DFF | ナノ




懐い



バタバタと騒々しい音が頭上に響いている。
肌に纏わりつく衣服が心地悪い。
テントの外はあいにくの雨模様。
こんな日は、外に出るのも億劫だ。
ちょっと高台にテントを張ってあるから中に水が入り込んでくる心配はないけれど、雨による湿度に加えて高い気温が体をだるくしている。
やる気が出ないのはこのジットリ感もあるからなのだろう。
今のところ急いた用件はないのだし、今日は1日テントに篭って過そうと心に決め、敷きっぱなしだった寝具へと寝っ転がる。

バッツが散策に出かけてから何日経っただろうか。
ジタンとふたりで出かけていって、この宿営地に今残っているのはスコールと自分とクラウド、ティーダの四人だ。
なんだか微妙な組み合わせだけれど、ティーダがスコールにちょっかい出してはクラウドに窘められているなんて面白い光景が見られるから割と四人での生活は楽しんでいたりする。
それでもバッツがいないと物足りないなぁ、なんて思ったりして。
すぐに戻るなんて出かけていった割には未だにさっぱり戻って来ない。
バッツのことだから、何やら面白そうなものを見つけてそれに夢中になってたりするんだろうことはとても想像しやすくてわかりやすい。
そして自分のこの予想はきっと当たっているんだろうと思うと、自然と顔がにやけてきてしまう。
帰りが遅くなったのを悪びれもしないで、お宝自慢腕自慢も始まると思う。
ジタンの手際の良さを悔しそうに語る様だって、ありありと想像ついちゃうんだけど。
あぁ、やばいな。
なんだか無性にバッツに会いたくなってきてしまった。

何日も顔を会わせない日なんて珍しい事でもない。
逆に自分が宿営地から離れて過すという日もあるのだし、総じて考えれば何てことはないはずの当たり前のことなのに、理由もなく会いたいとか、声が聞きたいとか。
うっわ、なんだか妙に乙女チックな思考になってきてしまった。
いやいや、こんなの自分らしくない。
バッツは自由あってこそのバッツだし、そんなバッツが好きなんだから、これでいいじゃないか。
会いたい、とかそんな束縛するような想いはちょっと我侭だろう。
自分だって束縛されるのはイヤなのだし。
でも、好きだからこそ会いたいってのもあるのだと思う。
会って何するってわけじゃないんだけど。
顔を見るだけでもホッとするっていうか……安心するっていえばいいのか、こう、心の安らぎを求めるみたいな感じなのかな、会いたいと思うのは。
一緒にいるだけで嬉しいし、バッツの自分を呼ぶ声とかすごく色っぽくて好きだ……って!
あぁああ自分は一体こんな真昼間から何考えてた?
え、なに、欲求不満なの?
いや確かにバッツは今ここにいないから、えぇまぁそういうことは一切ないですけど、だからってそこに考えが至っちゃうなんてどういうこと。
不意な発想にひとり寝具のうえで身悶えていると、テントの幕の擦れる音が聞こえた。
ハッと目を向けると、そこにいたのはバッツ。
目と目が合ってしまった。

「あっ、ぉおお帰りバッツっ」
「おー、ただいま。…て、何してんだ、11」

こんな蒸し暑いのによく布団の上でゴロゴロしてられるなー、とバッツがテントの中へと入ってきた。
ボタボタと、体から滴る水と共に。

「いやいや、バッツこそなんでそんなびしょ濡れで登場?」

テントの中が濡れちゃうよ、と慌ててタオルを取り出し体を拭くよう手渡して、その間に自分は寝具に被害が及ばないよう早急に布団を仕舞いこむ。
それから流石に一枚では拭ききれないだろうということに気がつき、追加のタオルをバッツへと渡した。
バッツは衣服を脱いで、下着1枚の状態で濡れた体を拭いている。
下着も濡れているから気持ち悪いとは言うけれど、そればかりは脱がれるのは勘弁だし、かといってバッツの言う、自分の下着を履いたバッツの姿なんて見たくはないから丁寧にお断りする。

