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Es gibt Schuld auf beiden Seiten


「本当に、バッツの奔放ぶりにも困ったものだよねぇ」

そう11が溜息を吐く。
齢二十歳にして少年の如く何にでも興味を湧かせ、その物事に対して無謀……果敢にも向かって行く様をそう捉えることのできる11は大分バッツに感化されたものだと思う。
本日の散策には、バッツは来ていない。
なぜなら彼の唯一の弱点ともいえる(といっても、そう装っているようにも見えるのだが)ウォーリアに捉まっているからだ。
なんでもひとりひとりと鍛錬の交渉をするよりも、バッツひとりで結構賄えると思い至ってのものだという。
彼の人を真似た多彩な技は、多彩といえどもオリジナルのものと遜色はない。
それに加えて続けて繰り出される技との兼ね合いは巧妙なものだ。
レベルも上がり、あまり手を焼く相手のいないこの界隈ならば打って付の相手だと思う。
バッツもバッツで己の有用性を理解しているのか、少しばかりの難色を示してはいたがウォーリアの頼みを無碍に断るわけにもいかずに、渋々と言った様子で修練の場へと連れ立って行った。
そんなことがあり、今日と言う日は久しぶりに11とふたりでの散策になった。
横恋慕と言われようが(ジタン談)ひそかに思いを寄せる相手と過ごせるのだから自分にとっては喜ばしいこと、なのだが……。
11から齎される話題はバッツのことばかり。
せっかくふたりきりなのだから、と思ったところで11が自分の気持ちを知るはずもないのだから如何ともしがたいもの。
だからといってこちらから振る様な話題などもなく、もどかしい思いを過らせつつの散策となっていた。

「だから、私としてはね……ってスコール、聞いてる?」

11が小首を傾げて見上げてきた。
聞いてはいる。
クラウドをチョコボに見立てて餌付けの真似事をしてキレさせただとか、オニオンの帽子の羽を邪魔だろうからと毟ろうとしたことだとか。
自分にとっては非常にどうでもいい話だ。
だが、恋人たる11にとってはそうもいかないのだろう。
静かに怒りを露わにするクラウドを宥めてみたり、羽の綻んだオニオンの帽子をティナと共に繕ったり、11を盾にすれば大概が許されるものだとでも思っているのだろうか。
確かに彼女を挟めば相手の義憤は半減する。
次から気を付けさせるから、と11が困り顔で誤れば許さざるを得なくなってしまうのだ。
そうして、最終的にはウォーリアの厳重注意の言葉で収まるのもいつものこと。

「…どうして、バッツなんだ?」
「え……?」

立ち止まり、11を見下ろす。
風に揺れる柔らかそうな髪に触れることは適わない。
滑らかな頬に手を滑らせることも。
瑞々しい唇は、問われたことに対して紡ぐ言葉が見つからないのか薄く開かれたままだ。
それだって、自分のものになることはない。
11の全てに触れる権利を持っているのはバッツだけ。
思わず、握った拳に力が入る。

「11を、困らせてばかりいるだろう、バッツは」
「あぁ、うん。そうだよねぇ」

苦い笑みを見せてくるが、それは心底呆れているようなものではなく、温かく見守っているかのようなもの。
何でそんな顔をすることができるのだろうか。
自分だったら、あそこまで人に迷惑をかけた者を庇う気になんてなれない。
自分の事は自分で責任を取るべきものだと思うし、結果は全て自業自得。
それが仲間であっても自己責任は当然のものだ。
ましてやバッツ自身、相手がどんな反応を返すのか知っていて仕掛けている節もある。
自分だってよくその犠牲になっていた。
そのたびに、やはり11が緩和剤の役目を果たしていたから衝突することなどはなかったが……。
仲間として力量的には頼もしい人物ではある。
しかし、信用するに足るかと言われれば即答は出来かねる。
そう自分は評している人物に、なんだって11が好意を寄せているのか不思議でならない。

「でも、まぁ、それがバッツだし?」
「そうやって、バッツだから仕方がないと甘やかしている結果が今のバッツなんじゃないのか」
「甘やかしてなんか……」
「甘やかしているようにしか見えないがな、俺は」
「……スコール、今日はいつにも増して冷たくない?」
「それは、あんたがバッツのことばかり……」

