DFF | ナノ




帰結



11は悩んでいた。
悩みの種は、とある人物についてだ。
とはいっても、問題を起こされたわけではなく、ましてや嫌われているということでもない。
むしろその逆である。


辿る事数日前。
久しぶりにバッツたちと合流した。
皆各々の無事を歓び合い、束の間の宴にと突入したときのことだ。
どこから用意してきたものか不思議なものだが、誰かがアルコール飲料を持ち出してきた。
成年組は当然ながらにそれを嗜み酔いもほろろに楽しんでいたのだが、ひとつ問題ができた。
もともと爛漫な性格ではあったが、アルコール成分が余計にそれを加速させたのだろう…と思いたい。
バッツが年少組に絡み始めた。
それでも不快な言動などは一切なく、ジタンやティーダあたりは陽気なバッツを華麗に受け流していたのだが。
受け流せない者が二名いた。

ひとりはスコール。
いつも以上のしつこさで絡んでくるバッツに、一応場の空気を読んでかただひたすら無言で堪えていた。
あれがスコール流の受け流しなのだと11は自分にそう言い聞かせてはいたが、眉間に深く刻まれて行く皺にいつスコールが切れ出すか気が気ではなかった。
内心ヒヤヒヤとしたものを抱えながら様子を窺いつつも、11も穏やかに呑むセシルとそれなりに楽しい一時を過ごしていた。
それからしばらくの後、何の反応も示してこないスコールに飽きたのかバッツはフリオニールの元へと寄って行った。
酔っ払いの戯言を受け流せない者の2人目である。
それに加えて、日頃行動を共にしているわけでもないのだから対バッツへの耐久性は無いに等しい。
ジタンたちのように受け流すでもなく、スコールのようにだんまりを決め込むでもなく、根も葉もない話にしどろもどろになりながら相手をしていたのが、バッツの気を良くしてしまったのだろう。
話の内容までは11には聞こえなかったが、おそらくそういった話の流れになったのだと思う。
そうでなければ今こんなに悩むはめになることはなかったのだろうから。

11を呼ぶバッツの声に顔を向けると、フリオニールがなにやら必至にバッツを止めようとしている姿が目に映った。
バッツの口を塞ごうと慌てているフリオニールに、それを圧し留めて満面の笑顔を向けてくるバッツ。
一体何をやらかしたのだろうかと11が首を傾げていると、爆弾発言がバッツの口より投下されてきた。

「こいつ、おまえのこと好きだってー!」

そう嬉しそうに手を振ってくるバッツに一瞬11の思考が止まった。
それからバッツの背後に佇むフリオニールに目を移す。
なんとも困った面立ちを浮かべていた。
だが、そこまではまだ良かった。
図らずも自身の想いをばらされてしまったフリオニールの心境を思えば納得できる表情であるし、少なからず…いや多大に11もフリオニールに対して淡い想いを抱いていたのだから。
後でこっそり11からもフリオニールに想いを告げようと、今は高鳴る鼓動を密かに胸に閉まってこの場は軽くやり過ごそうと、そう思っていたのだが。
何を思ってなのか、そんなバッツの行動にティーダが乗ってきてしまった。

「じゃあ、付き合っちゃえばいいっスよ!だって11も」

と参戦してきたティーダの口を11は慌てて塞ぐ。

「ちっ、ちょっとっ。…ていうか、何言ってんの?!だいたい、不謹慎でしょ、好きとか付き合うだの、もっと他に……」

慌てて紡いだせいなのか、11の口からそんな言葉が漏れてしまったのだが時既に遅しである。
11の言葉に、そうだな、不謹慎だったな、すまない、と肩を落として己のテントに去っていくフリオニールに、もうお開きにしようかと皆をテントに促すセシル。
バッツは満足したのかそのままそこで寝てしまったし、気まずい空気の中その場はお開きとなった。


それからである。
11が頭を悩ませているのは。
フリオニール本人の口からではないが、彼が11に好意を寄せてくれている事がわかったことは嬉しい。
だが状況が悪かった。
仲間たちの輪の中で、フリオニールの想いに返事ができるほど11は神経が図太くは無い。
かといって、11自身のあの発言もどうだっただろうか。
本当は不謹慎なんてことは微塵も思っていないくせに。
日頃どれだけフリオニールのことについてティーダに話していただろうか。
カッコイイだとか、あの仕草が好きだとか、声も好みだしどうしよう…などとそんな11の話を聞いていたからこそティーダだってフリオニールの気持ちに喜んで、ああ言ってきたのだろうし。

