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当惑



「もどかしいな」
「うんうん。まったくもってもどかしいっスよね〜」
「あぁでも、フリオニールらしいんじゃないのかい?」

女の子に対して積極的になったら君らしくないよね、と首を傾げてきたのはセシルだ。
先日、晴れて自分と11は恋仲になることができた。
その経緯はといえば、クラウド、ティーダから投げかけられた ”もどかしい” という言葉が切欠だったのだが、その言葉は今も尚変わることなく自分に注がれている。
変わったことといえば、なぜだかそこにセシルが加わった、という辺りだろうか。
本人の見た目は然ることながら、物腰の柔らかな雰囲気に優雅な身のこなしを備えたセシルならば女性の扱いにも長けたものだろう。
そんな彼に積極的なのは自分らしくないと言われても、確かにあまり女性のことに関しては得意ではないのだから自分自身頷けるものはある。
だが、クラウド、ティーダはどうだろうか。
人にあれやこれやと言ってくるのだから、それなりにそれなりなのか…という疑問がある。
ティーダは見た目が軽く見える、といったら失礼かもしれんが、その見た目に合った明るさを持ち合わせているのだし、自分とは方向性の違う物怖じのなさからも囃し立てるのはわかるんだが……クラウドはどうなんだ。
明るいとは決して言い難いが皆よりは年長ということもあるし、セシル同様落ち着いてはいる。
なのになんで、こういちいちティーダと一緒になって絡んでくるのかがいまいち理解できない。
しかも常に真顔だし。
真顔で乙女心を説かれたところでこちらとしては、クラウドは果たしていろいろと大丈夫だろうか、としか思わざるを得ないんだが。

「…で、今度は一体なにがもどかしいっていうんだ」

溜息半ばに3人へと視線を向ける。
からかいなのか本気なのかはまず置いておいて、このふたりの計らいによって自分と11は想いを交せる間柄になったのだから、今となってはもどかしいも何もないだろう。
以前と比べて11とふたりで過す時間も増えてきているのだし、それこそ11の為、と言っていたのだから自分で言うのもあれだが良い結果になって一安心するべきところじゃないのだろうか。

「いやいやいや。つか、甘いっスよ、フリオニール」

そうティーダが肩に手を置いてくる。
そして、そんなだからやっと11と両想いになれたんだ、と溜息を吐いてきた。
もう片方の肩にはクラウドが手を乗せてくる。

「両想いになったからといって、それで満足なのか?」

男らしくないな、とクラウドもまた溜息を吐き、それから呆れたように首を振ってきた。
そんなふたりをセシルが宥めるように声をかけている。
意味わからん。
一体何なんだと頭を捻らせていると、そんな自分に気がついたセシルがこちらに目を向けてきた。

「両想いになって、じゃあ、フリオニールはどうしたいのかってことが言いたいんだと思うよ」

ね、とセシルがふたりに尋ねるとふたり揃って首を縦に振ってきた。
無駄に協調性があるな、とそんな感心はともかくだ。
どうしたい、と言われたって…一緒に過して、どこそこで誰と会ったのだとか、ウォーリアの鍛錬は厳しいけど身になるとか、そんな他愛のない話しをしているだけでも充分に満足なのだからどうもこうもない。
そう告げるとセシルがそれだけなのかと問い掛けてきたが、それ以外になにがあるって言うんだ。

「なんていうか、純朴なのも君らしくていいけどさ。それじゃあ今までと何にも変わってなくはないかい?」
「いや、まぁ…言われてみればそうだが……」

確かに、変わってはいない。
ふたりで話すにしろ、これまでも普通にやってきたことだし、恋人、らしくはないのかもしれない。
その、らしくない、あたりが3人からしてみたら ”もどかしい” ということなんだろうか。
だがそうは言われても相手はまだ子供だ。
そんな子供相手に想いを寄せるだなんてただでさえ不謹慎極まりない感情だっていうのに、それ以上望むものではない。
せいぜい手を繋いだり、頭を撫でやったりと、そのくらいが限界じゃ……

「それだ!」

とティーダが急に声を上げるなり肩をポンと叩いた。

「フリオの思想が危ない方行っちゃってちょっとヤバイと思ったんだけど、まともで良かったっスよ〜」

そうティーダが満面の笑みを覗かせてきた。

「俺たちだってさすがにそんな危険な思考は持ち合わせていない」

安堵の息を吐くクラウドに、セシルが苦笑を向けている。
あぁ、また一体なんなんだ?
危険とかヤバイとか、さっぱり意図が読めない……と、そこまで思って気がついた。
そもそも3人には11をどうこうしようという考えそのものがない。
まだ13、14歳の子供とも言える年頃なのだから当たり前だ。
対して自分はといえば恋仲とはいえ無意識のうちにそっち方面に思考が及んでしまっていたということだ。

