「やっぱり居た」

この声の主を巻き込んでしまったという気持ちもあるが、安心している私が居た。さっきまでの不安や緊張が一瞬にしてどこかに行っていた。この人の存在は本当に大きい。
しかもこんな状況でも楽し気に笑っていて自信と余裕がある、

「A子、こんな楽しいことしてるなら教えなよ」
「楽しそうに見えるのは雲雀さんだけです」
「……」

笑っていたと思えば急にムッとして足元にいる男を足で端に寄せていた。このパターンになると私は敬語を使っていたと気付かされる。この人はこの状況だからと言っても変わらなかった。


「大人しくしていてもらおうか」


同時に不快な腕が私の首に回されて強く引き寄せられ、私は一瞬首が締まる。カチャッと音がした方を見れば銃が雲雀さんに向けられ、一瞬にしてピリッとした空気が戻ってきた。
雲雀さんはそれでも余裕そうに表情1つ変えていない。

「君がこの騒ぎの主犯かい?」
「悪いけど今は時間がないんだ、大人しく引いてくれよ」
「ならA子を置いていきなよ」
「置いていく?コイツは利用されて価値が出るんだ。俺はコイツを利用できる」
「何言ってるの」

雲雀さんが兄にトンファーを構え、兄は再び口元を不気味に笑わせていた。その表情にゾクッと悪寒がした。元々雲雀さんに引いて欲しいだなんて思っていないことが明らかだった。
引き寄せていた私を乱暴に床に放り、一度私を睨んでから雲雀さんに視線を移す。雲雀さんと真正面からぶつかろうとしている。その為に私に「動くな」と言っているようだった。

そこからは更に空気が強張って私の入れる隙なんて無かった。
雲雀さんがトンファーをグッと握ると棘が現れ、即座に地面を蹴る。トンファーと銃がぶつかり合ったと思えばお互いに風をきる速さで攻撃を続ける。
間髪を入れず行われる光景に一瞬の気も反らせなかった。


ーーーピッ、ピッ…


どこからか電子音がした。

この前病院で聞いた心電図とは違う、何故か嫌な音に感じる。電子音の正体を見つける為に見渡して机の下に隠すように置かれたデジタル時計が目につく。
あれは、まさか…。


「雲雀さん、爆弾がある!」



雲雀さんがピタッと止まり、私が見てる方向を見る。
兄も止まって「バレちゃったか」なんて言っていた。

「だから時間がないって言っただろ?」

フゥ、と一息ついている兄に私も雲雀さんも警戒して目を離さずにいた。
そんなことも構わず、兄は雲雀さんが倒した男のところに向かう。よいしょ、と言いながら肩に担ぐ。

「バレなかったらギリギリまで時間を稼ぐつもりだったが…。その爆弾、あと5分で爆破する。」
「此処にいた証拠隠滅の為?」
「そーするつもりだったが、計画が変わっちまった」

机の下にあった爆弾を見ると05:00:00と表示されていた数字はどんどん減って、時間が迫っていることに緊張感がまとった。なんとかしないと周りを巻き込んでしまう。

私がふと周りを見るといつの間にか兄ともう1人の男が姿を消していた。それでも兄を追うなんて考えはなかった。此処にいた証拠隠滅の為だったのを、私を利用出来ないからと私達ごと爆破させようとしているんだろう。本当に最低な兄だ。
目の前にある爆弾をどうするか、頭を回す。

シュルッ

音がしたことに気がついたら後ろに雲雀さんが立っていた。私の両手を拘束していた紐をアッサリと解いてくれた。

「ありがとう」
「これどうしようか」
「……、私この爆弾を知ってる」
「知ってるんだ」
「うん、…だから私に解除をさせて」

爆弾を知っいるだなんて可笑しな事だけどそれでも、理由を知られてでも私は雲雀さんと生きたい。


「いいよ、A子に賭けてあげる」

爆発しても助けてあげるよ、だなんて言葉もついてきた。普通なら不可能だろうけど、本当にやってみせそう。

私は爆弾の入っている箱を触るとネジがドライバーが無くても指で回せるぐらい緩んでいた。
ネジを回して箱を開くと蓋の裏にはニッパーが入っていた。中には爆弾に流れる為の導線が2本あった。
解除する為に仕組まれていたようにも思えてしまう。

「導線が2本あるよ、よく映画であるやつだよね」
「雲雀さん映画を見るの?」
「僕を何だと思っているの。でも紫と黄緑の導線なんて珍しいね」

現時点で残り時間があと2分。
悩んでいる時間なんてなく、時間はどんどん減っていく。


私はニッパーを構えて紫の導線に当てる。


「絶対大丈夫だから」
「任せたよ」


パチンッと私はニッパーを握る手に力を込めた。


09




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