DFF | ナノ




博戯



「おぉ〜、やってるやってる」
「…何だ?」

宿営地を出たすぐ傍の野原にて、ジタンの漏らした言葉にスコールはバッツと11の姿を見つけた。
ふたりの手にはそれぞれの武器が握られている。
手合せだろうかと思うも、それならわざわざ宿営地を出ることもないだろう。
一体何をしているのだろうかと、理由を知っていそうなジタンに目を向けるとニヤリとした笑みを向けてきた。

「ちょっとばかし<本気の手合せ>、だってよ」

本気の手合せ、とは何だろうか。
それこそ戦域でやる意味がわからない。
いつイミテーションが現れるかもわからないというのに、そんな場所で悠長に手合せなどしている場合ではないだろう。
全く、相変わらずバッツの思考はどうなっているのか。
だいたい他の者ならともかく、なぜわざわざ11を相手に選ぶ。
戦士とはいえ恋仲である人物と危険地帯で鍛錬に勤しもうという気がしれない。
眉間に皺を寄せつつ止めようとスコールがふたりに向かって足を向ける。
それをジタンが押しとどめた。

「まぁまぁ、スコール」

まぁ落ち着けと、ジタンが近くの小岩に身も軽く飛び乗り腰を降ろした。

「11の身がカワイイってのはわかるけどさぁ。でもコレ、11が言いだしたことなんだぜ」
「11が?」


訝しそうに眉間を寄せながらも驚いたようなスコールの声音に器用な仕草だと苦笑を漏らしながらジタンは岩の上で胡坐を組んだ。
そんなジタン曰く、<本気の手合せ>にこの戦域を選んだのにはきちんとした理由があるのだという。
戦域で負った傷ならば、ポーション等回復手段は得られる。
だが戦域外である宿営地で負った傷は手当てを必要として自然治癒に任せるしかない。
それならば、一戦交える場として戦域の方が相応しいと言えるだろう。
確かにジタンが言うことは尤もな話だが…。
ならばなぜ、そこまでして<本気の手合せ>をする必要があるのだろうか。
それに岩の上で腰を落ち着けているジタンの行動もよくわからない。
なぜこうなっているのか知っていての行動なのだろうが…。

「でさ。俺たち、監視役な」

イミテーションがふたりの対戦の妨害にならないよう、見ていてもらいたいと11からの依頼なのだとジタンが言う。
依頼、と言われればスコール自身請け負わないわけにはいかない。
少なからず淡い想いを抱く11が傷つく姿を目にするのは忍びないが…戦う者である以上逃れることのできないことなのだし、万が一のことがあってもここからなら割り込むことも十分に可能だ。

そしてそんな心配とは別にスコールにとって少しだけ興味を引かれたということもある。
バッツと11、ふたりの戦う様だ。
どちらも、いや、バッツの方が断然顕著なものだが、普段あまり真剣に戦っているようには見えない戦い方だ。
そのふたりの珍しい真剣勝負。
原因は気になるところだが、目にしておいて悪いものでもないだろう。
そんな思惑をジタンに悟られないようスコールは仕方ないとばかりに息を吐き、ジタンの座る岩場に背を凭れかけた。

「でもま、見てるだけじゃつまんねぇしな。賭けでもしよーぜ、スコール」

どっちが勝つと思うと聞いてくるジタンを無視することも可能だったが、何せこの<手合せ>とやらは11が言いだしたらしいものだ。
それならば、11にとって何か勝機になるものがあるということなのだろう。
食後のデザートが賞品というのならば気軽に乗ってみるのも有りだ。
11と答えるスコールに対してジタンはそれじゃあ自分はバッツが勝つと、ニヤリと笑って見せた。




ジタンとスコールが現れたところで、バッツと11の応戦は止まることなく続いている。
バッツの薙ぎ払う剣に煽られ11の避けた先に現れる水飛沫。
寸でのところで11はそれをかわし、態勢を整える。
両者とも、まだ疲弊した面立ちは覗かせてはいない。
いや、どちらかといえばまだまだ余裕のある、そんな様子だ。
バッツの懐目掛けて襲い掛かる11の剣を剣で捕らえ、薙ぎ払われると同時に11の身体が身軽に翻った。

