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肝試し



「こんな時には肝試しっスよ!」

そろそろ宿営地に戻ろうかという時に上がったティーダの一声。
こんな時とはどんな時かは謎である。
しかし肝試しといったところで、普段から見慣れている建物内では肝を試すも何もないのだが。

そこで一つ提案を持ちかけたのはセシル。

「怖い話でもしたら、それなりに雰囲気でるんじゃないかな」

幸い(?)、このアルティミシア城内は暗いし、ひとりづつ降りていけばそれっぽいかもと続ける。
案外ノリノリである。

城内を徘徊していたイミテーション達は粗方排除を終えているし、遭遇したところで低レベルの相手なのだから問題ない。
じゃあ僕がとっておきの話を、とセシルが語り始める。
ご丁寧にもパラディンから暗黒騎士にチェンジだ。

パラディンだと眩しいからな、とひとり納得しているクラウド。
さすがセシルっすね!と変なところに感心を寄せるティーダ。
フリオニールはどこからつっこんでいいのか迷いつつ、ため息を吐く。
そして無言の11。
心なしかソワソワ落ち着かない様子に見える。

「11、大丈夫か?」
「…だいじょうぶですよ〜」

フリオニールの問いかけに、いつも以上に気の抜けた返事をする11を気に掛けながらもセシルの話に耳を向ける。
話は淡々と進む。


遥か昔に栄えた古城。耐えなく続く戦により打ち落とされ、今は廃城と化している。
無念のうちに倒れていった兵士達。
為すすべも無く無残に切り捨てられた城内に住まう者。
敵地へと乗り込んだ愛しの騎士を想いながら自害した王女。
今も騎士の還りを待ちつづけながら侵入してくる者を脅かすという。

怖いながらも悲しい物語。

「いたずらに侵入してきた者は、地下室に閉じ込められて一生怨念の篭った霊達に苦しめられるっていうんだけど」

ゾンビみたいに実態があれば何とかなりそうだよね、と話を終える。
じんわりと滲みだす静けさ。
そもそも実態が在る無いに限らず、魂のないモノが動いている時点で恐怖の対象になりえるんではないだろうか、と一同は思った。


クラウドが剣を手にする。

「先に行く」

大剣を引きずりながら、暗がりへと進んでいった。
先発クラウドなら、残ったイミテーションを倒しながら行くだろう。
後発隊は、より肝試しな雰囲気に浸れそうだ。

数分置き、2番手は考案者のティーダ。
自分から言ったことなのに、やや腰が引いている。
怖い話という予想外の展開に、少なかれ動揺しているようだ。
決心がついたのか、ボールを脇に構えて「男は度胸っスよ!」と自分に激励を飛ばしながら足を運ぶ。

「ティーダ、怖がりみたいだね」

にこやかにセシル。
いつの間にかパラディンに戻っている。

3番目にフリオニール。
妙に無表情な11の様子を窺いながらもセシルに促され、出発する。

残るはセシルと11のふたりだけだ。
相変わらず無言の11。
ティーダが「肝試し!」と言い出したあたりから、大人しい。
怖いもの知らずな感のある11だが。

「11、怖い?」
「ここ怖くないですよ〜」

案の定、怖いようだ。
怖いのなら無理しないでフリオニールの後にでも着いて行けば良かったのに、と内心思う。
まぁ、それではいろいろと面白くないから早々にフリオニールに行くよう促したのだけれど。

「ほら、11。キミの番だよ」

4番手11。
魔法で灯りを点けるのはダメだからね、とのセシルの言葉に恨めしそうな目を向けながら足を動かす。


一方先に進んでいたが、ふと立ち止まって壁面を眺めているフリオニール。
来る時にはなかったよな、と首を傾げて壁面の傷を凝視する。
斜めに交差し、それを囲うように付いている痕跡。
どこかで見覚えがある。

(…あぁ。クラウドか)

大方イミテーションにでも遭遇したのだろう。
それにしたって、抉れ具合が物々しい。
いつものように颯爽として進んで行ったが、実は内心焦っていたのだろうか。

焦っているといえばティーダを思い出した。
どれだけモタモタ進んでいたのか、先行くティーダにあっという間に追いついてしまったのだが。
声をかけようと足を速めた瞬間、振り向きもせずダッシュで逃げられてしまった。
絶対あれは何かと勘違いしていた。

(そういえば11。あの様子じゃ、すぐ着いてくると思ったんだけどな)

11のことだから、怖がってる様なんて見せたくないのだろう。
全く変なところで意地っ張りだ。
ため息を吐きながら曲がり角に差し掛かると、ぼんやりとした灯りが目に映る。
徐々に近づく灯りに目を凝らすと、11の姿が確認できた。
杖の先に小さな炎が燈っている。
あれは少しズルいんじゃないかと思いつつ、このまま身を隠して11を驚かせてみようと閃く。
いつも突拍子も無い行動を起こされているんだから、たまにはいいだろう。
息を潜めて通り過ぎるのを待つ。


