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照査

「そういえば11ってさ、背、高いよな」

そんなバッツの一言に、ふと会話に耳を向ける。

「そうなのか」
「そうなのかって…女にしては結構高い方だと思うけど」

なぁ、とバッツがジタンに話をふれば、些か苦虫を噛み潰したかのような面立ちを覗かせたジタンが同意に頷いた。

「レディにしちゃあ、高い方だと思うぜ。まぁ、だからといってレディには変わりないし俺は構わないけどな」
「高いのか、私は」
「何の話だい?」

11に軽く流された言葉にジタンが肩を落としていると、そこにセシルが加わってきた。

「私は、背が高いらしい」
「ん?あぁ、そうかもね。女性にしては高い方かも」

それからセシルは辺りを見回した。
首を横に振って、一点に目を止める。

「ほら。女性だったらティナくらいが平均的なんじゃないかな」

そう言われた11がティナへと目を向けた。
ティナと、オニオン、そしてクラウドの一行。
その隣にはティーダとフリオニールがいる。
ティナとクラウドの差はおよそ10cmほどだろうか、その位の差はありそうだ。
ティーダも同じくらいだろう。
オニオンは背が高い低いの話以前にまだ子供だ。
フリオニールは、あの中で飛びぬけて高い。

「ティナが平均的だというのなら、確かに私は女にしては背が高いのだろうな」

測った事なんてないからどのくらいかは判らないが、あの中だったらフリオニール以外は皆視線が少し下に行くと11が言う。
そんな11に、そういえば俺も少し上目かもとバッツが11と背中を合わせた。
どうやら身長を比べるらしい。
ジタンはそれを羨ましそうに眺めている。
そしてセシルの手がバッツの頭の上に乗っかった。
その手を横にスライドさせて……。

「あぁ、やっぱり」

セシルの手が、11の後頭部へと止まる。
丁度、手のひら一枚分の違いで11の方が高いようだ。
それから、ふと思い出したかのようにセシルの視線が自分へと向けられてきた。
目が合い、手招きをされる。
これは…来いということなのだろう。
しかし、目があってしまった以上無視することはできない。
だから身長がどうしたというのか、とは言い出せずに仕方なしに彼らへと歩み寄って行く。

「聞こえてた?今、身長の話をしていてね」

スコールはどう?とセシルが11と背中を合わせるよう促してきた。
バッツが11の背後より避けて場所を明け渡してきたのだから、これは並ばざるを得ないだろう。
無言で11の背後へと佇む。
ピタリと寄り添う必要はない。
大方の差がわかれば満足なのだろうと思ったからだ。
しかし、セシルの手が自分の頭頂部に宛がわれたや否や、何やら唸り声が聞こえてきた。

「うー…ん?スコール、もう少し姿勢良くして」

で、ちゃんとくっついて、とセシルが自分と11を引き寄せる。
ピタリと合わさる自分の背中と11の背中。
衣服越しとはいえ少なからずの想いを抱いている者との接触は自分らしくもなく緊張する。
あまつさえ、その少しの動揺に揺れた手が11の手に触れてしまった。
お互い、手袋をしているからこっちもまた直接触れたわけでもないのだが……。
あぁ、駄目だ。
どういった顔をしていればいいのか判らない。
思わず眉間に力が入っていくのが自分でもよくわかるのだが、それを見ているジタンが何やら知った顔でニヤニヤとした面立ちを向けてきた。
しかし、何とも言い返す言葉がないのが悔しい。
そんなキリキリとした思いを噛みしめていると、バッツから声が上がった。

「11、スコールと同じなんだな!」
「うん、本当。キレイに水平になるもんだね」

サワサワと、セシルの手が11と自分の背を比べるように水平に頭頂部を行き来する。
同じ、か。
そういえばわざわざ意識をしたことなどはなかったが、思い起こしてみればジタンやオニオン、ティナはともかくクラウド、ティーダ…バッツ辺りは少しばかり目線が下だったような気がする。
反してセシル、フリオニール、そしてウォーリアは確実に見上げているのは確かだ。
11はといえば…そういったことなどなかったように思う。
話すときなど、真っ直ぐ目を見やれば11も自分に真っ直ぐと目を向けて来ていたのだから、同じ身長だということに納得はいくもの。
だがやはり、だから何なんだということしか頭に湧いてこない。
背丈が低かろうが高かろうが、多少の不利有利はあるだろうが戦いに支障が起こるわけではないのだから。

