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黙約



剣と盾とを巧妙に駆使し、相手へと間合いを詰めていく。
繰り出される素早い剣技は受け止め難く、回避しようとも少しの隙も見せない攻撃の手にそれも儘ならない。
ならば、と半ば意地にもカウンター攻撃を仕掛けようと試みたようだが空中を漂っていた光の剣によりそれさえ妨げられた。
呻き声を漏らし、片膝を地についたフリオニールにウォーリアの剣先が付きつけられる。

「相変わらず、手合せといえども容赦はないものだね」
「手を抜いていては、反って相手に失礼でしょう」

勝負ありでしょうか、と眺める11の隣に立つセシルが、まだみたいだよ、と健やかに返してきた。

フリオニールの手が、マントに隠れた腰へと伸びる。
そこに携えた斧の柄を掴み、繰り出す瞬間金属のぶつかる音が響いた。
一瞬の出来事だった。
フリオニールが斧を投げつけるよりも早くにウォーリアの盾がそれを防いでいた。
盾をそのままにウォーリアの足が動く。
鈍い音と共にフリオニールの体が地面へと叩きつけられ、仰向けに倒れ込んだその首元には剣先が添えられている。

「今度こそ勝負あり、のようだね」

そう苦笑するセシルの言うとおりにフリオニールが降参の意を示している。
それを目に留め、ウォーリアの剣が鞘へと収められていった。
ウォーリアが手を差し出し、フリオニールを引き起こす。
立ち上がったフリオニールと何やら言葉を交わしているようだが、少し離れたところで観戦していたセシルと11の元には会話の内容は届かない。
ふと、ふたりが距離を取った。
そしてお互いに一礼をしている。
抜かれるウォーリアの剣に、フリオニールは槍を構えた。

「まだ、続けるようです」
「まぁ、熱心なのはいいことだと思うよ」

ちょっと根を詰めすぎだとは思うけど、と再び苦笑をたたえるセシルに11も苦笑で応える。
というのも、ウォーリアとフリオニールによる手合せは、本日これで4度目となるものだった。
お互いが生真面目であるのは、当然ながらに真剣勝負となる。
全力で挑む手合せは実のあるものなのかもしれないが……。

「大丈夫かい、11は」

心配そうに11を窺ってきたセシルに11は事もなげに頷き返した。
彼の強さはよく知っているものだし、真摯に打ち込む姿は目を瞠るもの。
見惚れる、と言ったら大げさかもしれないが、そこには心配という気持ちは微塵もないのは確かだ。
コスモスを失ってもなお、ここまで彼は淀むことなく進んで来たのだし、その実力は仲間の中でも擢んでたものだということを知っている。

「どちらかといえば、心配なのはフリオニールの方でしょう」
「はは。彼こそ大丈夫だと思うよ。体は頑丈だからね」

体力の面でウォーリアの相手をし続けることのできる者といえば、調和の戦士の中では彼が適任だろうとセシルが笑む。
確かに。
粘り強さと根気にかけては人一倍熱い男なのだと11も思う。
現にあれだけの攻撃を受けてもなお、未だポーションひとつも使っていない。
それでも、この手合せを終えた後にはケアルなりポーションなりでしっかりと体力の回復はさせておいた方がいいだろう。
内側に積もる疲労は、本人の意思に関係なく表れてしまうものなのだし。

「さてと」

これから自分は年少組の様子を見てくるが11はどうする、とセシルが訪ねてきた。
11はウォーリア達へと目を向ける。
それから、もう少しこの二人の対戦を見ていると返した。

「そう?まだまだ長くなりそうだけども」
「大丈夫です。この一戦が終わりましたら、私も休みますので」

それに、放っておけば回復を怠ってしまいそうなあのふたりをしっかり回復させないうちには休みたくても休めない。
そう穏やかに微笑む11にセシルはそれもそうかと笑みを返し、食事を摂っているであろう他の仲間達の元へと赴いて行った。

セシルを目で見送り、再び11は手合せ真っ只中のふたりへと視線を向ける。
ふたり、とはいっても、11の目に映るのは概ねウォーリアの姿なのだが…。
力強い瞳に揺るぎはひとつもなく、繰り出される剣は重さを備えたもの。
揮う腕は逞しく、身のこなしに隙などはない。
翻るマントすらも11の目を惹きつける。
日中脳裏に刻み込んだそんな光景は、夜も更けた今も尚鮮明に思い出すことが出来ていた。

