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目途



「…相変わらず、手厳しいな」
「でも、そうでもしないと危険に苛まれるのは彼ら自身だからね」

夜が明けて、朝食を済ませて少したった頃。
コロシアムに行って来ると、意気揚揚と出掛けようとしていた年少組と20歳児を捕まえて訓練へと赴いてきていた。
連れられてきたのは、ティーダ、ジタン、バッツと久しぶりの参加となるオニオンナイト。
子供ながらも彼の戦い方には舌を巻くものがあるけれど、11に言わせればあの自信過剰ぶりが危なっかしいらしい。
確かに彼自身、その身に纏う称号に胡坐をかいているような一面を垣間見せることがある。
適わない相手とは戦わない主義だと大人びたことを言っていたけど、この先それがいつまで通用するのかという懸念もあるのだろう。

肉体を磨けば精神も磨かれる。またその逆も然り。
いつだったかウォーリアがそう言っていたことに倣って、11も彼らを指導している。
もちろん、11と同じく年少組みの指導をしている自分もだ。
だから今日もこうして11と共に鍛錬に出向いて来ている。

そこに合流してきたのが今隣に立つクラウドだ。
指導とまではいかないけれど時々こうして様子を見に来てくれる。
そして11の厳しい扱き様を見ては、つくづくクラウド自身訓練を受けた身であったらしいことに複雑な感情を抱きながらも感謝しているようだ。
そう。彼女が彼らに手厳しく指導をしている理由はそこにある。

この異界に突然放り込まれ、頭に残る記憶は皆朧気なもの。
自分の立場や地位。果ては仲間ですらはっきりと思い出すことができない。
それでも体に染み付いた仕草だけはしっかりと覚えていて、それは戦闘においても同じことだ。
正当なる訓練といえるものを受けたものとそうでない者の違いくらい簡単に判断できる。
それに戦闘における素人の剣捌きといったら、それを常としていたであろう自分たちからしてみれば危険極まりないものなのだ。

「暇なら、クラウドも混ざるかい?」

きっと君の剣技もレベルアップするよと提案してみれば即座に拒否の言葉が返ってきた。

「そういえば、フリオニールに呼ばれていたんだった」

そう、そそくさと去っていくクラウドの背中に向かって何か水分補給をできるものを持ってきて欲しい、と頼むと片手をあげて承諾の意を返してきた。
後で誰かしらが持ってきてくれるだろう。
これで心置きなく鍛錬に励むことができると、11たちの中に自分も合流する。

「セシル。クラウドは?」
「フリオニールに呼ばれていたみたいだよ」

尋ねてきた11に首を傾げて返す。
飲み物を持ってきてくれるよう頼んでおいたことも告げれば、それならばと11は彼らに体を向き返した。

「そろそろ本腰を入れていきましょうか」

そう頬笑む彼女の面立ちは美しいものだけれど、11から受ける鍛錬に日々苦しんでいる彼らにしたらそんな表情を楽しんでいる余地もないだろう。
もったいないと思うけども、戦いにおいてそんな考えは一切必要のないことなのだから、そんな自分の思考を振り払い早速始めようと促す。

今日の目的は、彼らに日頃課せている基本的な訓練の成果を見定めること。
2対2の実戦といこうかと告げれば、彼らにとって剣の素振りや構えの姿勢等々単純といえる訓練ほど退屈なものはないのだから、剣を交える鍛錬とあって浮き足立つ様子が見て取れた。
そんな彼らに、11と顔を見合わせて苦笑を零す。

開始の掛け声と共に剣のぶつかり合う音が響き渡る。
振り分けはティーダとオニオン、バッツとジタン。
オニオンの素早い仕掛けに後衛のティーダが追い打ちをかけるという戦略に、対峙するジタンはその身の軽さを活かして事もなく攻撃をかわしている。
ふたりがジタンの動きに翻弄されている間をぬってバッツが攻撃を仕掛けていくけども、オニオンもティーダも素早さに置いてジタンに引けは取らずサラリと身をかわしている。

「お互いの戦い方は勝手知ったるものですけども」
「うん。うまいこと避けるものだよね」

11の呆れた声音にそう返す。
彼女が思っているように、これでは防衛戦のようで成果も何もあったものじゃない。
それでももう少し様子を見てみようと、ふたりで首を傾げながら対戦に目を向ける。

こちらの思惑にいち早く気がついたのはオニオンだったようだ。
相手からの攻撃に対して避けることをせず、正面から剣を受け止める。それに怯んだところに連続して剣を振るっていけば、急な攻撃に受身を取ることが出来ずにバッツが身を転倒させた。

「オニオンは、さすが、といったカンジかな」
「そうですね。彼は賢いですし」

もともと戦い方についての不備はないのだから当然の結果では、と11が紡ぐ。

「魔法禁止の枷をつけてもこれだけ動けるのであれば、過剰な意識が出てきてしまうのも頷けます」
「あとは成長過程の段階で培われるしかないのかもね」
「えぇ。それよりも問題はやはり、彼よりも年長者である彼らでしょう」

子供であるオニオンよりもお遊びが過ぎると息を吐く。

「そうだね」

11の言葉に同意を示して対戦の終了を告げると、丁度良くしてティナが水筒を抱えてやってきた。
クラウドに頼まれてきたというティナから、ひと仕事終えた4人が次々と水筒を受け取る。

