのって辛いっスよね」
頭を掻きながら困ったような表情で11を見おろしてくる。
確かに寂しくはあるが、11の姿が敵に映る以上そんな自分勝手な行動はできない。
敵に見つかり存在を消されてしまっては、仲間達の力になることができなくなってしまうのだから。
知らなかったとはいえ11自身が犯した結果がこうして彼らに余計な心配をかけてしまっていることに、ますます罪悪感が募っていく。
「でも、大丈夫!クリスタルさえ集まれば世界に平和が戻って、そしたら11も自由に…」
拳を振るい上げ、威勢良く発するティーダの言葉が途切れる。
クリスタルを手に入れれば世界を救うことができるとコスモスは言っていた。
この戦いに終焉が訪れ、自分達の世界へ戻ることができると。
「自由に、会えない?」
11の世界はコスモスのいるこの世界。
戦いが終わった所で仲間達のように戻るべき場所は変わることなくこのままだ。
「親子って、勘がいいところまで似るものなんですね」
ジェクトにも同じことに気が付かれたことを思い出す。
敵対しているのに、申し訳なさそうな顔を向けられたことを意外に思ったものだ。
仲間達がそれぞれの物語に戻る時、それはコスモスや11との別れの時でもある。
11は最初から知っている。
それは必然なのだと。
「他の皆さんには言わないでくださいね」
約束ですよ、と11。
あえて言う必要はないのだ。
彼らは、彼らの世界に戻らなければならないのだから。
ティーダの脳裏に一瞬なにかが過った。
何か大切なことを忘れている気がする。
それが何なのかはっきりしないのがもどかしい。
自分達には還るべき場所がある。
そこには待っている仲間がいるだろう。
だからこんな辺鄙な異界でも頑張ってこれたんだと思う。
それなのに11に待っているのは仲間達との別れ。
「そんなのって、ヒドくないっスか」
悔しそうに言葉を噤むティーダ。
「ありがとうございます。ティーダさん」
自分の役目は、世界の秩序のために生成という力で仲間を支援すること。
世界が救われれば、その役目も終える。
仲間が各々の世界に戻っても、自分の中で思い出として残るから大丈夫だと述べる。
それでも自分のことのように嘆くティーダに感謝する。
幾分テンションが下がり気味なティーダの背中を見送りながら、これから彼が立ち向かうべき戦いに向けて激励を送る。
ふとティーダが立ち止まり、11へと振り返った。
「きっと、別れない方法とかあるから!だから11も気を落とすなよ!」
ティーダらしい、前向きな言葉だ。
その気持ちだけで、なんだか救われる気がした。
別れは確かに寂しい。
それでも望むものは世界の調和。
-end-
2009/6/17
[*prev] [next#]
[表紙へ]