(でもさぁ、あーいう時にはもうちょっと空気読むべきだよねー)

そんなことを頭に11は溜息を吐いた。
これからどうするべきか。
あれから数日経ったが、やはりあの場を引きずり未だフリオニールと顔を合わせられずにいた。
皆よりも早起きをしてひとりで出かける。
そうしてしまえばとりあえずはフリオニールと顔を合わすことはない。
出先で姿を見かけても、気付かれないうちに去ってしまえばいい。
戻ってくる時だって、早めに出かけた分早めに戻るか、いっそのこと遅くに戻ってテントに篭ってしまえばやり過ごす事が出来る。
どうしようもないことだとは思っていても、会わす顔がないのだから仕方がない。

しかしいつまでもこんな状態を続けていくわけにも行かないだろう。
この近辺の散策が終われば、また新たな場へと移動しなくてはいけない。
仲間たちと行動を共にしている以上ひとり身勝手な行動はいただけないことなのだし、そうなると顔を合わせることは免れない。
11の脳裏に、申し訳なさそうな顔をして去って行ったフリオニールの姿が呼び起こされる。
想いを寄せる人物に、好きなどと言っている場合ではない、なんて言葉を向けられたら辛いだろうことは11自身にもよくわかっている。
そのうえ数日も避けられていたともなると余計に辛さは増すだろう。

(……謝らなきゃ)

本当ならばすぐにでも謝るべきだった。
咄嗟に出た言葉とはいえ、心にも思っていないことを紡いでしまった事を。
そのせいでフリオニールを傷つけ、そんな彼の姿を見たくないからと逃げてしまっていた己の傲慢な行動。
今になってようやくそこへと考えが至り、11は即座にテントを後にした。




今日で何日目だろうか。
11と顔を合わせていないのは。
そんなことを頭に、フリオニールは武器の手入れをおこなっていた。
深夜も近い時間帯であるが、どうにも眠気が訪れない。
あの出来事から、ずっとこんな調子だ。

眠ろうと横になってみても睡魔はなかなか襲ってこなく、何度も寝返りを打っては時間を凌いだ。
ようやくうつらうつらとしてきた頃に聞こえた誰かの足音。
そっとテントから外の様子を窺うと11がひとりで出かけて行く様を見かけた。
朝も早くに、たったひとりで。
それが何日も続いたとなれば避けられている、と捉えてもいいのだろう。

しかし避けられても仕方がないのかもしれないとフリオニールは思う。
バッツの誘導されるかのような話術に、あしらいきれずに答えてしまったのはフリオニール自身の責任だ。
誤魔化す事だってできたはずなのに。
結果、バッツに暴露されてしまった。
それも他の仲間たちのいる前で。
酔っ払いの言っていることだからと、笑って一蹴すれば良かったかもしれない。
そうしておけば、ここまであからさまに避けられることなんてなかったのではないだろうか。
でもそれができなかったのは11と目が合ってしまったからだ。
驚いたように目を瞬かせていた11の面立ちに、こんな顔もするのかという場違いな思考が過っていた。
それに11への想いは否定したくなかったのもある。
それがフリオニール自身の口から出た言葉ではなくてもだ。
青臭い考えと言われようとも、気が付いた自身の想いには素直にありたい。
そう思ってのことだったのだが。
しかし11から返ってきたのは、不謹慎、との言葉だった。

(確かに、11の言うことももっともだ)

そう納得はできても、芽生えてしまった想いは簡単に無かった事にする事などできるはずもなく、こうして眠れぬ夜を過ごしているのだが。

ふと、テントの外から足音が近づいてくるのが耳に入ってきた。
出かけていたティーダが戻ってきたのだろう。
こうして起きているとまた余計な心配をかけてしまうと、フリオニールは道具を片付け始める。
しかし、足音の持ち主はいつものようにそのまま入り込んでくることはなく、テントの前で立ち止まった。
フリオニールが不思議に思っていると、テントの外から自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
一瞬、心臓が跳ねる。
ティーダの声ではない。
この声の持ち主は。
フリオニールは、予想外の来訪者に慌ててテントの幕をはぐった。
そこに佇んでいたのは、顔を俯け、肩を落とし、なんとも気落ちした様子の11だった。

