purify

最近部活で思うようにプレーができない。
レギュラーから外されたわけではないし、自分はまだ2年で、今年が最後と言うわけでもない。
朝の自主練習に加え外の走り込みも行う。何かやっていなければ気が済まないのだ。

走り込みを終えて顔を洗い、友人の「スランプなんて誰にでも訪れるもんだよ。」と言う言葉を思い出す。
分かっている。しかし、このまま周りの足を引っ張り続けてしまうのではないか、思うようなプレーができないまま時間が過ぎてしまうのではないかと考えると、いてもたってもいられなくなってしまうのだ。

「…ねぇ、」
「!は、はい!?」

ハッと気づくと隣に人がいた。ジャージを見る限り、自転車部の人だろう。

「タオル、落ちてるよ。」
「え、あ!」

考え事をしていたらタオルを落としてしまっていたようだ。

「ほら。」
「あ、ありがとうございます…。」

タオルを受け取ると遠くで声がした。
「おーい新開!早くしろ!」
「あぁ〜悪ぃ、先に行っててくれ!」

この人は新開さんと言うらしい。そういえば聞いた事ある。自転車部で、表彰されてた人だ。それに以前、泉田君が、すごく速くてでも努力家で、尊敬してる先輩だって話してくれた人だ。

「あの、すみません、ぼーっとしてて…」
「そんな謝らなくって良いよ!何か考え事でもしてた?」
「はい…ちょっと部活でうまくいかなくて…。」
「チーム内の仲とか?」
「いえ、私自身の問題で。思うようにプレーができないんです。それで何かしてないと気が済まないと言うか、でもこのまま上手くいかないままだったらどうしようとか考えちゃっ…あ、あれ…?」

気がついたらほろほろと涙が流れていた。一度流れはじめると涙はなかなかとまらない。

「す、すみません…!あのっ、だ、大丈夫、なんで…!」
「うん。」

新開さんが私の頭をくしゃっと撫でた。

「君は、大丈夫だよ。」
私の目を真っ直ぐ見て彼は言う。
「俺、どうしても走れない時期があったんだ。」

それは予想もしない言葉だった。

「…し、新開、さんは、どうして、走れるように、なったんですか?」
「ひたすら練習したんだよ。このまま走れないままなんじゃないかっていつも思ってた。思ってたけど、とにかく自転車に乗ったんだ。」

まぁ走れなくなった時は部活さぼっちゃってたけど、と付け加えて新開さんは笑った。

「理屈じゃないんだ。悩んだって仕方ない。やるしかない。道が開けるまで、ひたすら前に進むしかないんだよ。だから…だから君は今のままで良いんだよ。」

頭を撫でていた指が私の涙をぬぐう。

「苦しくても君は一生懸命だろ?毎日何とかしようとして走ってるのも知ってる。それで良いんだ。大丈夫だよ。」

「大丈夫」と繰り返し、私の頬をつつむ彼の手が優しく、温かかった。
自分の中にあった黒い塊が、新開さんの言葉と温もりに溶かされて、涙と共に流れていった様な気がした。


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