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得心



「おーい、バッツ〜」

少し離れたところからジタンの声が聞こえた。
声のする方に目を向ければ手を振りながら小走りに駆け寄ってくるジタンが見えた。
こっちも手を振り返してジタンの帰りを迎え入れる。

今日は宿営地で留守番をしていた。
留守番というか、ついさっきまでは適当にイミテーションを倒しつつお宝散策に行っていたんだけど。ひとりで。
なんでひとりだったかといえば、寝坊したから。
誰も起こしてくれなかったことに少し肩を落としたりもしたけどでもまぁ、昨夜の頑張りようを考えたら寝坊するのも仕方ない……11はしっかり起きたようだけど。

11をおいしくいただいて、少し経った今日この頃。
その後もそれなりに仲睦まじく同衾すること数知れず。
いやよいやよも好きのうちとはよく言ったもので、襲い掛かってしまえばこっちのもんだ。
抵抗する素振りは見せるけど本気で嫌がってるわけじゃないし、ああいうことするのが恥ずかしいだけなんだろうこともわかってる。
そんな様子もこっちを煽ってるだけだって気付きもしないんだからまったく無意識というかなんというか。楽しいから今のままで良いんだけど。
なんか充実した日々だよなぁ、なんてひとり満足しているうちにそんな侘しさも消え去って、一汗かいて宿営地に戻ってきた所だ。
丁度ジタンも帰ってきたことだし、今日のお宝自慢大会でも始めようかと思っていたら何やら思わしくない顔で近づいてきた。

「おいおい、いーのかよバッツ」
「なにが?」

こっちに着くなり良いか悪いか言われても、話が見えないんだからそう聞き返すしかない。
そんな自分にジタンは呆れた顔でこっちを見上げてきた。

「俺がひとりで戻ってきたことについてなんか思うことはないわけ?」
「おぉ、お疲れ〜…ってか俺だってひとりだったぞ」
「いやいやいや、そうじゃなくてさぁ」

もの凄く深い溜息を吐かれてしまった。
その態度に改めてジタンの姿に目を向ける。
うん。いつもと変わらず元気なしっぽだ。
ただそのしっぽの揺れ方が、穏やかでないというか苛々しているようなカンジがするというか。
しっぽである程度感情が表せるなんて便利そうな不便そうな。
なんにしろジタンがはっきり言葉に出してくれない以上自分にはジタンの思っていることなんてわかるわけがない。
そういえばスコールと11が見えないなと話題を変えてみたら、待ってましたと言わんばかりに喰いついてきた。
ジタンが敵を追っているうちにふたりと逸れてしまったらしい。

「あー、…前々から狙ってたアクセサリ着けてたからさ。つい夢中になって」

と些かバツが悪そうな面立ちになったけど、それはまず置いといて、とまたこちらに話を振ってきた。
ふたりと逸れてしまったということは今現在スコールと11がふたりきりでいる可能性が高い。というか確実だろう。
となると、11に想いを寄せているスコールにとって絶大なチャンス到来じゃないだろうか。
自分もいない、ましてやバッツはひとり宿営地に置いてけぼりだ。
誰も邪魔するものなんていないこの状況。ここで行動を起こさなければ男が廃る…とジタンが妙に熱く語ってくれた。

「つーかジタンも気がついてたんだ」

スコールが11に気があること、といえば当然だと自信満々に返してきた。
気がついたのは最近だけど、気がついたらついたであいつわかりやすいよな〜、と苦笑を零す。
ここまで話してもらえば自分にもジタンの言いたいことが少しわかってきた。
要するにスコールに11を捕られてしまうんじゃないのかという心配だ。
捕られると言われてもスコールのあの様子じゃ可能性は限りなく低いと思うし、11ひとりで動き回るくらいこんな明るい時間帯なら何も心配はない。そこに誰かしら仲間が伴っているのなら全く持って無問題。
それにそもそも11の気持ちの問題もあるわけで。
そう返すと今度は感心するかのように息を吐いてきた。

「…大人だな、バッツって」
「おう。立派な大人様だぞー」

俺だったら惚れた女が気のある男とふたりきりなんて気が気でないけどな、とジタンのしっぽがもどかしそうに揺れる。
ジタンの言うこともわかる。
11がどこで誰となにをしているのか気になるのは恋人という立場上当たり前のことだ。
目に届くところにいればいつもの如く11に関わるスコールの邪魔はできるけど、でもそれは姿が見えない今自分にはどうすることも出来ないわけだし。
そんな当たり前なことをわかってはいても少しくらい苛つく感情はあるけど…、ってこれってもしかして嫉妬ってヤツか?