「そんなビショビショならまずバッツのテントで着替えてくれば良かったじゃない」

そもそも雨避け対策もしないで帰って来たのは自業自得だという自分の説教じみた言葉に苦笑いを零しながらも、やっぱり気持ち悪いからとバッツが下着を脱ぎ去ってしまった。
慌てて目を逸らすも、ちゃんと隠してるから大丈夫だというバッツの言葉を怪しみながら目を向けてみるとタオルを腰にまいている姿が目に映った。
ホッと胸を撫で下ろす。
そして何だろう。
せっかく人が珍しくも可愛らしい思考を漂わせていたというのに(後半ややおかしかったけど)、それを打ち壊すタイミングで現れたバッツってやっぱりバッツらしいというか。

「急いで帰って来たからさー」

こっちの方に近づくにつれて雨脚は強くなっていくばかりだったのだという。
それでも、じわりじわりと濡れ始めていた体を今更どうこうしようとは思わずに、そのまま帰ってきた結果だとバッツは笑う。

「だからって、風邪でもひいたら厄介でしょ。ほら」

しっかり髪拭いて、とバッツの頭にタオルをかける。
それからバッツに座るように促して、ゴシゴシとタオルでバッツの頭を拭いていく。
そうしているうちに、そういえばジタンの姿を見ていないことに気がついた。
ジタンは自分のテントに戻ったのかと尋ねると、 「俺だってたまには癒されたいんだよ」 との言葉を残して、道中会ったティナとオニオンについて行ったのだという。
確かにティナには自分も癒されるから気持ちはわかるっちゃわかるけど…なんだか同じ女としての差を突きつけられたようでちょっと虚しい。
まぁ、癒しとか、自分のキャラではないのは自分自身よく知ってるからいいけどさ。

「で、11は何してたんだ?ゴロゴロ転がって。散策行ってたかと思ったんだけど」

一応覗いてみたら居たからちょっと驚いたとバッツが言うけど、ひとり身悶えてました、なんて口が裂けても言える筈がない。
バッツに会いたくて、とか、声が聞きたくて、とか。
そんな恥ずかしい言葉、口になんて出せない。

「あぁ、うん。この蒸し暑さがねー、ちょっとだるくてさ」

元々湿度の高さに動くのを億劫と感じていたのだから、嘘は言っていない。
その過程で、あんな思考に至ってしまっただけで。
そんな自分の返答にバッツが関心薄そうな返事を返してきた。
バッツの手が、頭を拭いていた自分の手に重なる。
ありがとうと、それから自分も座るよう促してきた。

「結構収穫あったんだぜ」

対面に座ると、早速バッツの話が始まった。
案の定予想的中とばかりに、顔がにやけてしまう。
まずは定番のお宝探しから始まって、次には敵からのライズ品取得勝負。
それに飽きたら周辺の探索等々、余すことなく楽しんできたらしい。
お宝の数々は、このテントに来る前に荷物置場へと置いてきたから後で片付けなくてはという。

「それは、私にも手伝えってこと?」
「お宝好きだろ、11」

結構キレイ目な素材とかもたっぷりあるから楽しみにしてろよと言うバッツの言うように、お宝は大好きだ。
ピカピカ光るモノとか、キラキラ輝いてたり、かと思えば、これは一体何に使うのだろうかと頭を捻る物体だったり、触るのも遠慮したい姿形をしているものとか、見ているだけでもとても心弾んでくる。
何なら一日中荷物置場となっているテントに篭っていてもいい、と思えるほどに。
こんな雨の日ならそれこそ気分転換にとお宝整理に勤しんでいれば良かったのかもしれない、なんて今更気がついたところで過ぎてしまった時間は取り戻せないけど。

「じゃ、バッツの着替え取ってこよっか」

いくら宿営地内にて安全だといえどもタオル1枚の姿でうろつかれるのもどうだろうと思い、そう立ち上がろうとしたらバッツに制された。
どうやら話はまだ終わりではなかったようだ。

