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憂える



「おう、どーした」

おまえから話があるだなんて珍しい、とジェクトが顔を綻ばせる。
そんなジェクトの前に佇んでいるのは、ジェクトの息子であるティーダだ。
憂慮気な、だがなんとももどかしそうな複雑な面立ちを浮かべている。
親子とはいえ今は敵対する立場とあり、またティーダ自身のジェクトに対する感情を汲み取れば納得のいく表情なのかもしれないが。
もうひとりの子である11ならば、こんな顔をして現れはしないだろう。
満面の笑顔を称えて、 「父さん!」 と抱きついてくる様がありありと浮かんでくる。
同じ日に生まれて同じような性格しているかと思いきや、父親に対する感情が間逆なのは育て方のせいかもしれないとはジェクト自身も思っていることだ。
今更ながらに、どうにかならんものかと頭を掻く。

「あー、あのさ」

ふと、ティーダが口を開いた。
そもそもティーダから話しがあるのだと呼び出してきたのだから当然のことである。
でもそれも、ゴルベーザからの言伝によりだ。
ティーダからセシル、セシルからゴルベーザに、という回りくどい伝達方法であったが。
ジェクトは話始めようとするティーダに、まぁ座ろうや、と告げ、地べたに腰を降ろした。
そのジェクトに倣い、ティーダもその場に腰を降ろす。

「で、なんだ?」

話端を挫かれて些か不服そうなティーダに、ジェクトは続けるように促した。

「……あのさ。まぁ、なんていうか。アンタ、一応、親…だし」

そうチラっと窺ってくるティーダにジェクトは苦笑を漏らしながらも話の続きに耳を傾ける。

「それに、他にこんなこと聞ける相手もいないし」

仕方なく意見を聞きに来てみたのだと、仕方なくを強調して言ってきた。
そしてティーダの聞きたいこととは、片割れである11のことについてだった。
つい先日、11に恋人がいるということを知った。
当然ながらに相手は調和にいる仲間である。
それからその相手というのが、スコールだということもわかった。

「スコールって…あぁ、あの愛想も素っ気もない小僧か」

ジェクト自身、戦闘については素人に近いものがあるが、そんなジェクトから見てもあのスコールとかいう男はなかなかに戦闘のセンスがあると思う。
こちらの繰り出す連撃に臆することもなく冷静に対処してくるし、決して仲間の身内だからと手を抜いてくる事もしない。
使う者を選ぶであろうあの珍しい武器も興味深いと思ったものだ。

「それで、そのスコールがなんだってんだ?」

大方、スコールとやらとお付きあいしてるのが気に入らないとか言い出すのだろう。
人柄については交流などないのだから把握しかねるが一見の印象とはそう変わらないだろうし、親の目から見ても確かに11には少し物足りない相手な気もする。
だが、彼女が良しとして選び、またスコールもそんな11に応えてくれたのだから、たとえ親といえども弟といえどもその辺りは口出しするべきところではないんじゃないだろうか。

「いーや、そこじゃなくてさぁ。別にスコールが気に入らないとかじゃなくって、あーまぁちょっとなんでとかは思ってるけどそうじゃなくて」

しどろもどろにティーダが言葉を選んでいる。
相変わらず口下手というか、回転が悪いというのか。
誰に似たんだかとジェクトがティーダを眺めていると、項垂れていた顔を勢いよくあげてきた。

「だーかーらー!親なんだから、そーいうの気にならないのかってこと!」

鼻息荒くティーダがそう言い放ってくる。
それを受けてジェクトは首を傾げた。

「だいたい11が誰かと付き合うとか意味わかんない。女らしさの欠片もないくせにさ好きだとか」

それに強がりだしお節介だし構いたがりだし、なんでも大雑把だし。
言いたいことは山ほどある。

「そもそも親なら親らしく心配とか……って、なんだよ」

ジェクトから向けられたニヤニヤとした笑みにティーダは怪訝な目を向けた。
そんなティーダの視線もどこ吹く風にジェクトは受け止め、尚も弛んだ顔を引き締めることはない。
素直な表現とはほど遠いが、つまりティーダは姉である11を誰かにとられるのが嫌だということだ。
多感で難しい年頃だというのに、姉弟仲がいいのはジェクトにとっては大変喜ばしい限りである。
ジェクト自身が行方不明となってからはふたりで頑張ってきたのだと聞いていたし、それが姉弟の絆をより深いものにした結果なのだろう。
微笑ましい、と思うのと同じく、不可抗力ながらもふたりのもとを離れざるを得なかった何かがあったことが、ジェクトにとってとてももどかしい。

