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深憂



大勢…と言うには少々数が不足しているかもしれないが、人の数も10を超えればそれなりに多く感じるものだ。
そしてそれだけ集まれば、それぞれの人柄というものも多種に及ぶ。
一口に明るいと言えば、バッツ、ジタン、ティーダあたりだろうが、その明るさの方向性は三者三様であるし、面倒見の良いフリオニールとセシルも各々違う面で仲間を気遣っている。
似ているようで似ていないとはひとつの存在として当然のことなのだが、こうしてあらためて見てみると面白いものだと思う。
それに多種多様な人となりを持つとはいえ、皆志は同じだ。

「君もそうだろう?」

異質な世界を構築しているこの次元を混沌の闇から解放をして、自分の世界へと戻りたい。
そう願う心は同じはず。

「でも…」

11が顔を俯けた。
彼女、11は自分が見つけた…というよりも、自分がコスモスの光に導かれた先で出会った調和の戦士だ。
ティナと同じく控えめな性格をしているのだが、ここでもまた違う性質のものを見つけると事なる。

初めてこの世界で出会った自分とは普通に話すことはできるようなのだが、どうにも他の仲間たちの輪に溶け込めない、とでも言えばいいのだろうか。
気がつけばひとりテントの中に閉じこもっている。
当初はこんな世界で混迷するのも無理はないことだろうと思っていたのだが、そうでもないらしく、移動の際にはしっかりと出てくるし、戦いにおいても自らの特性を生かした役割は果たしている。
それなのに宿営地に戻ってくるなりテントに引きこもり、当番制でこなしている雑用など必要に迫られている場合にしか顔を出さない。

「もっと、他の者たちとも関わりを持つべきだと思うのだが」
「わかって、ます。でも…」

そうまた顔を俯けてしまった。
正直、困ったものだと思う。
今まではまだ、この世界に現れたばかりだという手前に任せて自分が彼女の面倒を見てきたが、この先この状態がずっと続くのだという保証はない。

「私がいなくなってしまったら、11はどうするつもりだ?」
「え…そんな不吉はこと言わないでくださいよっ」

涙目に困惑の声音で顔を上げてきた11を見やる。どうしたものだろうか、この少女は。
先にも言ったように、自分が彼女の傍にずっと居れるとはこの世界では約束できないことだ。
まだ11は経験していないことだが、次元に綻びのある今の状況にあって、同じ場所を辿っているのだと思っていてもいつの間にか見覚えのない場所に辿り着いているということなど多々あること。
こうして仲間が揃っている事態のほうが珍しいことなのだ。
幸いにもそのおかげで11を他の仲間たちに紹介することが一手間で済んだのだが、彼女の今の様子ではこの先が存分に思いやられてしまう。
自分ではない他の者と、否が応でも行動をともにしなければならない。
そうなってしまったら、11はどうするつもりなのか。

「そうなったらそうなったで…なんとか」
「ならないだろう。君の今までの行動からして」

思わず溜息を吐く。
何日か前だっただろうか。
誰かが召喚石を探していた。
その召喚石をあの時使用していたのは11だった。
宿営地に居る以上戦いになることはないのだから、その時の11には必要のないものであったはず。
ならばすぐにでも必要としている者に手渡せばいいというのに、この少女はそれすらも出来ずに自分に渡してきてくれと言い募ってきた。
自分で渡せばいいだろうと言っても言う事を聞かず、どうしようとオロオロするばかりで終いにはさり気なく道具置場に戻して来ると言い出す始末。
必要としている者がすぐそこにいるというのに、一体何を考えているのかと思いながらも早々に渡してしまわなければと、あの時は11に替わって自分が渡してきたのだ。

「あれくらいのことで躊躇しているようでは、なんとかなる、で済まされないだろう」

複数人に分かれて行動をする時には必ず自分の居る方へと加わってくるし、そうでなければひとりで行動をしている。そんなに自分以外の他者と関わりを持つのが嫌なのだろうか。
そう尋ねると11は横に首を振った。