あの後、4戦目を終えたふたりにはしっかりと回復を施させた。
それから食事をするように促して、セシルと同じく年少組の様子を見に行っていったクラウドとも合流して夕食を共にした。
何気ない会話を楽しみ11は今ひとり、テントの中にて眠るべく寝具に横たわっている。
しかし目を閉じても浮かぶのはウォーリアの勇姿ばかりで、お互いに触れ合う鼓動とは別の、高揚とした気分になかなか寝付けずにいた。
もっと他に馳せるべきことがあるだろうに、自分らしくもないと口元が笑む。
こんな状態ではいけないと、早く就寝してしまわなければという思いはあるが、だが、こうしたひと時がまた心地良い。
その心地よさに身を委ねながらいつしかウトウトとしてきた頃に、ふと、テントの外から人の気配が感じられた。

「11。起きているだろうか」

そうかけられた声音に、11は閉じていた目をゆっくりと開く。

「…ウォーリア?」

目を開ききり、寝具から身を起こしているとウォーリアがテントの幕より姿を現した。
11がどうして、とランプに手を伸ばそうとするが、それはウォーリアによって遮られる。
それから、ウォーリアの手が11の頬へと触れてきた。
太く節ばった指が愛しげに11の頬を撫でる。

「どうか、しましたか?」

今宵はそんな予定はないはずだ。
随分と前に交わした約束があるのだし、ウォーリアは約束を違えるような人物ではない。
それなのになぜ、と11は戸惑いながらもウォーリアの手に手を重ねる。
ウォーリアはそんな11を暗がりにもしっかりと見据えた。

11が動揺しているのは気配から充分に窺える。
それも当然だろう。
彼女は自身を信頼し、親愛の情を向けてくれているのだから約束事を違えることなどないと思っている。
そして自分自身、11の信頼を裏切るつもりはない。
つまりは11の杞憂に過ぎないのだが、そうも動揺を隠し得ないとなると少しばかり構いたくなってしまうのは人の性というものではないだろうか。
頬に触れたままに親指を11の唇へと這わせる。
艶やかに滑る柔らかさは頬より僅かに暖かい。
この唇から自身に向かって紡がれる言葉は心地よく響き、重なる時に漏れる吐息は熱いものだとよく知っている。

「ウォーリア……」

掠れた、しかし熱の篭った声音が11の唇より漏れ聞こえた。
そんな声を耳にしてしまっては、決心が揺らいでしまいそうになる。
だが、ここで約束を違えるわけにはいかない。

「…君の顔を見ておきたいと思った」

もう一度唇を撫で、手を離す。
もどかしそうに離れていくウォーリアの手を11は視線で追う。
膝に着き、その上で固く拳に結ばれた手。
そこから視線を上にあげれば、暗がりにもウォーリアの顔へと辿り着く。
差す光などない。
だから、どんな面立ちをしているかまでは判り難いが、きっといつもと変わらない真っ直ぐな眼差しを向けていることだろうと11は思う。

「夜が明けたら、君を見ている暇がないのだからな」

そう紡いだウォーリアに、11は少し顔を俯ける。
先日、混沌の神カオスの元へと繋がる道が開かれた。
そこに至るまでの道程は長く辛いものだった。
そしてそれも明日に控えた決戦により終焉を迎えることとなるのだが、この日のために交わした約束がひとつあった。
それは、その日が近づいたら触れ合うことはしないということ。
体を重ねてしまえば、その温もりを手放したくないと思ってしまう。
そんな心の弱さを持ったままに、圧倒的な力を持つ神とまみえることなど到底不可能であり、そう思い至った11からの取り決め事だった。
しかし触れられた頬は熱を持ち、あまつさえ彼に触れたいと思っている。

今触れたら、きっと自分は戦えない。
ウォーリアの温もりを護ることばかりに気を取られて、他の仲間達の足手まといになってしまう。
だからこそ余計にウォーリアに手を伸ばすことは適わない。
しかし、もし、こうして顔を合わせることがこれで最後になるのだというのなら。
だから、ウォーリアは今自分の前に姿を現したのだとしたら……。
不穏な11の思考を覆い隠すように、俯けた顔に髪がかかる。
その髪をウォーリアは掬い、11の耳へとかきあげ、再び11の頬へと手を伸ばした。

