差
前方に出現したイミテーション。
こちらを見据え、攻撃を開始してきた。
手強い相手ではない。
接近して一気に叩き込めば、余裕に勝てるだろう。
ただ接近するには相手を怯ませて隙を作る必要がある。
「11、援護いけそうか」
「お安い御用ですよ〜」
そう、呑気な声と共に放たれた魔法に続いて突撃していく。
…はずだったのだが。
11の放った攻撃が敵に届くことはなく、予想外の展開に急いで足を止める。
そこへなぜか後ろからついて来た11が急に止まった自分の背中にぶつかり、勢い余って崩れる態勢と共に敵による不意打ち。
ふたり同時にそれを喰らってしまい、その場に叩きつけられてしまった。
幸いにも、こちらに注意を向けている敵の背後からセシルが止めを刺してくれたお陰で事なきを得たが。
相変わらず詰が甘いと言うのか、状況への配慮が足りないと言うのか。
打ち付けられた頭を抑えながら身を起こす。
「おまえ…、よりにもよって射程不足な魔法を放つとか…ありえないだろ」
溜息を吐き、11に目を向ける。
自分と同じく、痛む頭に手を当てながらゆっくりと体を起こすその動作に目を見紛う。
「…は?」
まだ眩暈がするのか、頭を振って意識をはっきりさせようとしているその姿。
紛れも無い、自分の姿だ。
慌てて自分の身を確認する。
手を見る。小さい。
顔を俯けて体を黙視する。
少ない生地に覆われた服装。
いつも軽装過ぎると注意している11の衣服である。
「まさか…」
「うっわ〜。視界高っ。高いですよフリオさん!」
立ち上がり、嬉々として辺りを見渡している……自分の姿をした11。
どうやら自分と11の中身が入れ替わってしまったようだ。
しかし、疑問を抱くこともなく高くなった視界に喜んでいるあたり、いつもどおりの呑気さというかそんな様子に呆れを通り越してもはや溜息しか出てこない。
「…フリオニール?」
絶望に項垂れている姿に、セシルが恐る恐るといった感じで声を掛けてきた。
「あぁ」
一言そう返す。
すると今度は11に目を向けて首を傾げた。
「入れ替わった、みたいだね」
「…そうみたいだ」
再度溜息を吐くとその様子にセシルは苦笑を浮かべて肩に手を置いてきた。
とりあえず宿営地に戻ろうと促してくる。
この状態で敵が来たところでまともな戦闘など出来やしないだろうし、とりあえずは元に戻す方が先決だ。
はしゃぐ11にも声を掛け、一旦宿営地へと戻ることにした。
「…そうか。大変だな」
とはクラウドだ。
こちらを見やり、続いて隣の11に目を向けたはいいが、ニコニコと笑顔を絶やさない11もとい自分の姿をした11に笑いを堪えきれないのか、急いで視線を逸らされてしまった。
気持ちは判る。
自分ですら見るに堪えないのだから。
だから普通の表情をしていてもらいたいのだが。
ティーダにいたっては言わずもがな。
11と同じく状況を楽しんでいるようだ。
「そのうち戻るって!」
と、全く持って人事である。
そのうちがどのうちかは判らないが、悩んでいても解決しないのは確かだ。
前向きに考えて、以前のように記憶を失う事態にならずに済んだことだけは良しとしよう。
それにしても。
ティーダと騒いでいる11に目を向ける。
楽しそうに走り回っているその姿。
本当に勘弁して欲しい。
頼むから大人しくしていて貰えないだろうか。
正直、気味が悪い。
ティーダと戯れているその光景が。
自分のキャラはそんなではない。
そんな姿を眺めながら溜息を吐いていると、11がこちらに気がつきやってきた。
「そんな暗い顔、してないでくださいよ〜」
と、こちらの手を捕り立つよう促してくる。
今や自分の姿をしている11。
11の姿をしている自分。
力の差も逆転しているのは当然のことで、引っ張られるとすんなりと引き上げられてしまった。
立ったついでに11を見上げる。
デカイ。
いつもコイツは、こんな感じで自分を見上げているのか。
小さいのは判っていたが、こうして見上げることなど有り得なかったのだから初めての発見に変な関心が湧いてきてしまった。
すると突如、体に圧し掛かる圧迫感。
11がいつものように抱きついてきた。
「私、小っこいですね〜」
楽しそうな声音と共にギュウギュウと力を込めてくる。
容赦なく抱きしめてくるものだから苦しい。
体全体に当たる硬い感触に、押しつぶされそうな危機感すら覚える。
「お、おいっ、苦しい…折れるっ」
11の腕を懸命に叩き、放すよう促し解放してもらう。
もしかして、コイツはいつもこんな苦しい思いをしていたのか?