「そうじゃなくて…私だって、皆と仲良くしたいと思ってはいるんです」
「では、なぜ」

今日もこうしてテントに篭るに至っているのか。
仲良くしたいというのならば、それこそこんな閉鎖されたテントの中から出なければ話にならない。

「だから、それができないっていうか…」

ポツリと11が紡ぐ。
何も11自身好き好んで引きこもっているわけではないし、皆と仲良く過ごしていけたらと思っているのは本心から。

「でも何話したらいいんだろう、とか。私の話、ちゃんと聞いてもらえるかな、とか。そんな事ばっかり気になって」

失礼なことなどしていないだろか等々考えているうちに誰かと話していても口数も少なく、なんとなくテントに戻ってきてしまうのだという。
そして篭ってしまったら篭ってしまったで、そういった経緯からなんとなくひとり気まずいものを抱え、なかなか外に出て行きにくいものらしい。
だから極力、他の仲間たちとは接触を図らないようにしているというのだが…。

「私は平気なのだな」

素朴な疑問だ。
こうしてテントに入れてくれるし、言葉も普通に交わしている。
なのに他の者には同じようにできないとはどうしたものか。

「ウォーリアは、私にこの世界のことをいろいろと教えてくれた人だから」

11がそう頼りなさ気な笑顔を向けてきた。
そんな11の面立ちに、あぁ、なるほど、となんとなくだがわかった気がする。

光の神に導かれて彼女の身を任されたとはいえ、確かに自分が11にこの世界の在り方について教えてきた。
自分が教えなければならないと、誰にも任せずに一方的に。
結果、彼女の信頼を得る事ができたということだ自分は。
だが、他の者はどうだろうか。
もともとが大人しい性格に加えて積極性に欠けているどころか消極的ですらある11に、彼らは強引に話し込むなど粗野なことはしない。
それが結局11を余計に消極的にしてしまっていたのだろう。
そして頼れる人物に靡かれるということは理解できる話であり、11はそれが些か顕著なのだということもわかった。

「私だけではないぞ、11。君が少しの勇気を持って話かけることができるのなら、他の仲間たちがいかに頼りになる存在かがわかると思うのだが」

自分が11に教えたことがこの世界の全てではない。
自分が知らないことだって、他の者なら知っているということもたくさんあるだろう。
とはいえ、11にとってその一歩を踏み出す勇気が足りないのは明らかだ。
さぁ頼ってくるといいと言ったところでそう簡単にはいくまい。

ふと思い立ち、テントの幕を少しずらして外の様子を窺ってみる。
すると、焚火の前にジタンが座っているのが見えた。
どうやら今夜の見張り番は彼のようだが…。
明るさはさることながら、年の割には世渡り上手な感もあるし、気配りもこと女性に関しては配慮を欠かない彼ならば、11でも大丈夫ではないだろうか。
最初の一歩さえ上手く行けば、後は次第に慣れていくものだ。
ジタンに頼まれていた品物も渡したいところだったのだし、丁度いいのではないだろうか。
そう思考を巡らせ、腰元に携えた荷袋から小袋を取り出し11に手渡す。

「これを、彼に渡してきてくれないか」

そうテントの外を指し示す。
こちら側に背中を向けているジタンの尻尾が暇そうにダラリと垂れているのを目に留めて、それから11は自分に目を向けてきた。

「わ、私がっ?」

なんで、と慌てる11を窘めつつも彼女の背中を強引に押しやりテントの外へと促して行く。
夜の見張り番は今の時間帯ならひとりだ。
それも対人関係に聡い彼なら、彼女のことも上手く扱ってくれるだろうと考えてのこと。
間違えはないか中身も確認してもらうよう言伝を頼みテントの外へと11を出し、幕を降ろしてしまう。
一対一とは少々荒療法かもしれないが…11自身が仲良くやっていきたいと考えているのならこのくらい構わないだろう。
しかしそれでも今まで彼女の面倒を見てきた自分としては11の様子が気に掛かる。
しっかりと渡すことができているだろうかと幕から外を覗き見てみると、2、3歩進んだあたりで止まっていた。
普通に歩いていけばあっという間に辿り着く距離なのだが、それすらもままならないとは。