「だがやはり、君の温もりは離し難い」
「う、ウォーリアっ」

優しく包まれた両の頬にかかる手を、11は慌てて引き離そうとする。
しかし力で11がウォーリアに敵うはずもない。

「君はあの約束の時、温もりが弱さになると言っていたが…本当にそうだろうか」

そう紡いできたウォーリアに、11はハッと顔を上げる。
間近に迫った顔は暗がりでも表情が窺えるほどに近く、その目はやはり真っ直ぐと11へと向いていた。

「11。私にとっては君のこの温もりが力の糧となる」

この暖かさを護りたいと思うからこそ、一心に神へと立ち向かう覚悟ができているのだとウォーリアが紡ぐ。
神に対抗するには人の力などあまりにも微々たるものであり、戦いが始まれば11の身を案じる間などない。
しかし、それに立ち向かわなければ終焉は訪れないのだ。
そして、敗れるつもりは毛頭ない。
人とはいえ、こちらにはコスモスの残したクリスタルの力もある。

「だから君も、失くすことなどを恐れるな。全てが終われば、またこうして触れ合える」

共に戦おうと言うウォーリアの視線が11の視線を絡め捕る。
その強き眼差しに11は目を細めた。
あぁ、この目だ。
このどこまでも揺るがない意思を持つ目が、11を惹きつける。
11自身が求めて止まない強さ。
そんな頑なに揺るがない意思を持つウォーリアへの憧れがいつしか親愛に変わり、想い交わった後からは他の誰よりも傍で彼の姿を見てきた。
自身もそうありたいと、願い、欲し、そして手に入れられなかったもの。
だが、今やそれでも構わないと思っていた。
揺るげばウォーリアがそれを正してくれる。
それで十分ではないのだろうかと。
そして、今も。
ふたりで培ってきた想いを、無かったものにするわけにはいかない。
温もりが力を与えるものなのだと言うのなら、それに応えるのは自分の役目だ。
11は頬に宛がわれたウォーリアの手に手を重ねる。

「なんだか、いつも貴方に諭されてばかりですね」
「…そうだろうか」

苦笑いを浮かべた11に、ウォーリアは些か眉根を寄せる。
どちらかといえば、率直な己の感情を上手くあしらう11の方こそがウォーリアを諭していると言っても過言ではないような気がするのだが…。

「でも、結局は貴方のいいようにされてしまうでしょう」

そうクスクスと漏れる11の笑い声にウォーリアは仄かに笑みを浮かべる。

「君は、私には大分甘いのだと知っている」
「えぇ。それは自分でもそう思っております」

それでも、と11はウォーリアの手を頬から離す。

「だからこそ、でしょうか。今日はここまでと」

11の手が、ウォーリアの銀の髪を優しく梳く。
それから愛おしそうに頬を撫で、ふと、膝立ちに身を起こした。
後頭部に回された11の腕がウォーリアを抱き寄せる。
11の胸元へと顔を寄せることになったウォーリアは一瞬目を瞬かせたがそれも束の間で、柔らかに撫でられる頭の心地よさに身を委ねた。
そして11の引き締まった腰に腕を回して、軽く抱きしめる。

「厳しい戦いになりますけれども、どうか御無事で」
「あぁ。君も……」

そう言葉を返そうとしたウォーリアの顔より11の体が少しばかり離れた。
離れた感触にウォーリアが顔を上げると、そっと額に暖かな温もりが触れられる。
何のことはない、額に11の唇が触れているだけのことなのだが…、未だかつてこうされたことなどはなかった。
身長差ゆえに到底無理な話ではあったのだが、何分、彼女から口づけられるという行為自体は初めてのこと。
呆気にとられているウォーリアに11の微笑みが注がれる。

「言い伝えを思い出したんです」

額に贈る口づけは、祝福の証なのだと聞いたことがあるのだと11が言う。

「貴方に光の加護があらんことを」

子供染みた迷信かもしれないですが、と僅かに恥ずかしそうな声音を漏らした11の腕をとり今度はウォーリアが11を抱き寄せた。
いつも自身が11へと施していた口づけが、祝福の証、だというのなら。

「ならば、君は常に加護と共にあったということになるのだな」

そうウォーリアは、そっと11の額へと口づけた。

夜が明けたら、混沌の果てへと立ち入る。
未知の領域に足を踏み入れることは勇気のいることであり、そこに待ち受けているのは無常なる地獄であるのは間違いない。
しかしその先は……。

「11。君にも光の加護があらんことを」

混沌の先に訪れるものが光であると信じて、今一度ウォーリアは11を抱きしめた。

-end-

2011/9/6 ユリス様リク




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