「もう、いいか」

そう11の背から身を離そうとした時、ウォーリアがやってきた。
背中合わせに突っ立っている自分と11を見やり、何をしているのかとセシルに訊ねている。
そんなウォーリアにセシルが事の経緯を話しているのだが……頭頂よりセシルの手が離れた。
立ち入れ替わる自分とウォーリアの位置。
そして合わさるウォーリアと11の背中。
なんの戸惑いもなく11の背中へと密着させたウォーリアが羨ましくもあり、少し妬ましくもある。
自分なんか如何に緊張したかさすが眩しいやつは違う…と、自分の心の声も余所に、再びバッツから声が上がった。
今回はジタンも声を上げている。
ふと、背中合わせのふたりへと目を向ける。
セシルの手は、11の頭だ。
その手は水平に、ウォーリアの後頭部半ばに止まっていた。
やはり、大きい。
自分が見上げるだけはある。
とはいっても確認した今自分と11は同じ身長であることがわかったのだから、それは11の視線の先も同じということだ。
…………。
ふたりだけの共通点があるというのも悪くはない。たかだか身長だが。
そんなことに満悦な思いを抱いていると、セシルがスコールは身長何cm?と首を傾げて話を振ってきた。

「…177だ」
「じゃあ、ウォーリアは……だいたい190くらいかな」
「ってことは、単純に引いて13cm差か」

いい感じじゃないのか、とはジタンだ。
ジタンの言う”いい感じ”とは……と思い出す。
以前、ティーダとジタンがどこからか拾ってきていた俗物的な雑誌を。
こんな世界にそれは果たして必要な情報を齎してくれるものなのかという疑問はさておき、見る事こそしなかったが、漏れ聞こえてきた会話からは何となく内容はわかった。
男と女がどうたらこうたら、意中の女を射止めるには等々、その中に背丈の話題があがっていた。
男の平均身長と女の平均身長。
そして、理想的な身長差は、というものだ。

「本当、理想的な差だよね」

お似合いじゃないかなふたりとも、というセシルの言葉が頭に木霊する。
あの本の情報によれば理想的な身長差というものは約15cm差。
目測おおよそ13cm差など微々たる誤差であり、ウォーリアと11の身長差はまさしくその”理想的な身長差”というものに当て嵌まる。
なんてことだ。
同じ身長だ、とそんなことに小さな喜びを見出していた場合ではない。
ただでさえ年下だということに引けを感じているというのに、背丈でさえ11の先を取れていないということだ。
しかしながら、これだけは言える。
自分は決して身長は低くはない。
それどころか、その雑誌情報による平均身長よりは上だ。
だが……。
チラリとふたりを見やる。
その自分よりも遥かに高いウォーリア。
女の平均身長とやらを大きく上回る11。
しかしここまでくると、もはや背丈が何cmだろうが関係ない。
要はその差の問題だ。
何やらウォーリアへ話しかけている11の視線は上へと向いている。
対してウォーリアの視線は下へと向けられたもの。
お互いが凛としている雰囲気もさることながら、こうしてふたり並ぶ姿は様になっている。
悔しいが……セシルの言うように、お似合いではないだろうか。

(……くそっ)

誰に対しての悪態でもないが、どうしようものない遣る瀬無さに自分ひとりその場を後にした。



蟠りの燻る心中を抱え足の向くまま散策していると、ふと、11が自分を呼ぶ声が聞こえた。
あの場から離れて、そう時間は経っていない。
ということは、急に去ってしまった自分をわざわざ追いかけて来てくれたのだろうか。
嬉しいは嬉しいが…だが、なぜ、という疑問も過る。
しかし、そんな疑問は聞くまでもなく、11が答えてくれた。