「11」

名を呼びかけると、肩を大きく揺らした後に11がゆっくりと振り返ってきた。
情けなくもあり、また緊張した面持ちで助けを求めるような素振りを見せてきたが、それに釣られてここで手を貸すわけにはいかない。
自分が間に入って仲を取り持つことは容易い事だがそれでは彼女の人見知りとも言えるこの状態はいつまでも克服することができないからだ。
早々に渡して来るよう目で促す。
そうすると11が深く溜息を吐いて、恐々と足を進め始めた。

ゆっくりと歩き、時折こちらを振り返っては目で訴えてくるが、無視を決め込み11の動向を見守る。
ジタンの元まで後数歩、といったところで11が再び歩を止めた。
どうやら緊張しているようだが…チラリとまた一度こちらに目を向けてきた。
それでも無言で見つめ返していると、ようやく意を決したのか、それとも助けを諦めたのか、再度足を進めて焚火の前に腰を降ろしているジタンの脇へと進んだ。
11に気がついたジタンが驚いたように彼女を仰ぎ見る。
驚くのも無理はないだろう。
11ひとりで誰かの元へと訪れることなんて、今まで一度もなかったことなのだから。
何か一言二言言葉を交わして、11がジタンへと小袋を手渡した。
ちゃんと言伝は伝えられただろうか。
もはや保護者のような心境の下ふたりの遣り取りを見守っていると、ジタンに手招きされて11が彼の横へと腰降ろした。
それを目に留めて、テントの幕を閉じる。



自分の思っていたとおりに事が進んだのだろう。
そんな安堵にひとり満足していると、程なくして11がテントへと戻ってきた。
赴いていった時とは対照的な、彼女もまた安堵の面立ちを浮かべている。

「うまく渡せたようだな」

何も恐れる事などなかっただろうと言えば、11は頷き返してきた。
とても緊張したけどもなんとか言葉を交わすことができたと、嬉しそうに腰を降ろす。
ほとんどがジタンの問いかけに応え返すといった流れだったというが、それでも11にとって大きな一歩となったことは彼女の様子から見て明らかだ。
少しづつでも11がこうして他の者と話せるようになっていけば、後は時間が解決してくれること。

「これ、貰っちゃいました」

そう、差し出してきた11の手には金のアミュレット。

「これは…」

機会があったら取って来て欲しいと、ジタンから頼まれていた品物だ。
そして今、11に渡してきてもらったばかりの品物でもある。

「ジタンも自分は自分で探していたらしいんですけど…で、その、これ、私にくれる為だったって」

新しい仲間ともあり、何度か声をかけようとジタンも思っていたらしい。
しかし11はといえばいつの間にかひとりでフラリと出かけてしまうし、宿営地に戻ってくるとすぐさまテントに篭ってしまう。
さすがのジタンも、出会って間もない間柄の女性のテントともなると声もかけ辛く、たまに顔を見かけるとなれば自分とふたりで動き回っているし、どう声をかけたものかと考えていたようだ。
そして何か話す切欠でもあれば、と思いついたのがこの金のアミュレットだったのだという。

「ウォーリアと私の話、聞いてたみたいです。私が欲しがってたの知って…」

ウォーリアは忘れていたみたいですけどねと11が苦笑する。
すっかりそんな話をしたことを忘れていた自分には、まんまとジタンにいい所を持っていかれてしまった気もしないでもないが…それでも彼女が楽しそうに誰かのことを話す姿を目にできたのだから結果的にはいいだろう。
お礼に何か返したいだとか、何が欲しいのか今度聞いてみようと、自ら歩み寄る意思も感じられるのだし。

「こうやって、ジタンだって君のことを気にかけてくれている。そして、他の者たちもきっと同じだろう」

だから何も恐れることはないと11の頭を撫でやる。

「…ウォーリアは、私が皆と仲良くできたら、嬉しい?」

不意に11がそんなことを聞いてきた。
応える間もなく当然のことなのだが…。

「そうだな。11が私と話すように他の者たちとも交流できるのなら、とても安心できる」
「そっか…」

それじゃあ頑張りますと、ささやかな決意に拳を握る11の姿を視界に納め、そうある日も遠くないのかもしれないと今一度11の頭を撫でやった。

-end-

2011/1/26 ウェレア様リク




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