いや力加減はしているつもりだが、もしそうなら少し加減を考えた方がいいかもしれない。
そんなことを思いながら、息苦しさに上がった息を整えつつ11に目を向けると、不満げな眼差しを向けてきた。
だからそういう顔はやめてくれないか。
そう告げれば益々不満げな声を漏らしてきた。
11曰く、抱き心地が悪いという。
「なんていうか、物足りないんですけど」
しがみつき感が不足です、と文句を言い始めたがそれは自分のせいではないのだから文句を言われる筋合いは無い。
そもそも11の体だろうに。
「そりゃそうですけど」
未だ不満が残っているようだが、不満を拭い去るべくもう少し楽しんできますと再びティーダの元へ行ってしまった。
頼むから変なことをしないようにと去っていく11の背中に言葉を投げてみたけれど、果たして届いていたのかどうか。
ヒョコヒョコ走っていく自分の体の後姿を視界に捉え、なんとも言い様の無い虚脱感に項垂れる。
どうしたものか。
もししばらくこの状態が続くというのなら、戦闘スタイルについても考えなければならない。
11には接近戦なんて到底無理な話しだし、自分も魔法は得意ではない。
不利な戦況に持ち込まれてしまっては、この先皆にも迷惑を掛けてしまう。
そんなことを考えながら、ふと下がった視界に入った小高いモノ。
決して大きいとは言い難い、ふたつの膨らみ。
興味本位に過った思考に、思わず喉が鳴る。
周りを見渡す。
側には誰も居ない。
男なら誰だって確認してみたくなるだろう。
これは正常な思考だと自分を納得させて、そっと触れてみる。
「…」
柔らかい。
当たり前だが触り心地はいつもと同じだ。
だが今は触られているという感触もある。
普段味わうことの出来ないこの不思議な感覚に、何度か軽く揉んでみているうちに妙に気持ちが昂ぶってきた。
なんと言えばいいのか……心地よい。
衣服の中へと手を差し込み、素肌を直に触れてみればその心地よさは跳ね上がる。
「あ…」
思わず漏れてしまった声に唇を噛み締める。
やばい。
女の感度って、男のそれと比べ物にならないんじゃないのか?
たったこれだけでこんなにも気分が昂揚してきてしまうなんて…。
それとも、11の体だからだろうか。
アイツ、いつもこんなにされてよく声とか我慢できるな、などとそんなことを頭に浮かべながらも片方の手はついつい疼く下半身へと向っていく。
ほんの少しだ。
ほんの少しだけ。
そう太股に手を添わせた瞬間に手首を掴まれ、それを阻止されてしまった。
ハッと我に返り手首を掴んだ主に目を向ける。
そこには羞恥に顔を赤くした自分、の姿の11がいた。
そんな自分の姿が非常に気持ちが悪い、が今はそれどころではない。
「あ…これはだなっ、そのっ…」
「ひどいですよフリオさん!私ですら、あれやこれやガマンしてたのに〜!」
そう言うや否や衣服を剥ぎだした。
「お、おいっ、どうしたっ?何を…」
「こうなったら全裸で暴れてやります!」
「いやっ!ちょ…ちょっと待て!」
確かに勝手にあんな感じに触ってしまったのは自分が悪い。
それに対しては誠心誠意を込めて謝罪しなければならないことだ。
幾ら勝手知ったる間柄とはいえ、己の欲望にまんまと負けてしまったのは本当に申し訳ない。
だが、全裸になる必要性はどこにある。
相変わらずやることが意味不明だが、全裸で徘徊されるのだけは勘弁だ。
次々と衣服を投げ捨てていく11を全力で停めに入る。
しかし11の体で自分の力に勝てるわけもなく、辛うじて腕に縋り付くことしか出来ない。
それでもなんとか制止しようと必死になって揉み合っていると、急に11の体がグラリと傾いた。
続いて自分の頭に走る衝撃。
倒れてくる自分の体の下敷きになってしまう、と漠然と思っているうちに意識が遠のいていった。
気がついた先はテントの中。
どうやら寝具に寝かされているらしい。
「気がついた?」
セシルの声だ。
「あぁ」と短く返答をして、もう一度目を瞑る。
まだ意識がはっきりしていない。
頭に衝撃が走って、それから…とふと目を開ける。
「良かった。元に戻ったみたいだね」
とのセシルの言葉に、手を目の前にかざす。
11の小さな手ではない。
無骨な手。
見慣れた、自分の一部だ。
身を起こして隣に顔を向ければ、11が横たわっている。
ほんの少しの時間しか経っていないというのに、その姿がひどく懐かしい。
安堵の息を吐く。
「入れ替わった時の切欠を思い出してさ」
だったらまた、ふたり同時に衝撃でも与えてみれば戻るんじゃないかってクラウドと話してて、とセシル。
頭に打ち付けられたのは、ティーダの放ったボールだという。
あぁ、ボールなら揉み合っている側からでなくても打撃は与えられるしな。
しかし、せめて心構えとして一言欲しかったと告げれば苦笑を向けてきた。
「それも考えたんだけどね。でも、切欠が不意打ちだったじゃないか。だから戻すのも不意打ちが有効かなって」
丁度、フリオニールと11が何やら揉めていたしさと首を傾げる。
なるほどそれも一理ある。
それに経過がどうあれ、何はともあれこうして元に戻ることが出来たのだからセシル達の機転には感謝だ。
「うぅ…」
「11も気がついたみたいだね」
そう立ち上がるセシル。
去ってしまうのかと視線を送ると微笑を覗かせてきた。
「なんか揉めてたでしょ?」
お邪魔しちゃ悪いからと、颯爽とテント内から出て行ってしまった。
セシルの言葉に思い出す。
揉めていた原因を。
早速、11に平謝りしなければならない。
男の悲しい性とはいえ、あれは確かに配慮に欠けた行為だったのだから。
いやしかし男の性だからこそ止められなかったという思いもある。
だからといってそんな考えを擁護してくれる者はここには居ないのだが。
どうか都合よくあの一連の記憶が飛んでいるよう願いながら、正座をして11の目覚めを待つフリオニールだった。
-end-
2010/2/8 更夜さまリク
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