「……お、お……お城……?!」

「……」






風魔に抱えられながら連れてこられたなまえが目にしたのは、時代劇に出てくるようなそれ。
たいそう立派なお城であった。

風魔が反応を返すことはなかったが、なまえにとってはそんなことはどうでもよかった。
大事なのは自分の置かれている状況が、いよいよ訳のわからない方向に進んでいることである。





「ここは、風魔さんのおうちなんですか?」





質問に対して、風魔は小さく首を横に振った。
(あの後、しつこく名前を訪ねれば、彼は手のひらに"風魔小太郎"と書いて教えてくれた。)

風魔さんのおうちじゃないとなると……ここはなんなのだろう?
東京にこんな立派な城があるなんて聞いたこともない。

いや、その前に風を切るように屋根から屋根へと移動する風魔さんは何者……?
ていうか、普通にありえないよね?ね?

先ほどから飛び交う景色にも見覚えはなく、漠然とした不安が胸に押し寄せる。

わたしをここへ連れてきたのはなんのため?

助けてくれた人を疑うなんて失礼だけど、風魔さんがあまり多くを語らないため、いろんな憶測が頭の中を飛び交う。




やっぱり、ここは、東京じゃないのかな……。
風魔さんが会わせようとしているのは、このお城に住んでいる人?
そもそもお城って住めるの?
資料館とかじゃなくて?




……わからない。





黙ったまま考えを巡らせていると、シュタ、と風魔さんはある大きな部屋の前に降りたった。
わたしを抱えたまま器用にコン、と床を鳴らすと、部屋の中から「入るがよい」と声が聞こえた。

音もなく障子を開けて、風魔さんと共に部屋に入る。




「……わあ」




思わず零れた声が、静かな部屋に響く。
中は、尋常じゃない広さだった。
豪華な襖、一体何畳あるのかわからない畳。
ポカンとしながら周囲を見回したところで、部屋の奥に人がいることにようやく気づく。
長い髭をたくわえた、優しげな目をしたお爺さんが1人、こちらを見ていた。

上品な着物を着ているあたり、このお城の人で、しかもきっと偉い人なのだろう。


「……ほう。風魔が可愛らしい女子を連れて帰ってくるとは珍しいこともあるもんじゃ」

「あっ、あの!は、はじめまして……!」

「ホッホッホ……よいよい、そんなに畏るでない」





慌てて頭を下げると、お爺さんは笑い声を上げた。
恐る恐る顔をあげれば、じっとこちらを真っ直ぐに見つめてくる視線。
逸らすのもおかしい気がして、真っ直ぐに見つめ返せば、お爺さんはにこりと微笑んだ。





「……いい目をしておられる。風魔が無傷でここへ連れてきたということは、どこかの間者というわけでもあるまい。お主はどうしてここへ来たのじゃ?」

「わ、わたしは……」





説明しようとして、ハッとする。
わたし、何て説明すればいいんだろう。
目が覚めたら木にぶらさがっていて、落ちたところを風魔さんに助けられました?

……いやいや。おかしいでしょうよ。
そんな訳のわからない話を誰が信じる?
頭のおかしいやつだと思われて終わりだ。
……どうしよう。




悩んだわたしは、言葉を無くしたまま、俯くことしかできなかった。
考えれば考えるほど、自分でさえ、今の状況が理解できない。

どうしよう……変な説明をしたら警察呼ばれるかも……?
いやでもここがどこだかわからない以上、その方がいいんだろうか。



……わからない、わからない。






「風魔、こちらの客人を部屋にお通ししなさい」

「……え?」






客人、とお爺さんは言った。
見ず知らずのわたしに対して。






「疲れておるのだろう?話は落ち着いてからでよい。今日のところはここで休んでいきなさい」

「で、でも……!そんな、赤の他人に……」

「……おお、そうじゃった!忘れておったわい。お主の名前をまだ聞いてなかったのう」

「えっ?」

「名前を聞いたらもう赤の他人ではないはずじゃ。それに風魔は怪しいものをここへ通そうとはせんからな。……わしは風魔を信頼しておるのじゃ」





お爺さんは、悪戯っ子のような笑みを深めてそう言った。
わたしのすぐ横に控えていた風魔さんが、少しだけ頭を下げたのが空気でわかった。






「わしはここ小田原城城主、北条氏政と申す。お主の名は何という?」







北条、氏政……?

聞き覚えのありすぎるその名に、先ほどとは違う理由で目を見開く。
歴史に疎いわたしでも耳にしたことのあるその名。
見覚えのない景色、まるで忍者のような振る舞いをする風魔さん。
まさか。

もし、……もしも、本当に、この考えが現実のものだとしたら。





なまえは血の気が引いていく感覚を覚えながら、氏政の問いになんとか答える。






ーーーーもし、この北条氏政さんが本物で、風魔さんが本物の忍者で、ここが……戦国時代だとしたら……?




一度頭に浮かんだ考えを無視するには、あまりに辻褄が合いすぎていた。
そんな筈はない。
馬鹿馬鹿しい考えであると、自分でもわかっている。


……それでも。


わたしは悪い夢でも見ているのだろうか。









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小田原城。
ようやく状況把握したヒロインさん。

2011.12.07.





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