「ウォルが心配していた。スコールはどうしてこう無暗にひとりで突っ走って行ってしまうのかと」

まぁ、私も同じ思いだけれどという11の言葉に深い息が漏れてしまう。
やはり自分は11にとっては年少の保護対象者としか扱われていないのだろう。
ひとりでも構わないがせめて一言くらいは告げて行くべきだとか、若いうちの無茶も時と場合にもよるものだという説教じみた言葉の数々。
真っ直ぐに、上にも下にも移動のしない11の視線。
これがウォーリアが相手ならそもそもこんな注意事などまず口に出さないだろう。
対等な言葉を交わして、上に位置するウォーリアの視線へと見上げて。
どれも、自分では適わないこと。
そんな焦燥感からか、不意に11の腕を掴んでしまった。
咄嗟の出来事に、11が少しばかり目を見開く。
しかし相変わらず冷静なのか、篭ってしまった自分の力に動じることはない。

「どうしたんだ、スコール。今日は手袋は間違えていないよ」

自分のものだから心配するなという11に首を振る。

「なら、何だって言う……」

言葉を紡ぐ11の腕を強引にも引っ張り、抱きしめる。
そして11の首筋へと顔を寄せて。
自分の成すがままに抵抗を示さない11に気を良くしてそのまま首筋へと唇をつける。
すると、ふと11の腕が動いた。
やはり拒否されてしまうのか、と身構えた自分とは裏腹に11の腕は自分の背後へと回った。
そうして軽く抱擁される。

「11…」
「デカい図体のくせに、甘えたがりなんだな、おまえは」
「……デカくはないだろう。デカいというのはウォーリアとかその辺りで」
「同じ身長だが、私よりも随分としっかりとした体格をしているじゃないか」

充分デカい範囲だよと11が笑う。
そういえば、と11に回していた腕に少しばかりの力を込める。
肉質は日々の鍛練の賜物か少々硬いが、男の硬さとは随分違う。
細い体躯はしっかりしてはいるものの、男の骨格のようにガッシリとしたものではない。
スコール少し苦しいという11の言葉に、ハッと腕を開放する。

「やはり筋力の差は男女ではどうしても埋められないものだな」

これはもっと剣技の腕を磨かなければならないと11が苦笑を零す。

「それにスコール。おまえはまだまだ成長期だろう。私が背を越されてしまうのもそう遠くはないのだと思う」

あぁ、まったく悔しいものだと今度は溜息を吐いた。
悔しい?
悔しいとは、何でだ?
男の自分が差の無さにもどかしい思いをしているというのに、なぜ11が悔しく思うのかと疑問符が浮かぶ。
そんな自分に11は再び苦笑を向けてきた。

「だって、そうだろう。対等だといえるものは背丈ぐらいしかないんだから」

それがいつの日か越されてしまうだなんて少しばかり悔しいものだと11が言う。
あぁ。そうか。
成人を超えている11は、もうこれ以上背が伸びることはない。
しかし自分は未だ成長期。
今後まだまだ伸びる可能性はあるわけだ。

「そういえばスコール。ありがとう」
「……?」
「自分の身長を知ることができた」

未だかつて測った記憶などないからなんとなくハッキリして良かったと言う。
だからといって自身の背丈の大きさなど別段気にしているわけではないが…。
そして、それと、と言葉を紡いできた。

「あんまり大きくなってくれるなよ」

これは私の我儘だが、と真っ直ぐに視線を向けてきた。

「ああやって身長を比べて思ったんだがな、あらためて見下ろされるのは案外気分が良くないものだ」

全くあの戦士の眼差しは、こう、何か見透かされているようで尚性質が悪いと辟易としたような息を漏らした11に思わず苦笑を漏らす。
確かに、ウォーリアのあの揺るぎのない目は同じ調和の仲間といえども時々恐ろしいものと感じることがある。

「だが、成長だけは自分でどうにかなるものじゃないだろう」
「うん、そうだけどな。まぁ、もう少し現状の甘えたなスコールでもいいんじゃないのか」

……甘えたわけではないんだが……。
だが、そう紡がれるということは、自分はまだまだ11には男として見られていないという事なのだろう。
それはそれで悔しいものであり…むしろ身長差なんてものよりも、そっちの方が余程深刻だ。
まずは男として意識してもらえるようになる……その辺りが重要なのだということをこの一連の出来事で把握する事になった。

-end-

2012/5/21 ユリス様リク




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