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※社会人設定


仕事を終え化粧を直し、慌てて外へ出るとそこには見慣れた車が止まっていた。

「隼人!ごめん、お待たせ。」
「お疲れ様。お腹空いたろ?」
「うん、もうペコペコ。」
「それじゃぁ行こうか。」

車のキーを回しエンジンをかけ夜の街道を走る。しばらくして着いたレストランは私が以前から気になっていたお店。車から降り、席へと案内されるとそこには綺麗な花で飾られたテーブルが。

「私が行きたいって言ってたお店覚えてたんだね。」
「まぁな。」
「しかもこんなに綺麗に飾って予約までしてくれて。」
「名前が喜ぶ顔が見たかっただけだよ。」

こっちが恥ずかしくなるような事を言われ思わず隼人から目線を外す。いちいちキザなんだよな。でも全然嫌な気にはならないから不思議なんだけど。そして食事が運ばれ始め、私達はそれを楽しんだ。

「最近名前とゆっくり食事する機会が無かったろ?たまにしかできない代わりに、名前が喜んでくれるような時間にしたいと思うんだ。」

ふと隼人がそんな事を漏らした。隼人は仕事で平日が忙しいけれど、販売関係の仕事をしている私は主に土日やイベント時期が忙しい。今日も、カップルやプレゼントを買いに来たお客様も多く、なかなか仕事を上がる事ができなかった。

それでも私はこの仕事を自ら望んで始めたし、これからも続けたいと思っている。
だから、それを理解し受け入れてくれる隼人にはもの凄く感謝している。それなのに隼人は合わせてくれるだけでなく、その時間をより良いものにしようとしてくれているのだ。
そう思うと嬉しいだけでなく心が締め付けられるような感覚になった。
なんと言葉にしてよいか分からず「本当にありがとう。」とありきたりな言葉しか出てこなかったが、「どういたしまして。」とにっこり笑って隼人は返してくれた。
彼の笑顔は何故こんなにも私を安心させるのだろうか。


食事を終え、再び隼人の車に乗り込む。楽しかった時間が終わりを告げようとしていた。

「今ならシンデレラの気持ちも分かる気がするな。」
「何で?」
「明日になればまた日常が待ってて、今この時間が、嘘のようなものになってしまう気がするの。だから時間が止まらないかなって思っちゃうんだ。」
「そうか…。」
「ごめんね少し後ろ向きな事言っちゃって。でも今日本当に嬉しかった。たくさん充電できたし!また仕事頑張れるよ。」

すると隼人はまたいつものような笑みを浮かべていてくれて。でもいつもの曲がり角を曲がらずにそのまま直進して車を走らせた。

「…あれ、こっち家の方向じゃないよ?」
「俺は、シンデレラの、名前の王子様にはなれないかもしれないな。」
「えっ。」

それはどういう事だろうか、混乱する私をよそに隼人は何も言わずに車を走らせる。
しばらくして着いたのは、空と街が見える小高い広場。ほら、と隼人に手を引かれ、紺碧に広がる宝石の様な光を眺めた。

「凄い、夜見るとこんな風になってるんだ。」
「初めて来た時は昼間だったからね。」

隣にいた隼人は私の方を向いて手をとる。そしてその手に、そっと、箱を乗せた。
「開けてみて。」と促され、箱をあけるとキラキラと輝くリングがあった。

「俺はいつも側にいれないし、だから名前の王子様になれないかもしれない。でもね、名前にとっての魔法使いになりたいんだ。」

隼人が指輪を手にとって私の指にはめる。だめだよズルイよこんなの。目の奥がツンとして、我慢できずに溢れ落ちた。

「はや、と…」
「名前にたくさん幸せの魔法をね。」

私の指にはめられた指輪は、夜街のネオンよりも、夜空の星よりも、どんなものより眩しい光を放っていて。

それは私の日常を時折眩しく照らす隼人のようで。

時計の針はすっかり0時を回っていたが、それが解ける事はなかった。


(君に溢れんばかりの輝きと幸せを)

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