導線が一気に切れた感覚がした。 この爆弾についてはやり方を知っていたが、やっぱり解除をするとなると怖くて無意識に目を瞑っていた。 「爆発なんてさせない」なんてと言っといて、人の命を預かっておいて情けない。 恐る恐る目を開くと、先ほどまで時間が表示されていた画面は真っ黒になり、電源が落ちていた。 音が1つ聞こえなくなっていることから、無事に解除が出来たと思われる。 「良かった…」 「ワオ、本当に解除したんだ」 「…うん」 「ねぇA子、記憶戻ったんでしょ」 明らかに様子が違う、と隣に座りながら雲雀さんが真っ直ぐと私を見ていた。 記憶が戻ったのは事実だから否定はしない。私は受け身のことが多かったのに、突然爆弾の解除をさせてとお願いをしだした。そして無事に解除もできた。 人のことを良く観察する雲雀さんはすぐに気がつくのは当たり前だった。 この爆弾は2本ある導線のどちらを切っても止まる仕組みのもの。そのことを知っている、というだけでも不審に思われるには充分だった。 「雲雀さんはどこまで知ってるの?」 「A子のことは何も知らない。どれだけ調べてもA子のことは出てこない」 「だろうね…。ハッキングしたから」 「自分でやったんだ。良くできたね」 「悪用されそうだったからね」 私は立ち上がり静かな建物内を見渡して出口に向かう。 外に出ると涼しい夜風に当たって少しだけ肌寒く感じた。もう暗くなっていて星が見えていた。後ろを振り返ると今まで私たちがいたのは小さな建物だったことを知る。 「随分と色々なことを知ってるね」 「知識が豊富過ぎるの」 私が小学校に上がる頃、読んだ絵本を全て覚えて完璧に絵にしたらしい。そのことがきっかけで私には瞬間記憶能力があることが発覚した。 目を通したものが頭の中で綺麗に何度でも浮かび上がらせられた。 成長するにつれて能力がどんどん進化した。 写真の様に覚えていたもの、読んだ文字も覚える様になった。知識として忘れることがなく、全てを覚えていた。覚えたものは忘れることはなくて全て記憶している。 そこから父母は私の教育に力を入れ出し、将来を期待をした。 その頃から、兄の外出が増えていた。 兄の不在の時に黒いコートの男が訪ねてくることもあった。 「兄は私を売るつもりだったみたい。売って見逃してもらうとか言ってた」 「命でも狙われているの?」 「そうだと思う。私をヘリに乗せて取引場所に向かうところだったから」 「まさか自分で飛び降りたとかじゃないよね」 「…売られるのが嫌で、飛び降りたら記憶無くしてた」 なるほどね、と雲雀さんが顎に手を当てている姿はこんな的でもとても絵になっていた。これで情報が出てこないことも、記憶を無くしていたことも全てが繋がっただろう。 「君の兄はもう来ないのかい?」 「私をまた取引に出そうとしたけど失敗したから、どこかに姿をくらますと思う」 「じゃあA子はどうするの」 どうするの、と聞かれてすぐに答えられなかった。 私はこの能力を持ってる限り、今回のように危ない目に遭うことは無くならないだろう。私だけじゃなくて、周りを巻き込んでしまう。 「私も隠れようかな」 「なら乗りなよ」 暗くで気がつかなかったが、雲雀さんが指した方にバイクがあった。 慣れた様子で雲雀さんはバイクに乗り、私にヘルメットを差し出してくる。 乗りなよ、とはどういう意味なのかを理解せずに差し出されたヘルメットを受け取る。 「山にでも捨ててくれるの?」 「その方が良いならそうするけど。まだ君への興味は尽きてないよ」 「それは記憶がなくて情報も出てこないからで…」 「まだ、って言ったでしょ」 能力があることを知ったら興味は湧くだろう。 だけど一緒にいたら今回みたいに巻き込んでしまう。 「僕が強いって事は、君の知識に入れたよね」 「入れた。必ず助けてくれることも」 「だからこれから先も助けてあげるよ」 雲雀さんは真っ直ぐ私の目をみていた。 「随分カッコイイ台詞ですね」 「…敬語」 「あ、まただ…」 「君の敬語離れが出来るまで見ていなきゃね」 「雲雀さんの興味が薄れるまでお供するよ」 「僕の興味は当分なくならないから、覚悟してね」 雲雀さんはエンジンをかける為に顔を逸らす。 手に持っていたヘルメットを私は被り、雲雀さんの後ろに乗る。 このヘルメットを受け取った時点で結果は決まっていたのかもしれない。 私は雲雀さんと生活を続けることを選んだ。 この人になら、私の人生を分けても良いと思ってしまった。 fin |