夢と現実とあなたと

それは突然のお誘いだった。

「今日部活オフなんだケドよ、一緒に帰らね?」
「え、あ、」
「帰るの?帰らねぇの?」
「か、帰ります!!」
「ほら、早く準備しろヨ。」
「うん…!」

慌てて教科書をカバンにつっこむ。
荒北君に自分の気持ちを打ち明けて一週間が経った。所謂「彼氏」と「彼女」の関係になったのだが、いまだに実感が湧かずにいたのだ。
行くぞ、と半歩先を歩く荒北君。下駄箱で上履きからローファーにはき代え、校門を出る。ダメだ顔がニヤけてしまう。しかしふとあることに気がついた。

「そういえば荒北君って寮暮らしだからちょっとしか一緒に帰れないね。」
「アァ…、でも今日用事があっから途中まで一緒に帰るわ。」
「本当!?」
「ナニ、俺と帰れるのがそんなに嬉しいワケ?」
「いやっあの、」
「あ、違うんだ。」
「違わない違わない!」

慌てて首を横にふると大爆笑された。一体何が可笑しいんだ。


荒北君の隣は何だかフワフワした不思議な感覚だった。隣で歩いているのが不思議と言うか、現実味が無いようなそんな感覚。
それでもぶっきらぼうに差し出された手を握る感覚は確かなもので。これは夢では無いことを改めて確認される。ただ心が追いついていない感じ。

「どうかしたァ?」
「えっ何で?」
「何かすっげえ難しそうな顔してたからよ。」
「あぁ…。」
「悩み事でもあんの?」
「悩みって言うか…何だか未だにこの状況が信じられなくって。」
「一緒に帰る事がかよ。」
「ううん、もっと根本的な。今まで隣の席で話したりするだけの友達だったのに、もっと近くなった事がって言うか…。」
「手ェ繋いでるしな。」
「ううっ、そうなんだよね!でも夢だったらどうしよう…!」
「ぶはっ!」
「なんで笑うの!?」
「ア?いや、本当面白ェなぁって。」
「…?」
「ニヤニヤしたり、難しい顔したり、嬉しそうな顔して、正直って言うか。本当忙しいヤツ。」
「ちょっと!こっちは結構真面目に…」

言い終わる前にグイッと荒北君と向かい合わせにされる。恥ずかしくて目線を反らしたが、頬に両手を添えられて上を向かされた。荒北君の顔が目の前にある、それだけで私の頭は爆発してしまいそうだった。
それなのにコツンとオデコを当ててきて。もはや焦点が合わない。荒北君が触れてるせいで頬と額の体温が急激に上がったのは分かった。

「ちか、い、よ!?」
「夢じゃねェだろ?『この状況』信じれるだろ?」
「うん…うん!分かったから!!夢じゃないって分かったから!!」
「本当に?」
「本当に!!」
「よし。」

あ、解放されるなと思ったら、唇に新たな熱の感触があって。何秒かわからなかったけど、一瞬だったような長かったような不思議な感覚で。離れていく瞬間に、すごく現実味を帯びていた気がする。

「名前チャン顔真っ赤。」
「いや、だって今のは反則でしょ…!」
「顔、すげぇニヤけてんだけど。バカ正直なヤツ。」
「わ!やだやだ!」

(…まぁ俺も人の事言えねェんだけどナ。)

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