「出発は今日で良いんだろ?」
「あぁ、間違いない」
「じゃあ………」


遠のいていた意識がゆっくりと戻ってくる。そのままゆっくり目を開けると薄暗い空間が見える。私は意識を飛ばす事が多い気がする。頭がボーッとするのは眠らされていたからだろう。
私は手を後ろに回されて拘束されていた。意識を失う前の事を思い出し、現状から拉致にあったと理解する。

一体誰が…。

先ほどの会話の主は目の前には居ない。声はハッキリ聞こえた為、死角になるところで会話をしているのだろう。状況を理解する為の情報が欲しい為、そのまま気を失っているフリを続けた。

「おい、もう起きてんだろ。そんな演技で騙せると思うな」

いつの間にか目の前に男が立っていた。私の気を失った演技は無駄だった様で見透かされていた。
2人組でいるらしく、私に声を掛けてきた男の後ろにもう1人静かにこっちを見ていた。部屋が薄暗い為、顔がよく見えないが私を観察している様だった。

「…どちら様ですか」
「こいつ本当に記憶無くしてるんだな」

フンッと鼻で笑われたのがとても不快だった。記憶が無い事を知っていた。
私目当ての拉致?

「今のお前の状況を教えてやる。お前は落ちてきたところを雲雀恭弥という男に助けられた。そこで数日雲雀と共に過ごした。今日は雲雀が用があるから雲雀宅で留守番をして居た。そこで俺らに気絶をさせられてた。」

私の状況をスラスラを言っていく男に常に監視をされていた様で気持ち悪さで寒気がする。
自分の生活を見られているのはいい気がしない。
やっぱり雲雀さんではなく私が目的の様。だけど内容が分からず相手を伺うがヘラヘラしているだけ。

「お前が気絶して、4時間が経った」

4時間…?
思っていた以上の時間の経過。
すぐに雲雀さんのことが気になった。この人たちは雲雀さんには手を出していないだろうか。私が姿を消してしまったことで雲雀さんに迷惑をかけてないだろうか。



ジリリリリッ


この部屋では無いところから電話の音がした。
2人の男はその音にすぐに反応し、顔を合わせて今で喋っていた男が部屋を出ていく。出て行ったのを見ると、自然と私はもう1人の男を見る。その男は私を真っ直ぐ見ていた。

「そろそろ時間だ」

口を開いたと思えば静かに前に出てくる。
奥に居たから薄暗くて顔が見えなかったが、前に出てきたことで徐々に見えてくる。


その顔に見覚えがあった。

頭にハッキリと記憶が出てきた。


「……兄さん」


言葉にすると兄は口元を不気味に笑わせ、その表情を見た瞬間に私の頭の中がグルグル回る。覚えのない景色や人物、知識が記憶が一気に頭に入ってきた。


これは…

私の記憶だった。


大量の情報が入ってきていることで頭がグルグル回りり、まるで散らかっていた本を本棚に整理している感覚だった。


だがそれも1分程で治り、全ての本が本棚に収納された様に覚えのない景色や人物の記憶も思い出した。

全て思い出したんだ。

思い出したと同時にこの状況を全て理解した。
この状況になった理由を知っている。


「記憶が戻った様だな」


私には記憶が戻ったからと休んでいる暇はなく、すぐに意識を兄に向け、警戒をする。
立ち上がって兄から距離を取るために下がる。


「私は一緒に行きません」
「おいおい、選択肢があると思うな。お前は世の為になれるんだ」
「私のことは私が決めます」
「お前の意思なんて関係ない。前回はヘリから飛び降りるなんて思わなかったから逃げられたけどよ。今回はそうもいかない」


兄は近づいてきて荒々しく私を隣の部屋に連れていく。両手を拘束されている私は兄の力に逆らえなかった。

すると目の前に思ってもいなかった状況が広がっていた。


電話んしていたはずの男が床に倒れ、隣にトンファーを持った学ランの男が立っていた。

どうして…と思いながらも安心してしまった。








08




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