「あっ、違うっ、違うからな、そんなことしたいだなんて微塵も」
「うん。わかってるよ。まぁ、落ち着きなよフリオニール」

なんだかセシルの苦笑に ”変態” の文字が見え隠れしているのは気のせいだろうか。
そして羞恥に赤らんできた顔を隠すように片手で覆ってみるも、クラウドの真顔の視線が痛い。
更に追い打ちをかけられているようで無性に居たたまれなくなってくる。

「で、話を戻すけどさ。手を繋いだりとか、ちゃんとやってあげてるのかなって」

その辺りを心配しているのだとセシルは言う。
想いが交わったからといって、それで満足して安心して、はいお終い…では、きっと11は不安に思ってしまうだろう。
それにいくらふたりで過す時間が増えたっていっても所詮は子供なのだし、相手からの想いを時間だけで汲める機微なんて持ち合わせてはいない。
そんな不安を埋めてやるためにも、そういった僅かな触れ合いだけでも持ってあげて欲しい。
11を大切に思っているのなら尚更だ。

「愛でてあげるのも、愛情だよ。子供っていったって女の子なんだし、好きな人からなにかしら褒められるだけでも嬉しいものだと思うけどな」
「そういうものなのか?」
「やれやれ。これだから女心のわからないヤツは困る」

そう再度溜息を吐くクラウドこそ女心というものを本当に理解しているのか怪しい所だが、セシルがそう言っているのだからきっとそうなのだろう。
そんな理解をセシルに返しているうちに、出掛けていた11とティナが宿営地へと戻ってきた。
ただいまと駆け寄ってくる11を向えるべく、3人の元を後にする。




「ただいま、フリオニール」

11がはにかんだ笑みでそう見上げてきた。

「あぁ、お帰り。だいぶ収穫あったみたいだな」

ティナとの探索は随分と捗ったものだったらしく、手に持つ袋の膨らみ具合からそれは窺える。
スゴイじゃないかと素直な感想を告げると、嬉しそうに照れた笑いを浮かべた。
その顔に、セシルの言っていたことはこれかと確信する。
大人しいながらもいつも笑みは絶やさないし、そんな彼女のひととなりの表れに癒されてはいたが、こう、嬉しい時の表情ってものはまた格別なのだと思う。
その11の嬉しさというのが、自分が与えたものなのだから尚更だ。
そんな思いにひとり満悦に浸っていると、11が何やら袋を漁りだした。
歩きながら漁るものだから非常に歩き難そうだ。
そのうえなかなか見つからないのか些か焦っているのだが、そんな様子が可愛いと思ってしまうのは惚れているからなのだろうか。
いつまで見てても飽きないだろうとすら思えてくるのだから、自分自身、思っていたよりも11に入れ込んでいるようだ。
しかしいつまでも眺めているわけにもいかない。
なかなか探ることの終わらない11を立ち止まらせて、彼女の代わりに袋を持つ。
そうすると幾分か探しやすくなったのか、すぐに目当てのモノを取り出してきた。

「ありがと、フリオニール。あとね、コレ。お土産なの」

そう言って11が手渡してきたのはだんちょうのひげだ。
……。
だんちょうのひげ?

「前、言ってたでしょ?ティーダたちが絡んできて仕方がないって」

だから運気を上げたらそれも解消されるかと思い、素材も丁度よくあったしと、取ってきてくれたらしい。

「それにね、EXコアもいっぱい出てきてくれるしね。一石二鳥じゃない?」

優れものだよね、となんだか嬉しそうに11が言う。
確かに優れものだ。
壊れる心配もなく運気を大幅に上げてくれ、かつ、コア出現率さえアップさせてくれるのだから。
だがしかし、恋人に渡す土産としてどうなのか、という疑問も過る。
11からのもらい物なのだから、それはとても嬉しい事であり自分の身を思ってのものだということも理解しているのだがなぜだんちょうのひげ。
気に入ってくれたかと聞いてくる11には、頷き返す。
品物はともかくも、嬉しいのは事実なのだし。

「ありがとうな、11」

そう11の頭を撫でてやると、不意に11の顔が固まった。
思わず慌てる。
いきなり不躾だっただろうか、それともこういったことをされるのがイヤだったのか、と手を放そうとしたら今度はその手を掴んできた。