まだまだ子供の部分が抜けきれてないところもあるけど実年齢からしてみれば随分大人びているし、男の自分から見たって何事もきっちりこなす態度は頼もしい。
むっつり寡黙なカンジも女からすればクールでカッコイイとかありがちなパターンだ。
対して自分はどうかと客観的に考えてみる。
……正反対?……ということは自分にはないものをスコールは持ってるということになる。
慣れ親しんだものより、新たな刺激を求めてしまうってのも充分ありえるけども。
こんな考えを表現するのなら嫉妬って言葉がしっくりくるような気もするけど、嫉妬といえばあれだろう。

男のロマン、お仕置きエッチ。

アイツの方がいいんだろー、とかお前のここがそうさせるのかーとか、うわ俺オヤジ臭ぇな。
でも11のことだから、そんなことないとか、やめてとか、また可愛らしい反応みせてくれるんだろうなぁ、なんて考えていたことが顔に出ていたらしくジタンから白い目で見られてしまった。
緩んでた顔を引き締める。

「まぁ、気にしててもしょーがないってのはあるだろ。それに、ほら」

指し示した先にはスコールと11の姿。
ただいまー、と元気よく帰ってきた11が抱えているのはお宝の山。
スコールの腕にもそれはたくさん乗っかってるわけで、充実した散策だったことが窺い知れる。
自分と同じくお宝には目のない11だし、戦闘区域でスコールといい雰囲気になるなんてスコールが余程頑張らない限り無理なのは明らかなんだから。



食事当番のスコール・ジタンと分かれて、自分と11は手に入れたアイテムの整理をすべく荷物置場に移動する。
整理といっても大まかな選別だけだ。そのまま装備できるものとそうでないものに振り分けるだけ。
持ってきたアイテムを地面に置いて、さっそく仕分けに取り掛かる。


「…11ってさー」

キラキラ光るきれいなガラス玉に見惚れている11に声をかける。

「なに?バッツもほら、手休めてないで」

自分のことは棚に上げておいてサッサと分けてしまおうと促してきた。

「俺に嫉妬とかする?」
「するよー、するする」

なんとも軽い調子で応えてきたんだけど、その嫉妬というのが自分の思い描いていた方向性とは違うもの。
ものまねだかなんだかよく判らないけど、仲間の力を自分なりにアレンジして使いこなせる手腕はスゴイと思うものの妬ましいとか言ってきた。

「私の技だって、一目見て覚えちゃったでしょ?」

しかもオリジナル本人差置いて器用に披露されたとあってはそりゃあもうムカツキます、と言う。
まぁそれ自体が自分の技だし。戦術だし。そこにムカつかれてもと思うけど、今の話はそういう嫉妬ではなくてとさっきのジタンとの話題を出す。
11は自分が他の女の子とふたりきりになったら気が気でなかったりするのか。
そう聞いてみると動かしていた腕を止めてこっちの顔をジッと見つめてきた。

「いや、特には。だってバッツだし」

あっさりとそう言い放ってきた11に少しくらい嫉妬してくれたっていいじゃんかと拗ねてみれば、ごめんごめんと謝ってきた。
嫉妬するもなにも、この調和陣には女といえばティナと11自身のふたりしかいないわけで、そもそも自分とティナがふたりきりになったこともないのだからそういう感情が自分の中にあるのかわからないという。
11の言うことはもっともかもしれないけど、もっとこうジタンみたいに臨場感溢れる想像でもすればなんとなくそういった感情も出てくるんじゃないのだろうか。

「だって、目で見たものしか判断できないし」

バッツだってそうでしょ、と当然といった態度で返してきた。
確かになんにでも言えることだけど、己の目で見て判断するということは大事だ。

「んじゃあ、11が誰かと仲良くしているのを常に見せられてる俺が嫉妬するのは当たり前のことだよなぁ」
「えっ、バッツって嫉妬するのっ?」
「俺もさっきジタンに言われて気がついた」

そう。ジタンに言われるまで気がつかなかったんだよな。
今考えてみれば、スコールと11がふたりきりにならないように邪魔してたのだって無意識のうちの嫉妬からきてたものなんだろうし。
大人だなんて感心されてたけど、それに気付かせてくれたアイツのほうがよっぽど大人じゃないか。
それに、あって然るべき感情だと思うし、それはそれでいろいろと使い道のあるものというか。

「だからさー11。ちゃんと俺を慰めてよ」

11の頬を指でつっつく。プニプニしてて感触いいな〜なんて思いながら。
そうされてる11は ”は?なにそれ” と眉間に皺を寄せて理解しがたいような面立ちをしている。
こっちの気持ちを察することのできないその鈍さは相変わらずなところだけど、そこもまた11に惚れた一因だし。

「俺に嫉妬させる11が悪いだろ」

だからお仕置きしないとなー、と笑顔で11の頬を摘む。
すると途端に手を振り払って立ち上がり、ジタンたちのいる方へと走っていってしまった。
何もそんなあからさまに逃げなくても。

でもまぁ、一瞬だったけど羞恥に怯えたような顔見れたから良しとしよう。ここで逃出された所で同じ宿営地に留まっていることに変わりはないんだし。
ホント、可愛いヤツ。っていうか無用心なヤツ。
きっとジタンとスコールに隠れてコソコソ過ごすんだろうけど、そんな行動が余計にこっちを昂ぶらせてくるっていつになったら気がつくのやら。
でもまだそれを教えるつもりはない。
せっかく気付いた嫉妬心なんだから、もう少し楽しませてもらっても悪くはないだろうから。

-end-

2010/5/18 るる様リク




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