長く長く、寝ていたような気がする。

まだ思考がハッキリしない中で目を覚まして、視界に最初に入ったのは見覚えのない天井だった。目だけで周りを見ても、何処なのかが分からなくて緊張から身体が強張る。
場所を確認する為に体を起こすと自分が白いワイシャツを着ていることに気がつく。そのまま足の方を見ると、黒い長ズボン姿を穿いていた。この服にも見覚えが無く、私はスーツでも着ていたの?
どうやら私はソファーに寝ていたらしい。少し硬いけど良さそうなソファーだった。

さて、ここは何処?
 
「目、覚めたんだ」

全く気がつかなかった。
声のする方を見れば、制服を着た男子学生がドアの前にいた。声がするまで入ってきていたことに気がつかなかった。いつの間に?ドアの音すら気がつかないなんてある?もしかしたら初めから居たのかもしれない。
男は私をじっと見て、観察しているかの様だった。

「何で屋上に落ちて来たの」

男性から言われた言葉に思考が止まる。

落ちてきた?

屋上というのは、ここの建物の屋上なんだろうけど。
ヘリや飛行機に乗った記憶は無いし、スカイダイビングもしていた記憶は無い。
話を聞くと、どうやら私は体1つで落ちて着たらしい。よく無事だったな。我仲間ら生命力が素晴らしい。
そんなことを考えていたら「僕が受け止めたんだよ」との言葉が。良く無事でしたねその腕!

「…ごめんなさい、此処にいる理由も分からなくて、落ちてる記憶も無いんです」

この部屋に覚えがないのは勿論、立ち上がって窓から外を見ても覚えがない。グラウンドで走る学生を見て此処は学校なんだ、と気がつく。

「名前は?家は?」
「えーっと…」
「まるで記憶喪失だね」
「…そう思いたくは無いですけど、その言葉がしっくりきます。ここって何処ですか?」
「並盛」

並盛、とはこの地域の事だろうけど何処なのか、私はこの地域に住んでいるのかも分からない。
この部屋を出た瞬間、右も左も文字通りに分からない自信がある。
さて、本当に困った。

とりあえず此処に居ても思い出せそうにない。街を歩いてみて、思い出せなかったら警察とか…頼るしかないよね。
ご迷惑おかけしました、と頭を下げると彼は表情を変えずにドアの前に居続ける。

「帰れるの?」
「いや、・・・帰れないかも。なみもり、って聞いても良くわからなくて」
「まぁ、空から落ちてきた人だしね。公園にでも住みなよ」
「ホームレスか…」


最悪、野宿という選択はあった。
ポケットに手を入れてみても一銭もないところ、本当に困った。財布や携帯すら持っていないから身分証明も出来ない。

ここまで覚えがないと、今の自分の状態に嫌でも予想がつく。
できればそうであった欲しく無いのが本心だけれどその答え以外が出てこない。

記憶喪失

その言葉に現実味が出てくる。
私は記憶喪失なのだろうか。そう考えるとどうすればいいのか、病院に行って入院生活か、警察で保護されるかとこの後のことを考えたく無いが、頭が勝手に考えてしまっている。

「…行くよ」

ため息をついた彼はドアに寄りかかるのをやめたと思えばドアノブを回す。
何処に行くのだろうか?言葉も出ずに固まっていると再びため息をさられる。

「僕の並盛でホームレスなんて迷惑だからね」
「はい…」

僕の、には疑問を持ったけど今はそんな場合ではなくて、迷惑だから警察に届けられるのかな。
警察までは一緒に行ってくれるって意味かな。
すみません…と顔を伏せると早くして、と急かされる。

「使っていない部屋がある」
「え…」

使ってない部屋を貸してくれる、という意味で受け取って良いのだろうか。どうやら合っているらしい。
助けてもらったのにそこまでしてもらうのは申し訳ない。しかも部屋を貸してくれるとなると、この後も迷惑をかけてしまう。
そう伝えたが、相変わらず「早く」と急かして意見を譲ってくれない。それどころか納得しないでなかなか動き出さない私に少し不機嫌になっている様に見えた。


「病院も警察署も僕の家とあまり変わらないよ」
「全然違いますよ!」

ほら、とドアを開けられる。
この人の意見が固く、押しに負けてしまった。
私は病院、または警察署という名のこの人の家に行くことになりました。
考えてみたら病院も家も同じ建物という分類だね。
あまり変わらない、変わらない……


変わるよ!




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