「11?」
「うーん…なんか、恥ずかしいけど、心地いいかな、なんて」

思っちゃったりして、と顔を俯ける11の頬がほんのりと色づいている。
照れていただけなのかと安堵するとともに、こう心地よく思ってもらえるのならもっと早くから気がついてやるべきだったと少しばかりの後悔が過る。
ただでさえ言動が控えめな11なのだし、年長である自分がもっとよく彼女のことを気にかけてやるべきだろう。
それにこうしてちょっとずつでも触れ合う機会を積み重ねていけばクラウドたちからの ”もどかしい” って言葉もそのうちなくなっていくのだろうし。
それこそ11の言う、一石二鳥ってやつだと、そんなことを思っていると11から声がかかった。
乱れた髪に困惑の表情を浮かべている。
どうやら撫で過ぎのあまりに、髪を乱してしまったらしい。
慌てて誤りながら手櫛で髪を整える。

「ねぇ、フリオニール」
「ん?どうした」

整えている眼下から11の声がかかった。
相変わらず小さい。
まぁ、急激に成長されてもそれはそれでどうかと思うが、とそんなことを思いながら11の言葉の続きに耳を傾ける。

「ぎゅーっ、てしてもいい?」

との11の言葉に一瞬動揺するも、それを悟られないよう髪を整え続ける。

「ど…どうした?急に」
「うん。なんかね、こうされて、やっぱり大好きだなぁって思ってたら、抱きつきたくなっちゃった」

ダメ?と見上げて来る11に、鼓動が高まっていく。
駄目なことは、ない。
むしろ歓迎したいくらいなのだが…いやしかし、それは禁忌というのか己自身の未熟さゆえというのか。
そんなことをされてしまったら、いろいろとヤバイ。
自分から実践してみたこととはいえ、一度経験しているのだからヤバイことが避け様の無い事実なのは間違いない。
それに加えてクラウド、ティーダ…それこそセシルに見られでもしたら白い目で見られあまつさえあらぬ誤解を生むどころか ”変態” の烙印まで押されかねない。
それだけは避けたい。
避けたいが、そんな理由を11に話すわけにもいかないし、11に悟ってくれというのも無理な話だ。
しかし11の純粋な好意は受け止めたい。
どうするのが良策なのかと頭の回転をこれでもかと早めて、考える。

「あぁ、あれだ、11。ここじゃ他の仲間たちもいるしな」

11の髪を梳きながら、心落ち着け考え巡らせる。
そういえば誰だったか言ってたな。
髪に触れる行為というのは、意外にも体の関係の後に起こる行為なのだと……って何を思い出しているんだ自分は。
今はそんなことはどうでもいい、というか何も今そんなことを思い出さなくてもいいんじゃないのか?
全く自分の頭は一体どうなっているのかと自責の念に駆られつつも思考を巡らせ辿り着いた応えは

「手、繋ぐのじゃ駄目か?」

そう11の前に手を差し出した。
11の視線が手に降り注ぐ。
そしてしばしの沈黙の後11から漏れた言葉は 「…恥ずかしい」 の一言だった。

「いや、抱きつくよりはずっと恥ずかしくないだろ?」
「え、だって、恥ずかしいよ。だってフリオニールの顔見えちゃうんだもん」

ぎゅってしてる時の方が、嬉しいうえに顔見えなくて全然恥ずかしくないと11が主張する。
11からの好意はとても嬉しいし、そんな彼女がより愛しく思えてくるのだが、ここは11の羞恥心について優先するべきなのかそれとも自分の名誉を守るべきなのかと言われたら後者に決まっている。
11の手をとり歩み進める。

「ふ、フリオニールっ」

顔を真っ赤にこちらを見上げて来る11が可愛らしいのだが、それはまず置き、少し身を屈ませて小声で11へと紡ぐ。

「テント行ったら、ぎゅってしていいから」

だからそれまで我慢してくれ、と告げると11の目が輝いた。
本当かと、約束だからねと、珍しく落ち着きのない様子ながらも期待に胸膨らませているといった面立ちが年相応の子供らしさを窺わせる。

(やっぱり…子供、だよなぁ……)

そんな子供に想いを寄せてしまった自分もどうかと思いもするが…こればかりは仕方がない。
それよりも目下の所は、テントに行った後のことだ。
要は誰かに目撃されなければいいだけのことで、抱きしめる程度ならいくらでもしてやれる。
しかし問題はそれだけではない。
一番の問題は自分自身。
まさしく自分との戦いが始まる、と言ったら大袈裟かもしれないが、万が一にも間違いがあってはならないのだからそう言っても決して過言ではないだろう。
嬉しいは嬉しい。しかしどこまで自分の邪な想いを悟られずに過せるだろうか。
そんな複雑な心境を胸に潜め、11に気付かれないようひっそりと溜息を吐く。

-end-

2011/3/23 紫蘭さまリク




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