「あぁ、まったくよ。ジェクトさん家の泣き虫はホント姉ちゃん大好きっ子だねぇ…ってな」

このシスコンが、と茶化した笑みを浮かべたままジェクトの手がティーダに向って伸ばされた。
急な仕草に避けることもできずに、ほぼ条件反射的にティーダは目を瞑る。
フワリと頭に乗っかった大きな手。
その手が、ティーダの頭を乱雑に撫でまわしてきた。

「お、ぉっい、ちょ、やめろってば!」

髪が崩れる!と文句を投げながらティーダがジェクトの手を払いのけようと試みるが思うようにいかずに成されるがままだ。
そしてまたなにか誤魔化されている気がする。
ジェクトという男は、何かにつけて本音を表さない。
きっと言いたいことがあるはずなのに、こうしてそれを隠して。
親なのに掴み所がない、とは長らくティーダを悩ませている一因でもあるのだが……。

「あーーっ!」

信じらんない!との怒声とともに現れたのは、話題の主である11だった。
長く生え茂った草々から身を乗り出し、急いでふたりに駆け寄ってくる。
そして到着するなりジェクトの手をとり、ティーダの頭から離した。
それから変わりにといわんばかりに11自身の頭へとジェクトの手を乗っけ直した。

「はいっ、父さん。撫でて!」

と、まるで尻尾を振っている犬のようである。
だってこんなノリなんだぜ、とティーダがジェクトに目で訴える。
それを受けてジェクトは頷き、だがまぁ、慣れればさしたる問題でもないのでは、とそんな苦笑いを浮かべた。
ひととおり頭を撫でまわされて満足したのか、11が満面の笑みでティーダへと振り返ってきた。

「どうしたの?珍しいじゃん、ティーダが父さんとふたりでいるなんて」

しかも頭撫でられてるなんて、と嬉しそうに語りかけてくる。
11の思っているようなことは全くなかったのだが、だが当人に話しの内容を伝えるわけにもいかない。
再びしどろもどろにティーダが言葉を選んでいると、11の体が軽く移動した。

「男同士の話だ」

な、ティーダ、と振ってくるジェクトの膝元には11の姿。
大の大人が抱っこされている状態である。
とはいえ心はまだまだ大人とは言えない成長段階であり、それに加えてジェクト大好き!な11にとっては至福の事態だ。
頷くティーダにツッコむことなく、満悦そうに 「そっかー」 と返している。

「んで、なんだってお前さんはこんな辺鄙なところに来たんだ?」

11の登場から察するとおりに、ここは辺り一面伸び放題の草に囲まれた一角だ。
好んで足を運んでくる者はそうそういないし、だからこそ回りの目を気にしないでも済む。
そう考えてこの場所を選んでいたのだが。

「そりゃあ、イミテーションと戦ってたからに決まってるでしょ」

自信満々に11が言う。
いつものように勇猛果敢に戦って、逃出す敵を追いかけて、追い詰めて、レベルアップもしたし言う事なしな完璧な出来だったと。
それから一仕事を終えた今は、見当たらない仲間を探している最中なのだと。

「つーか、それ迷子じゃん」
「まぁ、そうとも言うけどねぇ」

でもその辺りにいるんじゃないかと11が笑う。
背中をジェクトに預けて。
なんだか無性に嬉しそうな声音に、ジェクトは柔らかく11を抱きしめた。

「なに?父さん。くすぐったい」
「ん。なんだかなぁ、やっぱ自分の子供ってのはいいもんだってな」

まぁ俺様の子だし当たり前だけどよ、と少し力を篭める。

最後にこうして膝に座らせたのはいつだっただろうか。
ティーダでさえ、自分も!とよく強請ってきていた。
あの小さな頃とは違い、少し力を篭めたところで壊れそうになることはない。
ただ、この抱擁はもう自分の役目ではないのだろうとジェクトは思う。
ティーダの心配とは少し違うが、やはり親なのだし、そういう相手がいるというのは実際心寂しいものだ。