「俺も身軽な方だけどさ、11のあの動きもなかなかのもんだよなぁ」

そうジタンが感心したように零す。
数々のものまね技を駆使して繰り広げられるバッツの戦法は、彼が誰の、何のものまねが出来るのかを把握していたところで読み難い。
それを当身に喰らうことなく僅かでも避け続けられるのは確かに身軽な11ならではのものだろう。
しかし、それは11の身体能力に加えた集中力の賜物だ。
相手に対する集中力が切れた時、それは大きな反動となる。

「おっと、今のは危なかったんじゃないのか、11」

バッツの口元が綻んだ。
この手合せを始めたばかりの11の俊敏性が徐々に低下してきている。
現に今、11なら避けれるであろう魔法攻撃を剣で弾き返すに留まった。
そろそろ決着をつけてもいい頃合いかと、バッツは視界にスコールとジタンの姿を捕える。
11がジタンに頼んでいた対イミテーションの監視的な役目だが、どうやらスコールも来ていたらしい。
相変わらず難しそうな面立ちでもってこちらを見据えている。
まぁ、元からの顔立ちに加えてこの対戦に不服を呈してしるような様子だが。
さて、そんなスコールの為にももちろん自分の為にもさっさとこんな手合せは終えてしまおうとバッツが11へと集注を戻すと、不敵な笑みを浮かべた11が腰に手を当て立っていた。

「バッツこそ、こっちの足元浚うことばかり考え過ぎじゃないの?」

11がそう言うや否や、轟音と共にバッツの周りに爆風が巻き起こった。
咄嗟の出来事に目を点にしているスコールとジタンを他所に、11は剣を構え朦々と立ち込める土煙に向かって飛び掛かって行く。

「…発破、だよな?」
「……だろうな」

大方、動き回っている間にお宝探し用の火薬でも仕込んでいたのだろう。
いくら素早かろうが、多彩な技を持つバッツに馬鹿正直に真正面からかかって行ったところで敵う確率は低い。
それなら相手の裏を突く必要がある。
それが11にとっては爆風であったのではと、スコールが言う。

「うっへー…。あれが爆薬だったらと思うとゾっとするな…」

ジタンのしっぽが縮こまる。
火薬だったからせいぜい土煙で済んだものの、爆薬であったならあの至近距離でなら確実に致命傷を与えることが出来ただろう。
いくら<本気の手合せ>とはいえ…そうならなくて良かったと、無意識にスコールが胸を撫で下ろしていると、未だ視界を遮る土煙の中から11の奇声が聞こえてきた。
スコールは凭れかかっていた岩よりすぐさま身を起こし、ガンブレードを構え煙元へと駆け寄って行く。
煙に紛れてイミテーションまでもが紛れ込んだかと、ジタンも慌ててそれについて行くと、ふと、スコールが立ち止まった。

「おいっ、スコール!何やってんだよ…」

と、ジタンがスコールの脇を通り抜けようとすると、先ほどの11の奇声とはまた違う声が聞こえてくるのに気が付いた。
思わず、ジタンも足を止める。
漸く落ち着いてきた土煙。

「ふ…、は……、バッ…ツ……」

と、途切れ途切れに何かを堪えるような11の声。
徐々に明確になって行くバッツと11の姿。
目に涙を浮かべ、震える11。
そんな11の腕を掴んでいるバッツ。
一見、11がバッツに無体な仕打ちを受けたかのようにも見受けられるのだが、よくよく見ればそうでないことが窺えた。