曲がり角にわき目も振らず、真っ直ぐと通り過ぎていく11。
いくら怖いからとはいえそんな進み方じゃ、余計な遠回りでもしてしまうんじゃないだろうか。
そんな心配をしつつも、通過した11の背後に手を伸ばす。

「11」

名を呼んで肩に手置くなり、素早く振り返る11。
振り返った途端11の目に飛び込んできたのは、杖先の灯りに照らされた大柄な目つきの鋭い男。
驚きに11の目が見開かれたかと思うと、突如杖の炎が暴発した。

一瞬にして燃え盛った炎を寸でのところでかわしたフリオニール。
それでも少し毛先が焦げてしまった。
危く大惨事である。

「…あぁ〜、フリオさん」

ビックリさせないでくださいよ〜、と胸を撫で下ろす11。

「それはこっちのセリフだ」

ビックリどころか命が危ない。

だけど今回ばかりは11に非はない。
フリオニールが招いた結果なのだから文句は言えないが、予想外な行動をしでかすのは相変わらずだ。

「でもまぁ、その…すまない」

あんなに恐ろしげな目を向けられるとは思わなかった。
少し可哀想なことをしてしまったと反省する。

「もー、ほんとビックリですよ」

振り向いたら目つき悪くて図体デカイなにかがいるんですもの、と続ける。
その言い様に前言撤回したくなる衝動に駆られたが、なんとか耐える。
本当にコイツは自分のことが好きなのだろうかという疑念すら沸きそうだ。
しかしこれはいつものことだと自分に言い聞かせて、気を取り直すフリオニール。
さっさと行こうと11に声を掛けるもなぜか動こうとしない。
どうしたのかと聞けば、驚きのあまりに足に力が入らないという。
ひとつため息を吐き、背中に乗るよう促す。

「えぇ〜、お姫さま抱っこじゃないんですか〜」
「こういう時はおぶった方がいいだろ」

それにそのまま皆と合流したら恥ずかしいじゃないか、とは言わずに11を背負って歩き出す。
お姫さま抱っこがよかったな〜、と背中でまだボヤいているが無視。

なんだか前にも似たような展開があったなと思い出す。
あの時は、背中にあたる柔らかな膨らみやら耳に掛かる息に心落ち着かなかったものだが、今となってはそれも懐かしい。

全部自分のものにしたのだから。


「なにニヤニヤしてるんですか〜」
「いや、…気にするな」
「気にするな、なんて言われたら余計気になりますよ」
「はいはい」

気になる気になると文句を言いながら、背中でフリオニールの髪を弄くり回している11に苦笑する。

「なぁ11」
「なんですか?白状する気になりました?」

興味深々といった様子で肩口より身を乗り出してくる。
彼女に関わると碌な事にならないのは、いつものことだ。
でもそれも含めて。

「好きだ」

そう告げると、背後で身悶えだす11。
こういったことを言われることに弱いらしい。
もう歩けますから降ろしてください!と暴れだす。
丁度出口も見え始めたことだし、足を止めて11を降ろしてやる。

すると不意に髪を引っ張られた。
思わず引っ張られた方へ身を屈めれば、頬に柔らかな温もり。

「…私も、同じですからね」

そう言い、出口に向って走り去る11。
11の背中を見送り、口付けられた頬に手をあてるフリオニール。
相変わらず回りくどいヤツだな、と笑みを零す。


「いろいろとお楽しみだったようだね」
「せっ、セシルっ?」

いつの間にいたのか。
薄暗い城内なのだが彼の周りはちょっと眩い。
11の魔法といい、これもこれで少しズルくないのだろうか。
流石パラディン、とクラウドだかティーダだか言っていたことが頭に過る。
お先に、と出口の光に身を溶かすセシル。

眩しい。

最後のゴールになってしまったと、勝負していたわけでもないのにそんなことを頭に浮かべつつ出口へ到着した。


城を出ると、なぜか蹲っているクラウド・ティーダ・11の3名。
その傍らでセシルは困惑の表情を浮かべている。
出てきたフリオニールに気がつき、首を傾げる。
その様子に少しの違和感。

「どうしたんだ?」
「僕も驚いたんだけどね」

今日は皆とは一緒に行ってないよね、とセシルの一言。

「いや、だって今出てきたばかり…」

ふと、思い出した。
所用があるからと、セシルは宿営地に残っていたことを。

セシルは皆の帰りが遅いから、様子を見に、今ココに着いたばかりだという。
3人とも、城内からではなく宿営地の方から歩いてきたセシルをしっかり目撃したようだ。

では、あの城内にいたセシルは何だったのか。


「のばら〜っ、こわいっスよ〜」
「ふふふフリオさんっ、なななんだったんですあれっ」

足元にしがみ付いてくるティーダと11。
クラウドは膝を抱えて消沈している。
それを受け、今更ながらに背筋が凍りつくフリオニール。

セシルに顔を向ければ「怖いね〜」と、まさしく人事のようにほんわかと笑顔を称えている。


最後の最後で、本格的な肝試し気分を味わうことになった一行(セシル除く)。
この怯えた面々で、どうやって宿営地まで戻ろうか、と息を吐くフリオニールだった。

-end-

2009/9/29 八雲さまリク




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