「…お仲間が探してるんじゃねぇのか、11」

遠くから、誰かが11を呼ぶ声が聞こえてきた。
抱きしめていた腕を解き、ジェクトは11を解放してやる。
そしてティーダの 「こいつと居るの、バレたらイヤだから!」 との言葉に苦笑しながら11は立ち上がった。

「それじゃ、父さん。またね」

そう、颯爽と11は草原に飛び込んでいった。
すぐに見えなくなった11の後姿にジェクトは髭をなぞる。

「なぁ、ティーダよ」

仲間にバレるのが恥ずかしかったのか、ジェクトは草陰に身を隠していたティーダに声をかけた。
ティーダはそそくさと出てきて、身についた葉を払いながらジェクトの言葉に耳を傾ける。

11がああして遠慮することなく…親子なのだから当たり前だが…甘えてくるのはいつものことだ。
だが、ひととおり満足し終えるとその後は何も思い残すことなんてないかのように離れていくことに気がついていたか、とジェクトが聞く。

「そんなの、いつものことだろ」
「まぁ、いつものことだよなぁ。じゃあ、なんでかわかるか?」

ジェクトの問いかけにティーダは頭を傾げる。
充分に甘えつくしたら離れるのは当然だろう、いつまでもそうしているわけにもいかないのだから。
それに我が姉ながら後味すっきりざっくばらんな性格をしているし、ティーダとしては ”いつものこと” と認識するまでもなくありふれた自然な光景だ。
なんでかわかるかと聞かれたところで何とも応えようがない。
そんなティーダにジェクトは息を吐き、頭を小突いてやる。

「おまえのこと、気にかけてるんだろうよ。まったく、弟思いの姉ちゃんじゃねえか」

素直じゃない誰かさんに遠慮して、もっと甘えたいくせに未練なんか見せやしない。
その健気さが愛しいもんだよ、とジェクトが笑う。

「そ、そんな素直とかっ。別にオレはアンタになんか…」

そう焦るティーダにジェクトがそれはまず置いておいてと言葉を続ける。

「要は、あいつには甘えられる対象が必要だってっこった。おまえに遠慮することなくな。気兼ねなく自分を委ねられる相手が」

ジェクトの言葉にティーダは俯いた。
ジェクトは続ける。
誰に似たんだか快活で陽気で気の強い性格をしている11だが、そんな11だからこそ心の支えは必要だ。
ただでさえ、手のかかる泣き虫な弟がいるのだから。
そして今までは不在ながらもジェクト自身がそれを担ってきたのだろう。
だがこれから先もとなると、そんなことは無理なのは明らかだ。
いつまでも傍にいるわけにもいかないのだし、それは弟であるティーダも同じである。
だから11の心の支えとなる相手がいるのなら、それは喜ばしい事じゃないだろうか。

「心おきなく甘えられるヤツが傍にいるんなら、それは11にとって心強いもんだろうしな」
「それは…そうかもしんないけどさ……」

言葉を濁すティーダの頭に、おまえのいいたいこともわかるがな、とジェクトの手が乗っかる。
振り払われることはない。
ティーダは成されるがままに大人しく俯いている。

心配なのは親なのだから当たり前だ。
それも父親であるのだし、可愛い娘が、ともなると泣きたくなってくるものもある。
しかし、そんな思いは決して表には出さない。
いつだって強くて豪快で優しい父さんが大好きだ、と11が言っているのだからそれに応えるためにもだ。
それにこの泣き虫な息子にそんな情けない姿なんか見せるわけにもいかない。

「…んじゃまぁ、そんなところでとりあえず、だ。そのスコールってのを殴りに行くか」

ティーダの頭をポンとひとつ軽く叩き、ジェクトは肩を回し始めた。
やる気満々である。
そんなジェクトにティーダは顔を蒼白させて纏わりついた。

「えっ、…あ!それはダメだって!いくらなんでも!」
「あぁ?ちゃんと11の支えになれるかどうか本気で試させてもらうってだけじゃねぇか。止めんな」

だいたいおまえもその辺気になんだろうよ、とジェクトはティーダの腕を振り払う。
そして尚も引きとめようと必至なティーダ。
日の落ちる頃合まで続いたこの遣り取りを草奥にてたまたま通りがかりに耳にしてしまったスコールは、しばらくはイミテーションといえども対ジェクト戦は避けておこうと密かに決意していた。

-end-

2011/3/3 ウェレア様リク




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