「も…、ホント、勘弁して…バッツ……!」

11が目に涙を浮かべているのは、笑いを堪えているから。
なぜ笑いを堪えているのかといえば、とジタンが呆れた眼差しでバッツを見やった。

「ホント、よくやるよな……」

呆れたジタンの眼差しもお構いなしに、バッツは未だ11の腕を掴み離さない。
それどころか、ますます11の笑いを誘っている。

バッツの能力、ものまね。
それはそもそもバッツの元の世界の特殊能力的な<ジョブチェンジ>という能力における<ものまね師>のものだと聞いていた。
他にもいろいろとあった気がするとは言っていたが、それはそれで、そのうち他のも思い出すのではなかろうかとバッツは言っていた。
そしてここ最近思い出したという、この世界での二つ目の<ジョブチェンジ>
それがこの<踊り子>である。
裾の広がるフレアパンツに、赤いシャツ。それも腹部も露わな悩ましい衣装だ。
そんなバッツらしからぬ衣装が11の何かに触れたらしい。
初見から大爆笑の嵐で、数日後を引いたほどだ。
それをこのタイミングで出すか、とジタンが呆れるほどに、バッツには11に負けたくなかった何かがあるようだ。
どこから出現させたのか、バッツに薔薇の花を差し出された11が笑い死にしそうで少しだけ心配だ。
これでは手合せの続行は不可能だろう。

「……で。これって、バッツの勝ちでいいの、か?」

そう問いかけてきたジタンにスコールは無言で頷いた。
勝機があったと見えたのに賭けに負けてしまったのは不本意ではあるが、ジタンのノリに珍しく乗ってしまっただけの己の浅はかさが招いただけのことだからまぁいいだろう。不本意だが。
それよりも、11の仕掛けた発破に臆することなく、11の弱点(?)を突いてきたのは見事としか言いようがない。
それが例え笑いを誘うものだとしてもだ。
これが味方との手合せなんかではなく、敵の陥れた罠だったとしたら大問題となるのだから。
食後のデザートレート倍となったジタンが悪ぃなスコールと陽気にしっぽを振る。
デザートくらいどうということはない、とスコールが溜息を吐いているとバッツから声が漏れ聞こえてきた。

「そうだ。そもそも俺たちも賭けしてたんだよな」

いつの間にやら<踊り子>衣装から、通常の状態へと戻っていたバッツが11の顔を覗き込んだ。
未だ11は笑いが収まっていない。

「賭け?バッツたちもか」
「そう。でなきゃ、11とわざわざ<本気の手合せ>なんかしないって」

まぁ、俺はいつでも本気だけどなとバッツが笑う。
と、同時に11の笑いがピタリと治まった。

「え。いや、今の、あれは反則でしょ!」

戦い中に変身だなんて、と11が顔色も悪く訴え始めた。

「いやいや、あれだって戦法のうちだぜ?とっておきは隠し持っておくもんだって」

さすがにあの爆風には俺も驚いたけどな、とバッツの手が11の腕を再び握った。

「11、こればかりは俺もバッツの意見に賛成だ。11も火薬を仕掛ける戦いなんて今までしていなかっただろう」
「あれが11のとっておきってことだよな」

ぜひとも敵には爆薬を使ってもらいたいとジタンが変なところで感心している。
三人にそうとまで言われて、11はぐうの音もでなくなってしまう。
11自身のとっておきが、まさかバッツのとっておきを出させてしまうなんて…と今更後悔しても遅いのだ。

「じゃ、そういうことで、観念してくれよな11」
「バッツ!」

そうバッツに軽く抱え上げられ11は足をばたつかせる。
それに目を白黒させているのはスコールとジタンだ。

「えーと、バッツ。…参考?までに聞くけども、何を賭けてたんだ?」
「何って…、そりゃあ決まってるだろ?」

言わせるなよ恥ずかしい、と恥ずかしさなど微塵も見せずに足取りも軽く宿営地へと戻って行くバッツ。
そして自信満々にバッツの戦法を肯定してしまった自分の愚かしさに胃の痛みを覚えたスコールは、食後のデザートだけではなく夕食自体をジタンに差し出すこととなった。

-end-

2012/04/24 いいだ様リク




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