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草木が風にそよぐ。
さざめきが体に心地よく響き、明るく身に降り注ぐ日に手を掲げた。
どれくらい歩いて来ただろうか。
微かに望むあの影は、城。
城下町に辿り着けば、なにか手がかりがあるのかもしれない。
この身に欠如している記憶の欠片。
そしてこれから、己自身が何をすべきなのか。
日を受け輝きを増す、クリスタルの光にそんな確信を得て歩みを進めていく。

右手に湖。
左手には生茂る木々。
美しい場所なのだと、あらためて仰ぎ見る。
しばしそんな素晴らしき景色を堪能していると、視界に何やらあるものが入り込んできた。
野生の獣だろうか。
目を凝らして姿を映す。
長らく旅をしてきた身からすれば今更珍しいものでもないのだが。
羊か?
白く彩られた姿態。
しかし、それにしては特有のふくよかさには些か物足りないような…。

…いや違う。
あれは、獣なんかではない。
あれは、あの姿は。

高まる鼓動に、足を早める。
近づくにつれ、その姿ははっきりと見て取れて。
自分らしからぬ言動だとは充分承知している。
だが、そんなものは関係ない。

「11!」

声を張り上げ、愛しき者の名を呼ぶ。
その声に気が付いた白いモノが、ゆっくりと被っていたフードを取り去った。

あぁ、やはり。
彼女は紛れもなく、この腕に抱いたただひとりの。
木に寄りかかっていた彼女の腕を捕り、抱き締める。

彼女の香りに、心が安らぐ。
彼女の柔らかさが、とても愛しく、望んでいたものだということを知らせてくれる。

「ウォーリアさん」

そうだ。
彼女は自分をそう呼んでいた。

募る想いに思わず力が篭ってしまったのだろう。
苦しいと11が辛そうな声音をあげてきた。
力を緩める。

「すまない。迎えが、遅くなってしまったようだ」

彼女の存在が傍にないのだと気が付いてから、既に幾つかの月日が経っていた。
探せども探せども、愛しい者の姿はなく。
なぜ居ないのだろうかと疑問を抱きもしたが、決して諦めることはなかった。
そして、ようやく今、こうして抱き締めることが叶った。

「私も、ずっと探してたんですよ」

そう11が微笑む。
待っているだけはイヤだから。
色んなところを巡ってきたのだと11が紡ぐ。

「それで、不思議な夢を見たんです」

よくは思い出せないけれど、でも、とても大事な夢だった気がするという。

「…そうしたらウォーリアさんが、私を呼ぶ声が聞こえて」

目が覚めたら、かけがえのない貴方がいたと胸に顔を埋めてきた。

「やっと見つけました。私の探していた」
「私もだ」

額に口付け、頬を撫でやる。

もう離さない。
この温もりも。恥じらいにはにかむ微笑も。
これからはずっと共に。

愛しき君と歩んでいくことを誓い、そっと唇を重ねた。


-完-

2010/11/17




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