体に目立った異常が無かった私はすぐにでも退院したかったが、雲雀さんに強制的に2日だけ静養をさせられて検査もして入院をし、今日退院した。

数日ぶりの雲雀さん家の縁側がとても落ち着く。

数日経っても記憶は変わりなく戻っていない。私はまた1からだった。ただ1つ、雲雀さんに変化があった。

「A子」

私の名前を呼ぶ様になった。

声がした方を見るとダンボールを抱えた雲雀さんがいた。あまりにミスマッチな状態に笑ってしまいそうになってしまった。

入院前は名前を呼ばれた記憶がない。いつからか呼び始めたのかは驚いた覚えがあるのでハッキリと覚えている。

私が本音を話した日からだった。

まるで私はちゃんと存在している、と教えてくれている様だった。名前を呼ばれているだけなのに私はここにいる、と安心する。彼の優しさだろう。

「何ですか?」
「……」

あれ、雲雀さんから声を掛けてきたのに私が聞き返したら無言。心なしかムッとしている様にも見える。
心当たりが…、ある。

「あっ、敬語…ですか?すみません」
「君はすぐに謝る」

雲雀さんが、私が雲雀さんに対して敬語を使うのを嫌がる様になった。つい今までの癖で敬語になってしまうと何かと言われる。私はお世話になっている身だと思うとついつい敬語になってしまう。

「院長が言ってたけど僕も君も年齢は大差ないだろうって。だから敬語はいらない」
「そうなんだけど…」
「いい加減に慣れなよ」
「と、ところで雲雀さんは何の用事?」

私が敬語を外して喋ると一応納得、と言うか満足気だった。

「風紀委員で君の衣類を用意したんだ」

ダンボールを私の前に下ろして中を見せてくれた。いつの間に用意をしてくれたのか、しかも女物。

「風紀委員って…?」
「学校で会ったでしょ、リーゼント」
「あ、風紀委員だったの?!」

あの人が用意してくれたんだ。本当にありがたいし申し訳ない。部屋に置いといてくれるとのことで、あとでゆっくり見るのが楽しみ。

あと、と雲雀さんが私の隣に座る。

「屋上で目眩がしたのと、フェンスを通り過ぎた事が気になってね。ちょっと山に行こうよ」
「え、どうして、どうして山なの」

そこはもう一度学校の屋上に行く流れじゃないのかな?

考えているとおでこに衝撃が。目をおパチクリさせているとデコピンをされたことに気がつく。デコピンの衝撃にしては強かった。何か棒で強く突かれた様な衝撃だった。

「なんで…」
「勘かな」
「…雲雀さんは何でそこまで私のことをやってくれるの?」

雲雀さんは私の為に時間を使ってくれている。
記憶がない、空から落ちてきたということへの興味だけでそこまでやってくれるのが不思議だった。

「空から落ちてきたら?フェンスを通り抜けたから?」
「それもあるけど、そうじゃない」
「たくさんの事をやってもらっているけど、私は何も返せてないし」
「見返りを求めてるわけじゃない」



雲雀さんの言葉を聞いて、認識するまで私は固まっていた。

理解するまではもう少し時間がかかりそう





 



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