と、言いかけて口を噤む。
バッツのことばかり話すから、などとは口が裂けても言えるわけがない。
そんな子供染みた感情に任せて自分の想いを打ち明けてしまうような情けない行為だけは。

「……たまには放って置くことも大事なんじゃないのか」

どこかで11がバッツを庇うことをやめなければ、バッツの奔放すぎる行動を制御することはできないだろう。
全てが全て、バッツのフォローに立ち回る必要はない。
時には突き放すことだって必要なはずだ。

「なんか、お父さんみたいだね」
「……は?」
「子供を見守る親的な?」
「……」
「スコールってば優しー。けどねぇ」

と11が続ける。
バッツの我儘も、奔放な行動も、それを含めてバッツなのだし、だから彼に惹かれたのだと11は言う。
この期に及んで惚気話を聞くことになるとは手痛い打撃だ。
だが、話を折らずに耳を傾ける。
実際のところ、バッツのああいった行動は11がいちいち庇う必要性など欠片もないらしい。

「私が口を挟むのは、それこそ自己満足のためだけなんだよ」

お互いを想いあう仲とはいえ、周りが思っている以上に自分達はそれほど依存し合っていない。
それにどちらかというと離れている時間の方が多いくらいで、そうと見えないのは一緒に行動している時の態度によるものかもしれないと言う。
言われてみれば、ふたり一緒に居る時にはこちらが辟易とするほどべったりといった具合だ。
そういった様子はいくらでも思い出すことができる…が、思い出せるということは、それくらいの頻度でしかないということじゃないだろうか。

「だからその分、ちょっとした恋人らしい気分というか」

そういった時にしか <バッツのために動く> という機会はないのだと言う。
大抵のことはバッツ自身でこなしてしまうし、仲間とのトラブルだって、本来ならバッツが自分で何とか宥めすかせることのできる範囲なのだ。
それをあえて11が担うことで、短い時間の中でお互いの関係を補っているというのだが。

「巻き込んじゃっている皆には本当に悪いとは思うよ」

だから誠心誠意謝りに向かうし、その後仲間達の代わりにバッツへと苦情を言うのも忘れない。

「でも、ありがとうねスコール。私のこと心配してくれてたんでしょ」

そんなカンジだから大丈夫だと、何やら照れくさそうに11が笑みを零す。
が、違う。
違うんだ、11。
バッツの性質上、11が謝りたいから、恋人らしい雰囲気を味わっていたいから、と任せているはずがない。
大抵のことはバッツ自身で賄える。
これに集約されているじゃないか。
今日の鍛錬だって、ウォーリアが言い出したこととはいえ渋々ながらも赴いて行ったのは、隙あらば別な技を取得しようという試みからだろう。
仲間達への悪戯心という行動もだ。
その場で謝罪すれば何て事のないものばかり。
なのに、それをあえて11に任せているのは、バッツ自身のためだけに他ならないんだ。
11の驚く表情を引き出して、謝罪に回る困った顔を浮かべさせて、バッツへと苦言を呈す面立ちを誘い出すこと。
11の一連の行動は、全てバッツの手のひらの上で転がされているだけに過ぎないということに気が付いて欲しいのだが……。