「それからジタンと別れてー。帰りしなにあっちこっちに寄り道してたんだけどな」

なんと、とバッツが嬉しそうな顔を覗かせた。

「チョコボの巣、見つけた」
「チョコボって…、あの時々お宝運んできてくれる?」

時々、宝箱を置いていく黄色い鳥。
唐突に現れては颯爽と去っていくものだから、果たしてどこから来てどこに帰っていくのか不思議に思っていたものだけど、そのチョコボたちの巣を見つけたとはバッツらしい。
久しぶりに触れるチョコボの感触。
それも複数匹ともなるとバッツのテンションもいつも以上に揚がったのだろうことは想像に容易い。
そもそも嬉しそうに語るバッツの面立ちが余すことなく喜びを表しているし、バッツにとって懐かしさを感じるチョコボとの触れ合いはよっぽど幸せな時間だったに違いないのだろう。
こういう無邪気さ溢れるバッツが大好きなのだと、あらためて思う。
バッツが嬉しいと自分も嬉しい。
この人の笑顔を見られるだけで自分の心は幸せに満たされるから、それが心地よくて。
今日の鬱々とした天気も相まって、だからに無性バッツに会いたくなってしまったのかもしれない。
そんな暖かな気持ちを抱きながらバッツの話に耳を傾けていると、 「そうだ」 と思い出したかのようにバッツが脱いだ衣服に手を伸ばした。
濡れた服、早く洗濯しなきゃと思いながらその様子を眺めていたら、お土産だと一枚の羽根を手渡された。

「お揃いな」

と色褪せたもう一枚の羽根をヒラヒラと見せてくる。

「あ、ありがとうっ」

貰った羽根に目を落とす。
雨のおかげで少ししっとりしているけれど、艶良く鮮やかな色合いが抜け落ちたばかりの羽根だということを教えてくれる。
あぁ、どうしよう。
たった一枚の羽根だけれど、どんなお宝よりもとても自分の心を惹きつける。
お揃い、それもふたりだけの。
バッツみたいに肌身放さず大事にすると告げると、バッツは嬉しそうな顔を向けてくれた。
それから 「でさ、」 と手に触れてくる。
指を絡ませ、握られる手。
繋がった手の平がなんだか熱い。

「チョコボ、懐くし賢いし、手触りいいし、ホントかわいいヤツだなって思ったんだよ」

きっと元いた世界では自分にとってかけがえのない存在だったのかもしれないとバッツが言う。
いっつも傍にいて、どんな時も苦楽を共にしてきた、そんな気がすると。

「で、そんなこと思ってたらなんか無性に11に会いたくなっちゃってさ。だから雨の中急いで帰ってきた」

なのに、自分は蒸し暑さに転がっていたなんてとバッツが肩を落とす。

「ちょっと期待したんだぞ。珍しくテントに篭ってるし、もしかしたら11も俺に会いたいとか、そんなカンジに不貞腐れ寝でもしてたのかなってさ」
「はぁ、まぁ、その…」

半分ハズレだけど半分は当たっている…てか、会いたいとか。
同じこと思ってくれてただなんて、これほど嬉しい事はない。
嬉しさ余ってなんだか曖昧に言葉を濁してしまうほどに動揺していると、絡んでいるバッツの手が少しの力を加えてきた。

「ねぇ11。ここ数日本当に一回も俺に会いたいとか、思わなかった?」
「いや、それは…ねぇ?」

会いたいと明確に思ったのはさっきが初めてだけれど、バッツのことを想わなかった日なんてものはない。
ただ、それを口にするのが恥ずかしいだけで……今更恥ずかしいも何もないのだろうけど、でもそうなのだから仕方ない。
こればかりは自分の性格だ。
そしてそんな自分の性格をよく知るバッツに曖昧な誤魔化しが通用するわけもなく。

「ん?何?」

聞こえないと、バッツが徐々に顔を近づけてくる。
軽く触れた唇。
それから、「会いたかったって、言ってよ」 なんて耳元で紡がれてしまったとなれば、自分も素直にならざるを得ないことをバッツはよく心得ている。

「……会いたかった。…すごく」
「うん。俺も」

そう満足そうな優しい笑みを覗かせるバッツがひどく大人に見えて、そんな年相応な風貌に弱い自分は頬に触れてくるバッツの手を拒むことなく受け入れる。
外はあいにくの雨模様。
まだまだ止む気配はない。
しっとりとした湿気が鬱陶しいけれど、こんな日は愛しい彼とのんびり過すのもいいんじゃないだろうか。

-end-

2011/6/21 いいだ様リク




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