「………さっきの」
「…どうも」
「……」
「……」
気まずい。
なんかとっても気まずい。
あの後つばさちゃんと別れて学校を出てから、なんとなく本屋へ寄ることにしたわたしは、まっすぐに家に帰らなかったことを今この瞬間とっても後悔している。
結構マニアックなバンドが特集されている音楽雑誌を男性ばかりが立ち並ぶコーナーで食い入るようにみていた私は、ふと視線を感じて顔をあげた。
………うわ。
…い、いつから?
隣にいたのはつい先ほど知り合った(?)ばかりの、黒髪ピアスくんだった。
なぜかわたしの方をガン見している。
「……そのバンド、好きなんすか」
「え、あ〜……」
少しの沈黙のあと、彼が手元の雑誌を指差しながら口を開いた。
え〜と…。
関西出身のバンドは、バンド名がなかなかエグイ名前が多い。
ましてや女子がこのバンドを好きって言ったら引かれやしないだろうか。
そんな考えが頭をよぎって、どう返事をしようか言葉を濁していると、黒髪ピアスくんが読んでいる雑誌がわたしと同じソレ、同じページということに気づいた。
え、まさか。
「……先週発売のアルバム、買いました?」
「………、買った…買ったよ!初回特典にプレミアムライブの応募券ついてるやつだよね?」
思わず早口になった。
やばい、油断してちょっとテンションが上がってないか。わたし。
彼の顔色を伺うと、彼はそれには答えずに片手で携帯をいじりだした。
え、聞いておいて反応なし?
なんだなんだと思っていると、携帯の画面を突き出される。
…見ろということらしい。
そこに表示されたアドレスを見た瞬間、はっと息を飲む。
「ちょ、これ……!」
「このアドレス見て、その反応言うことは、……ガチやな」
「……あの曲名アドレスに入れる人はじめてみた」
「知らんやつが見てもあのエグさはわからんでしょ」
にやり。口角をあげ、悪戯っ子みたいな笑みを浮かべられる。
「…きみ、名前は?」
「1年の財前光いいます」
「財前光くんか。わたしは、」
「みょうじなまえ先輩、やろ?…図書カードに書いてはったんで」
「おー。すご。財前くん記憶力いいね」
その後、偶然最寄り駅まで同じことをしって、また親近感がわく。
お互いそんなお喋りなタイプじゃ無いけど、財前くんは物凄い話やすい。
ポツリポツリと呟くように話す特徴的な彼の喋り方は、なぜかすごく安心する。
大阪にきて、出会ってすぐにこんなに打ち解けれたのは初めてだと思う。
なんだか嬉しくて、油断すると顔がにやけそうになる。
「じゃ、俺こっちなんで」
「うんそれじゃ、…また色々話そうね」
「チケット当たったら先輩誘いますわ」
「え!!じゃあわたしも!」
わたしにしては珍しく大きな声がでて、自分がびっくりした。
財前くんはふっと目を細めて笑うとぺこ、と少し頭を下げて帰っていった。
…綺麗な笑い方をする人だなぁ。
ヒロイン、これまでで一番テンションが上がってます。
光くんとは物凄い相性がいいのです。
あの人が黙っていなそうですね(^O^)笑
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