「おつかれさまです」

そうティナが自分たちにも水筒を差し出してきた。

「ありがとう、ティナ」

柔らかな笑みを浮かべて11が受け取り、ティナと立ち話しを始めた。

先ほどの厳しい表情から打って変わって覗かせる11の女性らしい振る舞いに、あの光の戦士は彼女のこんなところに惹かれたのだろうか、とふとそんなことが頭を過った。
ふたりがそういう関係なのだと口に出して言われたことなんかないけれど、お互いを尊重し合っているように見受けられるし、きっと自分の予想は外れてはいないだろう。
見た目的にもふたり並べばどこかの王宮を思わせるほど華やかなものだし、お似合いじゃないだろうか。
そんな自分勝手な想像を繰り広げているうちに、ティナと11の話も終わったのかティナとオニオンは宿営場へと戻って行った。

残されたのは、バッツ、ジタン、ティーダの3名。
オニオンが先に帰ってしまったことに不満があるのか、些かテンションが低くなっている。
そんな彼らの様子に再び11とふたりで苦笑を零す。

「とりあえず、もう一度基礎からやり直してみる?」

そう11に意見を求めると彼女も同意見だったようですぐさま頷き返してきた。

「そうですね。では素振りから始めましょう」

本日のノルマは300本だと11が告げると更に3人のテンションが低くなっていった。

「厳しいね、11は」
「いえ。セシルの方こそ500本、とか考えていたのでしょう?」

考えていたことの先読みをされてしまった。
でもそれではさすがに対戦後の彼らにはきついだろうと、自分より先に回数を提案したのだという。
少しばかりの彼女の優しさなんだろうけれど、300でも500でも、彼らにとって苦行に変わりはない。
それでも簡単に見えるこの訓練の意義は大いにあるものだ。

正しい姿勢を掴むことで、今現在持てる力を正確に剣に伝えることができる。
それから重要なのは集中力。
彼らにとって不足になりがちになる集中力を鍛えるために、同じ事の繰り返しとなる素振りは最適だ。

11はティーダの背中に手を宛がい、姿勢が真っ直ぐになるよう導いていく。
自分は、剣を振り下ろした時に伸びる両腕の均衡に気をつけるようバッツに指導を施す。
そうしているうちにひとつ気になっていたことを思い出した。
ジタンの手首の返し方に指摘をして、3人の姿勢を見渡せる位置に移動する。

「先ほどの対峙で、あらたな課題も見えてきたようです」

そう、自分の横に寄ってきた11に早速聞いてみる。

「そういえば、君の剣の流れ方、最近ウォーリアに似てきたよね」
「…よく、見てらっしゃいますね」
「うん。11の戦い方、参考になるんだよ」

だから余裕のある時は勉強がてらに窺わせて貰ってるんだと言うと、視線は真っ直ぐに3人に向けながらも軽く溜息を吐いてきた。

「少し、前の話なのですが」

振り下ろし方が鈍ってきたティーダに叱責をして、ぽつりと話し始めた。

自身の戦い方に不安を抱いていた11が頼った先はウォーリア。それから、時間を見つけては彼に剣技の指導を受けているのだという。
以前、ウォーリアとふたりで彼女の鍛錬に割ける時間があまりにも少ないのではないのかと懸念していたものだけど、どうやらその心配も自分の知らないうちに解消されていたみたいだ。
良かったじゃないかと言えば、それはそうなんですけれど、と口篭もった。
彼女らしくない仕草に、何か問題でもあったのだろうかと頭を捻るも当人ではないのだから思い浮かぶわけもない。
むりやり彼女から聞き出すわけもいかないし、と考え込んでいると11が口を開いた。

「ひとつ、お願いしてもいいでしょうか」

私が言ってもなかなか聞いてくださらないので、と言う11に話が見えないながらも了承する。

”報酬も、ほどほどにしてください”

それだけをウォーリアに伝えて欲しいのだという。
第三者から言われれば、彼もきっと言うことを聞いてくれるはず。そんな期待を込めたような11の言葉。

「なんのことかは、聞かないで頂けるとありがたいのですが」
「あぁ。うん。伝えるだけ伝えておくよ」

そう返せば、少しだけ安堵したような声音で、ありがとうございます、と告げてきた。

それからはいつもの11らしく、厳しくも凛々しい声音で3人に指導の言葉を掛け始めた。
そんな11の顔をそっと横から覗き見る。
どんな時も顔色ひとつ変えることのない印象のある11だけど、その顔には少しだけ赤みが注していた。
これは自分の感が当っていたのだという確信のひとつになる。
それならば11の言っていた ”報酬” の意味、そして ”ほどほどに” と言われるほどのウォーリアの彼女に対する愛情の深さが自ずと窺い知れるものだ。

「彼、真っ直ぐだもんね」

そう漏らした言葉は丁度3人の元に向おうとしていた11には聞き取り難かったようで、振り向いた彼女になんでもないよと返せばそのまま彼らの指導へと足を運んでいった。

頭の隅に時々過る映像。
はっきりしないながらも、どこか恋しさを思わせる面影。
それが浮かんでくることが日に日に多くなってきているのは、もしかしたらウォーリアと11、ふたりの姿に何かを重ねているからなのかもしれない。

この戦いが終わりを迎えれば、きっとその面影に会う事は適うはず。
そんな希望を胸に秘め、来るべき日に向けて今は彼らの育成に専念しなければと11の後に続く。

-end-

2010/6/2 カムラ様リク




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