練習試合は滞りなく進み、あっという間に昼休憩の時間になった。
テニス部メンバーはいつもお弁当を持参しているというので、今日はわたしもお弁当を作ってきた。
……お弁当といっても、巨大おにぎり2つと途中コンビニで買った焼きプリンだけなのだが。
料理がまったくできないというわけではないけれど、特別趣味とか上手いとかっていう女子力は兼ね備えていないので、お手軽簡単なおにぎりを作ってきたのである。
いつだったか、友達に「なまえって料理できなそうで意外とできるっていう顔してるのにあんまりできないよね」とよくわからない評価を受けたことがある。
「うわっ!アンタ何よその爆弾握り!信じられない!ほんっと色気ないわねぇ〜……」
「ええ?美味しいじゃん、おにぎり」
「先輩、それ中何入ってんすか」
「梅干しとシャケ」
「梅干しとシャケて!色気ないわねぇ〜……」
「いーの。別におにぎりで色気出そうと思ってないもん」
呆れ顔のつばさちゃんに少しムッとしながら、無言で梅干しおにぎりを頬張る。ほら、やっぱ美味しいよ、梅干しおにぎり。
じゃこ入りなんだぞ。
「先輩、俺のサンドイッチと交換しません?米食いたい」
「んえ?これ?いいよ?」
「え〜?ヒカルン、こんなへんちくりんより、アタシのオムライス弁当と交換しましょうよ〜!」
「いや……シャケ食べたいんで」
「えぇ〜?アタシこの漢にぎりに負けたの?!」
「えっ?漢にぎりって……これのこと?!」
若干ショックを受けながらも、財前くんのコンビニサンドイッチと交換してあげた。
シャケおにぎりも好きだけど、ヒレカツサンド美味しいよね。お金ないからいっつもたまごサンド買うんだけど本当はヒレカツが食べたいんだよ。
「ん……んまいすね」
「まぁ、具入れて握っただけだけどね」
「そうそう!こんなん鼻垂れたガキでもできるわよ!」
「…………」
わ、わぁ〜不機嫌爆発してる…!
不服そうなつばさちゃんのお弁当は確かにかわいい。しかもブロッコリーやタコさんウィンナー、ミニトマトや海老フライ、金平こぼう、椎茸の肉詰め、その他フルーツなど、色どりから栄養面まで細かく気を使ってそうなお弁当だった。すごいなぁ。
美人な上に料理までできるとか。
「でもつばさちゃんて意外と大食いなんだね」
「確かに。それ、オムライスも結構量ありますよね」
「……あのねぇ、言っとくけど、どんなに見た目がか弱そうで可憐でも、胃袋は男なのよ!」
「「あぁ…」」
なるほど。と、財前くんと同時に納得していると、なぜかわたしだけ頭を叩かれた。
差別だと思う。
「楽しそうやなぁ〜」
すっかりリラックスしきっていたせいだろうか。
先ほど聞いたばかりのその声に、思わず反射的に肩に力が入る。表情が強張るのをおにぎりを頬張ることでなんとか隠せた、はず。
誰にも気づかれてないといいけど。
どうやらいい男レーダーにひっかかったのか、すぐさま忍足くんに反応を返したのはつばさちゃんだった。
「アラ?あなた確か謙也の従兄弟の…」
「こうして顔合わせて話すんは初めてやんな?噂には聞いてるで。いつも謙也が世話になっててスマンなぁ」
「ヤダ!忍足くんったらそんな褒めてもなんもでないわよぉ!」
「ん〜、特に褒めた記憶ないねんけど…自分噂通りおもろいなぁ」
特に会話に混ざらなくとも進んでいく会話に安心しながら、サンドイッチを無心で頬張る。
さっきの会話で完全に苦手意識を持ってしまったために、できればあまり関わりたくないのが本音である。
というか、えーと?財前くんがさっきから睨むようにして忍足くんを見ているように思うのはわたしの気のせい?
「あの……何か用すか?」
うん……気のせいじゃなかった。
感情のこもらない声で財前くんが問う。
忍足くんは財前くんの態度に興味をひかれたのか、微笑を浮かべている。うわぁ。
声色が冷たいことに気付いてつばさちゃんも眉を寄せて財前くんを見る。
「……ヒ、ヒカルン?」
「なんや、俺嫌われもんみたいやなぁ」
「わかったならさっさと消えてくれます?」
「ちょ、ちょっと!光、アンタ先輩に向かって……!」
「はは、ええねん花野さん。先しかけたのはこっちやから」
「え?」
「ほな、行くわ。みょうじさん、今度は無視せんといてな」
「あ……」
やっぱり、さっき聞こえないふりしてたのばれてたんだ。
人からこんなにわかりやすく敵意を剥き出しにされたのは初めてかもしれない。
財前くんは黙ってご飯をまた食べ始めたけれど、つばさちゃんは状況を掴みかねている様子で困惑していた。
アンタ達って忍足くんと仲悪かったの?とたずねられたけど、この場合なんて返せばいいんだろう。よくわからない。
「俺、あの人嫌いや」
ぽつりと呟いた財前くんの一言が何故かとても耳に残った。
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陰の忍足を書くのはこのサイトでは初めてかもしれない。
とりあえずこの3人のセットが好き。
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