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靡ける者



「ほんっと、11って硬いよねぇ」
「うぅ…それはまぁ、否定できませんけどねっ…て、イタイイタイイタイってばセシル!」

そう11が喚くと、あぁごめんごめんと大して気にも注してないかのような口調でセシルは力を緩めた。
何が行われているかといえば、11が足を伸ばして座り、背後に立つセシルが11の背中を押しているという、いわゆる屈伸運動である。
セシルいわく、11の剣捌きがいまいちなのは体の硬さに原因があるという。
このままではこれから先、いかにレベルアップをして行こうが元々の硬さがそのままでは宝の持ち腐れになってしまう、との懸念により今こうして柔軟体操を行っていた。

「何をしている」

つい先ほどまで、少し離れたところで鍛錬に励んでいたウォーリアがふたりの元へとやってきてそう尋ねてきた。
後ろには手合わせの相手であったフリオニールもついてきている。
セシルが御覧の通りに柔軟運動だと告げた。

「そんなに、硬いのか?」

興味深気に聞いてくるフリオニールに、セシルは11の背中を押して見せる。
するとさっきのように喚くとまではいかないが、11の口から苦しそうな呻き声が聞こえてきた。
その声にウォーリアとフリオニールは顔を見合わせる。

確かにこの硬さは闘う者としてどうだろうか。
剣を振るうにも筋肉で劣る女性であれば、それを補うべく体のしなやかさは必然である。

そうふたりは判断し、手伝う旨をセシルに伝えた。
大切な仲間、11のため。
彼女が危険に苛まれないよう、その手伝いが出来るのであれば幾らでも力になろうとふたりは至って真面目に申し出た。

「え、いや、そんな大事ってことでもないし…」
「あぁじゃあ、ウォーリアは11の背中押してくれるかな」
「うむ」

セシルに言われ、ウォーリアが11の背後に立つ。
それから背中に手を当て、前へと押し込んでいく。
容赦なく屈折させてくるウォーリアに、11は眉間に皺を寄せながらもなんとか懸命に腕を伸ばす。
だが、腕を伸ばした所で柔軟性が増すわけでもなく腰の関節が悲鳴を上げる。

「俺は何を手伝えばいい?」

そう尋ねてくるフリオニールに、セシルは11の様子に小首を傾げて眺めた後、閃いたかのようにポンと手を叩いた。

「フリオニールには11の手、引っ張ってもらおうか」
「よし、まかせろ!」

早速フリオニールは11の前に立って手を掴み、グっと手前へと引き寄せる。
足が曲がってしまっては意味がないから、フリオニール自身の足で挟み込んで固定するのを忘れずにだ。
ふたりともそれはそれは真剣に取り組んでくれている。
たいして11はといえば、齎される苦痛に顔が歪んでいた。
ギギギと聞こえてきそうな歯の食いしばりに、目には涙を浮かべて。

「ねっ、ねぇっ苦しい…つか、イタイっ……!」

圧迫される腹部から、どうにか声を捻り出すも ”頑張れ” だの ”まだまだ” だのそんな言葉が返ってくるだけである。
そんな言葉を返された11の心中は言葉で現すには不適切な罵詈雑言のオンパレードだ。

苦手なことは苦手なのだ。
それに体が硬いことなど持って生まれたもの。
この体でこれまでも11的には充分にやってのけてきた。
改善した方がいいと言われれば、素直にそれも聞き入れよう。
さっきまではそう思ってセシルと励んでいたのだから。
だが、改善するにも時間は必要なわけで、急にあれやこれやとやったところで効果の程はいかがなものか。
なのにこの扱い様。
親切心からやってくれているのだろうから余計に性質が悪い。

そう11が頭を悩ませていると、セシルが誰かと話している声が聞こえてきた。
この声音はバッツだ。
どうやらウォーリア達と同じく、何をしているのか様子を見に来たらしい。
11はバッツの登場に一筋の希望を抱えた。
この男なら、体の硬さなんて関係ないと、そんな能天気な言葉のひとつも掛けてくれるかもしれないと。
しかし11の希望も虚しく、バッツから発せられた言葉は

「なんか楽しそうだな〜」

との、なんとも御気楽な言葉だった。
一筋の光を奪われ意気消沈している11の隣にバッツが屈む。

「11、痛い?」

そう問われ、11は必至に首を縦に振る。
楽しそうとは言っていたが、苦しさをアピールすればなんとかしてくれるかもしれないと思ってだ。
バッツは11の反応に立ち上がり、フリオニールに手を放すよう告げた。
少しの間、力が緩む。
おそらくセシルに確認をしているのだろう。
その後に漸くフリオニールの手が放された。
僅かにだが体が楽になる。
相変わらずウォーリアが背中を力強く押してはいるが、前からの引っ張り感がないだけでも随分と違うものだ。
ホッと安堵した11だったが、それも束の間、広げられる足の感覚に勢い良く顔を上げた。
それに気がついたバッツが笑みを覗かせてくる。

「いやさ、足広げた方が効果的なんだぜ」

そう11の足を可能な限り広げて行く。
なるほど、と、もう片方の足はフリオニールが。
悲鳴を上げる股関節に11は思わず喚いた。

「やだ!もうっ!いいからもうやめてよ!」

痛いよ!と訴えても、彼らからの拘束は解かれることはない。
この一連の権限を握っているのは、セシルだからである。
セシルの指示がそれを良しとしていないのだから、解放されるわけがない。