「11……」
「おぉ。いたいたー」
「あれ、バッツ」

ガサガサと木の葉の揺れる音を立てて姿を現したのはバッツだ。
樹の上からの登場に、11が驚いたように目を瞬いている。

「もう鍛錬終わったの?」

樹から飛び降り、地に着地したバッツが11の方へと歩み寄って来る。

「せっかく11と同じ陣営なのに、そんなに長引かせはしないよ。さすが俺だよな」
「ウォーリアは?」
「粗方満足したみたいだったけど……、あぁ、スコール」

自分など存在すらしてないかのように交わされていたふたりの会話中に不意に名前を呼ばれた。

「ウォーリアが、次はスコールと手合せしたいって」
「…なんでだ」
「なんでって俺に言われてもなぁ」

バッツが苦笑を漏らす。
自分でもおかしなことを聞いてしまったと思う。
ウォーリアにはウォーリアなりの考えがあってのことなのだろうし、それをバッツがいちいち知っているわけもないだろうに。
不意をついて出た間抜けな返事に自己嫌悪を抱いてしまう。
呼ばれているのなら早々に向かった方がいいだろう。
例えバッツが11とふたりきりになりたいがための方便だったにしても、この場に居続けたところで精神が削り取られる光景を目の前で繰り広げられるだけなのだし。
宿営地方面へと進路を変え歩みを進める。
そんな自分に11が 「いってらっしゃい」 と明るい声音で言葉投げてきた。
それに軽く手を上げ応える。
さて、鍛錬だ。
思考を切り替えなければならない。
あの光の戦士はいつだって一直線で一本道だ。
横に反れることは許さないと言わんばかりにその剣筋には彼の実直たる性格そのものが滲み出ている。
自分としては、少しばかり苦手な相手だ。
どう立ち回るか、とこれから行われるであろう手合いに向けて頭を回していると、またしても不意に自分を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると数メートルと離れた先のバッツが手を振り上げ、駆け寄ってくる姿が見えた。

「言うの忘れてたんだけどさー」

自分のもとまで辿り着いたバッツが、そう肩に手を置いてきた。

「あの程度で11を揺さぶろうったって、無理だと思うぞ」

あの程度……と言われて咄嗟に浮かんだものは、さっきまで11と話していた内容だ。

「バッツ、どこから聞いていた」
「さあ?どこからだろうなぁ」

にやにやとした笑みは本当に人を腹立たせるのには最適だと思う。
思わず一発殴りつけてしまいたい衝動に駆られてしまうが……。
いや、それよりもだ。
そもそも気配を悟らせずに後を付けていたことに驚きを隠せない。
宿営地を出た以上、周りの様子を常に気に掛けてはいた。
なのに、ついさっき、姿を現すまでバッツの存在に気が付くこともなかったのだ。
自分は未熟ではない、とは言わないが、それにしても……。

「11には、率直に言わないと気が付いてもらえないからな?」
「そんなつもりは…」
「前にも言ったじゃんか。見てるだけで満足なのか、ってさ」

ふと、以前のそんなやり取りを思い出す。
自分の欲しいものは手に入れたいし、いつだって触れていたいものだとバッツが言っていたことを。
言葉に違わず、バッツの傍には11がいる。
しかし自分は……。
あれからも、自分は何一つ変わっていないんじゃないだろうか。
いつも11を目で追って、好きだという気持ちばかりを膨らませて。
言葉に出したことなど一度としてなかった。
しかしそれは11にはバッツがいるからだ。
じゃあ、バッツがいなかったら?
バッツと11の関係がただの<仲間>だったとしたら、自分は11に想いを告げることができたのだろうか。
……わからない。
素直な言葉を苦手としている自分が、率直な言葉ではないと気が付かない11に想いを届けるようなことができるのか。

「それにさ」

ポンと、軽く肩を叩かれてバッツの手が肩から離された。

「あいつ、ああ見えてMだからな?」
「は……?」
「うん。おまえもMっぽいだろ?だから、たぶんちょっと11の相手は難しいかもと思うんだけどさ」
「そんなことは聞いていないし、聞きたくもない」

盛大に溜息を吐く。
人が真剣だというのに、せっかくの話しが台無しじゃないか。
いや、それもバッツらしいと言えばバッツらしいのか。
そう思えてしまえている自分も11のことは言えずに大分バッツに感化されてしまっているらしい。
だが、それとこれとは話しは別だ。

「……ウォーリアが待ってるんだろ」
「お、そうそう。まぁ、頑張ってこいよ」

話しを区切らせ、止めていた足を再び動かし始める。

人を欺くよう潜ませた気配といい、11のことといい、敵わない、とは思えど諦めるなんてことは以ての外。
それに 「好きでいたって構わない」 とも言われている。
何が起こるかわからないこの異界。
それは人の気持ちにだって言えることじゃないだろうか。
だからバッツに何と煽られようが、いつの日か報われることがあるよう願いながら自分のやり方で11との関係を続けていこうと思う。

-end-

2013/4/16 e様リク




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