「ど、どうしたんだ?11」

こんな時間に、と尋ねるフリオニールに、11は少しいいかとテントの外へと促してきた。
どうやらふたりで話をしたいのだという。
しかし幸いにもティーダは今外出中だ。
フリオニールは11にティーダは不在であることを伝え、夜風は体に障るからとテントの中へと招きいれた。
振られてしまったとはいえ未だ未練の残るフリオニールにとっては、11とふたりきりになるのは些か緊張してしまう。
それも自ら招いたとはいえテントという狭い空間でだ。
場違いな胸の高まりを押えながらフリオニールはテントの幕を下ろす。

「ゴメン」

不意にかけられた11の言葉にフリオニールは振り返った。
11が地面に座り込み頭を下げている様に驚き、慌てて顔をあげてくれるように頼む。
すると少しばかり姿勢は直ったが、11の顔は相変わらず俯いたままだ。

「あの、この間のこと。私、ヘンなこと言っちゃって」

咄嗟なこととはいえ、不謹慎だとか、思ってもいないことを言ってしまって申し訳なかったと11が紡ぐ。
そのうえ己の言葉で傷ついてしまった人物を見たくないからと、フリオニールのことを避けるなんて行動を起こして。

「余計に、フリオニールのこと傷つけちゃったよね。謝ってすむことじゃないってわかってるけど…本当にごめんなさい」

そう再び頭を下げる11にフリオニールは、胸が軽くなっていくのを感じた。
確かに11に避けられていたことは精神的に少しばかりキツイものがあったが…、その前だ。
不謹慎とは思っていないと、そう11は言った。
となると、自身が11に想いを寄せていたという行為自体が11に嫌悪を抱かせていたわけではなかったのだ。

「良かった…」

安堵の息とともに、そう漏れ聞こえてきたフリオニールの呟きに11が顔を上げた。

「好きだ、とか…そういう想いを抱えている自分に愛想をつかされたのかと思ってた」

だから避けられていたのだと思っていたと、フリオニールが苦笑を漏らす。

「あ、あの、ホント、そういうことは一切思ってなくて…好きになるのは、どんな世界でだって素敵なことだって思ってるから、その…」

ホント、ゴメンと何度も紡ぐ11の頭にフリオニールは手を宛がった。

「いや、いいんだ。そうじゃなかったってわかっただけでもだいぶホッとした。まぁ、振られたことに変わりはないんだけどな」

それはもう終わった事なのだしこれからも仲間としてよろしくな、と11の頭を撫でやってくるフリオニールに11は首を傾げる。
いつ、振っただろうか。
断りの言葉など一言も告げた記憶は11にはない。
いや、そんなつもりはなくとももしかしたら不謹慎という言葉自体が、その効力を発揮してしまった可能性はある。
だとしたらそれは大いなる誤解だ。

「あ!あぁああのフリオニールっ。まだ別に振ったわけじゃ…」
「ん?」

11の視線とフリオニールの視線がかち合った。
そして11はまたしても咄嗟に出てしまった言葉に後悔してしまう。
11もフリオニールに想いを寄せている。
それはもう、おそらくフリオニールが11を想う気持ちよりも上だと、そんな自負すらあるくらいにだ。
それなのにフリオニールに謝らなければとそればかりに必至になって、そもそもの11のそんな想いをすっかり失念していた。
しかしフリオニールはそんな11の想いを知るはずもなく、もう終わった事なのだからと事を済ませてしまっている。
これはここで誤解を解いてしまっておかないと、この先想いが交わる事なんてもうないのではないだろうか。
いや、でも、ここで想いを打ち明けるのは今までの流れの手前、それこそ不謹慎ではないのか。
11自身はいわずもがな、フリオニールにまで心苦しい思いをさせてしまっていたというのに、なんとも自分勝手な調子のよい話になってしまう。