「11−、諦めたらそこで終わりだよ」

などと、どこかで聞いたような台詞をそれはそれは穏やかな声音で説いてきた。
しかし11の我慢ももう限界だ。

「セシルの鬼ー!もうダメ、皆ももうキライ!」

そう泣き叫んだ。

「ふーん。鬼、…ねぇ」
「心外だな、キライとは」
「11、お前のためにと思ってやってるんだぞ」
「つーか、こんくらいで痛いとか、戦闘舐めすぎだって」

上から、セシル、ウォーリア、フリオニール、バッツの言葉である。
バッツに至っては語尾に(笑)が付きそうな口調だ。
本気で泣いた所でやめようと、そうは思わないのが彼らである。
フリオニールの言う通り、11のためにと真剣に取り組んでいるのだから。

その後もあれやこれやと形を変え、強制的に柔軟をこなさせる事小一時間後。
ぐったりと沈み込んでいる11とは対照的に、一仕事を終えたかのような爽快感を覚えながらセシル以外の三人は各々のテントへと戻って行った。



「11、疲れたかい?」

柔軟中の厳しい言葉とは打って変わった優しいセシルの声に、疲れよりも体が痛いと文句のひとつも言いたい所だが、もはや11にはそんな気力もなくただ無言で頷き返した。
そんな11の様子に満足そうに軽く頷いたセシルは、11を軽々と抱え上げた。

麗しい容貌からは到底不釣合いな力だと11は思う。
見た目に反して、力どころか言動もなかなかに我が強いというのか、有無を言わせぬ何かを秘めているといえばいいのか。
抵抗をしようものなら先ほどのように、更に輪をかけて物事を推し進めてくるセシルには到底敵わないものだと11は心の中で溜息を吐いた。

「そんなに堪えた?」

大人しく抱え込まれている11にセシルはそう尋ねる。
当たり前だ、とは口が裂けても言えない。
そんなことを言ったらきっと彼のことだから、次はもっと過酷な柔軟メニューを提案してくるだろうから。
なんだって柔軟ごときでこんなにも精神的にも肉体的にも疲労困憊に陥らなければならないのだろうか、と思いながらも11はまずこのセシルの問いかけに何と応えようかと必至に考えを巡らせる。
ヘタな返事は出来ない。
だからといって、無言でいるのも更なる危機に貶められそうで問題である。

「さっきの見てて思ったんだけどさ」

冷や汗をかきながら11が頭を捻っていると、セシルが声をかけてきた。
あれでは幾ら柔軟をやったところで柔らかさが増す気がしないね、と苦笑を零す。
今更そこに気がついてもらえても、まさしく今更だ。
だが、そこに気がついたということはこれから先は少なくともあれ以上の苦しみを齎されなくて済むということだろう。
安堵に11はセシルの顔を見上げる。
すると、目が合った。
いつもの穏やかな、優しそうなセシルの微笑みに11は思わず頬を染める。
どんなに辛いことをされようとも、どうにもこの笑みには惚れた弱みか逆らえる気がしない。

「それに、やっぱり苦しいことよりも、気持ちいい方が長続きするよね」
「…は?」

今、セシルは何と言っただろうか。
長続きが云々。
まだ柔軟する気満々のようだが、それよりもだ。

「皆が手伝ってくれるのもありがたいけど、あんな11の顔見せるのは少し嫌だし」
「あのですね、セシル…」
「うん、決めた。これからは毎日夜の相手をしてあげるよ」
「よ、夜って……」
「何、とぼけてるんだい?夜といったらセ…」

慌ててセシルの口を塞ぐ。
真昼間から何を言い出すのかと11は険しい目つきでセシルを臨む。
何を血迷ったのだろうかと11がうろたえている内に、セシルが11の手を避けた。

「案外バカにできたものじゃないよ。それとも、僕が相手じゃ不服?」

そう真剣な面立ちで見返してくるセシルに11は息を詰める。
セシルが相手をしてくれるのは大歓迎なのだが問題はそこではない。
そもそもセシルと11は、そんな関係ではないのだ。
11がセシルに好意を寄せているのは事実なのだが、セシルが果たして11にそういった感情を寄せているのかといえば11にとっては大いに疑問である。
確かに基本的には優しく接してくれてはいるが時折今回のように鬼とも言える仕打ちをしてくる。
でもそれは11を労わってのことだと言われればそれまでのことだし、優しさだってただ”仲間”であるから当然のことなのだろうし。
11がそう考えた所で、セシルが何を思っているのかはわからないし、このままでは埒があかない。
それにセシルに抱えられている以上今11の身は彼に委ねられているのだ。
ということはこのままでは本当に彼の良いように扱われてしまう。
いくら11がセシルに惚れているとはいえ、想いが交わることなく体の関係を持つことなんてお断りだ。
子供と言われようが、そこは11の譲れない所である。

「あのさ、そういうことは好きな人とですね、こう、想いが通じ合ってからってのが」

そう意を決して口を開いた11だったが、丁度辿り着いた先のテントは11のモノ。
セシルが幕を開くと11の日頃の怠惰のせいか、寝具は引きっぱなしだ。
己のだらしなさと、身の危機に背筋が凍る。

「なら、これから僕のこと好きになってよ」

好かれるように頑張るから、と寝具に降ろされながら11は、あれ、もしかしたらこれは両想いなんじゃないのだろうか、と思いながらも、確信を得る機会などなくそのまま11はセシルに覆い被さられた。




それにより効果を得ることができたのか怪しい所だが、時期にしなやかに剣を振るう11の姿が見られるようになった。
そしてかつての協力者の3人は、11の ”キライ” という言葉に釈然としないものを抱えていたが、11の剣捌きにそんな胸の蟠りも晴れ、手伝った甲斐があったととても喜んだという。

-end-

2010/11/1 みい様リク




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