kiss me6

「新開君、似顔絵描くとき描きやすそうだよね。」

タレ目で唇の厚い彼を目の前にして、ふと、そんな事を言った。

「俺、そんな特徴的な顔してるか?」
「うん。目と唇をデフォルメ化して、パーマかけたら新開君の完成だよ。」

唇オバケになりそうだな、と唇に指を当ててみて笑い飛ばす新開君は、自分の特徴をよく理解しているのだろう。それにしても、血色が良く艶々しているそれは、何故か惹き付けられてしまう。

「唇の面積が広いとさ、乾燥しやすいんじゃないの?何でそんなにキレイなの?リップ何使ってるの?」
「おいおい質問攻めだな。」
「だって気になるじゃん。凄く柔らかそうだし。どうなってるのそれ。」

そう、彼の唇に対して「羨ましい」と言う感情が沸々とわくのだ。リップやグロスで作っている自分とは違い、素の状態で雑誌に載っている様なセクシーリップなのだ。本当に羨ましい。交換して欲しい。
そんな目で新開君の唇を見つめていたら私の手が新開君に取られていた。

「そんなに気になるなら、触ってみるか?」

その言葉の意味を理解するより先に、私の指は新開君の唇に触れていた。触れさせられていた。

「どう?」
「あ、えと、柔らかい、です…。」
「ははっ、何で敬語なんだよ。で、感想はそれだけかい?」

私の手を掴んだまま、唇に押しあてラインに沿って動かしていく。新開君の唇をなぞる自分の指が嫌でも目にはいって、ひどく恥ずかしい。

「やわらかくて温かくて、気持ち良い、かな…」
「気持ち良いかなんて、触っただけじゃ半分も分からないだろう?」

掴んでいた手を、そのまま引き寄せられ距離が近くなる。決して自分は恋愛経験が多いわけでない、しかしこの距離の意味は理解できてしまう。

「無理にはしないけど。」
「嫌じゃ、ない…。」

興味とか好奇心とか、はたまたもっと別の感情もあるのかもしれない。自分の感情を分析してる最中に唇は重なり、難しいことは何も考えられなくなった。

新開君のキスは思っていたより優しかった。私の唇を、新開君の唇で甘く噛むように、唇の感触を確かめさせるようにして、何度も啄む。時折角度を変えて、映画で見るような恋人同士のキスを彷彿させられる。柔らかくて甘いキス、そんな言葉がピッタリだろう。
ちゅっ、と音をたてて唇が離れると、新開君の大きなタレ目には私が映っていた。

「や、柔らかいね。」
「名字さんの唇もね。」
「噛みすぎだよ…。」
「美味しくってついつい、な。次は名字さんが噛んでみてよ。」
「え、」
「俺がしたみたいなキス、名字さんもして?」

有無を言わさないとはこの事だろう、既に鼻先が触れ合ってもう後には戻れない。口元に柔らかい熱を感じて、新開君の唇を自分の唇で挟んだ。

されるのとするのでは、ワケが違う。ましてや彼の場数と私の場数なんて雲泥の差であろう。彼みたいに上手にキスができるわけがない。
分厚くて柔らかい唇を優しく食む。先程以上に彼の感触やら様々な情報が、私の中に入ってきた。次第に恥ずかしくなって、わけがわからなくなって、新開君の服の裾を握る手に力が入る。

心臓がひどくうるさい。頭が熱い。もう死んでしまいそうだ。
自分の身がもたない、そう思って唇を離すと、私の背に回っていた新開君の手に力がこもった。

「おしまい?」
「いや、あの、おしまいって言うか、どうして良いのか分かんなくて…。」
「じゃぁ俺がしてあげるから、おしまいじゃなくて良いよね。」

また、理解するより先に逃げられない距離に彼が入り込む。

「激しくて息もできないようなキス、とろとろ溶けるようなキス、どっちがイイ?」

私はそんなに恋愛経験が豊富ではない。しかし多分どちらも、唇がどうとか分からなくなるようなキスなんだろうな、と言うことは理解できた。

(どっちも、って言ったら欲張りかな?)

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