それでも、だからこそ、という言葉が11の頭を過った。
心苦しい思いをさせてしまったのだから、それを償う必要があるのではないだろうかと。
振られたと思っているフリオニールが11に未練を残しているという確証はないのだが、もし今もまだ想いを寄せてくれているというのなら……。
11は合った視線をやや反らし、頭に置かれているフリオニールの手を降ろした。

「その、なんというか、……別に振ったわけじゃないというか……」
「振ったわけじゃない……?」

聞き返してくるフリオニールに11は頷いて返す。

「さっきも言ったけど、あれは言葉のアヤというか、皆の手前意地張ったというのか…あぁ思ってないのは本当で…」
「あ、あぁ」
「えーと…、なんだか自分勝手なことで本当にゴメン。あんなこと言った自分が言うのもどうかと思うけど、でもフリオニールが私のこと好きでいてくれたのはとっても嬉しくて」

こんな私だけれども、今でも好きでいてくれるのだろうかと11が問う。

こうしてあらためて聞いてくるということは、もしかしたら、とフリオニールの期待が少しばかり膨らんだ。
しかし、一方できちんとした断りの言葉を告げてくるのかもしれないという不安もある。
だが未練がましいと思われようが、人を想う心はそう簡単に捨てきれるものではない。
11の問いの真意は図りかねるが、フリオニールは己の心のままに静かに頷き返した。

そんなフリオニールの返事に11は深く息を吐いた。
これほど想いを寄せてくれているというのに自分は…との自責の念を篭めてのものだ。
息を吐き終わった11は、視線は反らしたままに口を開く。

「ホント、ゴメン。私も好きなんです。ごめんなさい」

そう紡いだ11の言葉に、フリオニールは自身の顔に熱が帯びてくるのを感じた。
しかしそれはフリオニールだけではない。
恥ずかしいのか、顔を俯けてしまった11の髪から覗いた耳も火照ったかのように赤い。
そんな11の様子を目にしたフリオニールは、やや落ち着きを取り戻したのか苦笑を浮かべる。

「別に謝る必要はないんじゃないのか?」
「いや、でも、状況が状況だったし…」

顔をあげない11の頭にフリオニールは再び手を宛がい撫でやる。

「嬉しいよ。ありがとう、11」

フリオニールのそんな行為に11は益々顔を赤らめていく。
蟠りを解くことだけでなく、想いが実るという結果に落ち着いたことがとても嬉しい。
これで晴れて相思相愛の関係となれたのだから。
となると、また別の意味での緊張が11の身を覆い込んできた。

頭を優しく撫でられているという心地よさ。
いつまでもこうしていたいと思ってしまう、都合のいい願望。
しかし、それに甘えているわけにもいかない。
ここはフリオニールのテントなのだし、今は居ないティーダの帰ってくる場所でもある。
それじゃあ、また明日、と己の都合の良い甘えに踏ん切りを付けて立ち去ろうとする11をフリオニールが留めてきた。

「まだ、いいだろう?その…せっかくだし、もう少し話さないか?」
「え、でもティーダ戻ってくるでしょ」
「あっ…い、いぃいや、そんなやましい事なんて考えてないぞっ、ただ普通にっ」

ここ数日ずっと顔を合わせていなかったのだから話したいことは沢山あるのだと、慌ててフリオニールが釈明する。
11も決してそんな意味を含んで言ったわけではないからと、慌てて応えた。
お互い気恥ずかしさに赤らんだ顔を俯ける。
気恥ずかしい…、でも訪れた幸せに胸が温かい。

ティーダが戻ってきたら眠るのに邪魔になってしまうからと、11は丁寧に今日のところはもう己のテントに戻ると告げた。
少し寂しそうな顔を覗かせたがフリオニールに11自身も同じ思いを抱きながら、就寝の挨拶を交し、11はテントを後にした。

ほんの僅かな時間だったが、フリオニールとまたいつもと変わらない調子で話せることができて11はとても嬉しかった。
それだけでも充分だというのに、本当に無駄な数日を過ごしてしまったと思う。
そして素直な言葉を紡げないことはお互いが不安になるものなのだと知ることのできた11は、これから先、どんな些細なことでもフリオニールには素直な思いを告げようと、そんな密かな決意を胸にした。

-end-

2011/1/11 サニー様リク




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