湿布
「それは、どうした?」
不自然に盛り上がった前髪に目を向ける。
「少し…ぶつけてしまいまして」
苦笑いの11。
前髪に手をやり、軽く整える。
柱にぶつかったせいで額が少し腫れてしまっている。
触るとまだ痛いのだが、普通にしている分には痛みは感じない。
なんだかんだ言いつつ気に掛けてくれたのかスコールが湿布を貼ってくれたのだが、幾ら前髪で隠しても目立つようで、ウォーリアの元に着くなり尋ねられてしまった。
「そうか。スコールが…」
しばし押し黙る。
以前、ジタンが言っていたことが頭に過ぎった。
11とスコールが仲が良いと聞いて意外に思ったものだ。
仲間なのだから当たり前といえば当たり前なのだろうが、人の世話など興味ないように見えるスコールがこうしてしっかり手当てしてくれている辺り、そのようだ。
しかしなんだか釈然としない。
「少し見せてもらえないか」
11の額を指す。
「かまいませんけど」
触らないでくださいね、と前髪を上げる。
そっと湿布を避ければ、赤く腫れた患部が覗く。
「青痣になってませんか?」
心配そうな声をあげる。
大丈夫だと伝えれば、ほっと安堵の息を吐いた。
ぶつけた痕などそのうち自然に消えていくとはいえ、年頃の少女だ。
痣になるのは嫌なのだろう。
それよりも気に掛かるものは、不自然な癖のついた11の前髪だ。
おそらく傷の具合を見るためにスコールが抑えた時についた癖だろう。
武器を手に戦うことのない彼女は思わぬ痛みに涙を浮かべたりしたのではないか。
手当てをするにも彼女に触れなければできないことだ。
それこそ現在のような至近距離で。
仮にこれがスコール相手ではなかったらどうだろう。
ティナは論外だが、他の者達でも同じくスッキリしない。
己自身の気持ちは充分理解している。
だから胸がざわつくのだ。
「ウォーリアさん」
そろそろ行きませんか、と11が声をかけてきた。
「そうだな…」
前髪を上げている11の手を抑え、ふいに額に口付ける。
一瞬震えたがその後動く様子は無い。
少し顔をあげて彼女を窺えば、目を固く閉じている。
耳が真っ赤だ。
望んだ通りの反応を示してくれる11に微かに笑みを漏らす。
そろそろと目を開く11と視線が重なった。
傷が痛むかと尋ねれば、首を横に振る。
「私にこうされるのは、嫌だろうか?」
11の自分に対する想いも知っている。
そうでなければこんな事はしない。
目を伏せ恥らうように再び首を横に振る11。
このような顔を見れるのは自分だけでいい。
他の者には決して見せないで欲しい。
子供じみた想いだが、これくらいは許されるだろう。
-end-
2009/5/9
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