……あ、
「白石?」
突然立ち止まった白石にすぐに気付いて声をかけたのは、一緒に帰っていた謙也だった。
ぼんやりとした様子の彼の視線の先を追うが、この時間の駅前は人が多くて何を見ているのか分からない。
どないしたん?ともう一度声をかけて、ようやく意識がこちらに向いた。
「すまん。何でもあらへん。ボーッとしとった」
「そうなん?誰か知り合いおったんかと思たわ」
「……や、たぶん見間違いやわ」
名残惜しそうに再び視線をやる白石に、謙也には何となく誰を見たのか予想がついた。
確かめる意味で、あえてその人物の名前を口にする。
「なまえちゃんか?」
一瞬、ハッとしたように目を見開く。
すぐに表情を戻し、何言ってんねんとぎこちなく笑う白石に、苦笑しながら「当たりやろ」と言葉を返す。
「……どうやろな」
嫌でも認めないらしい。
曖昧に返事をしながら、最後にもう一度だけ、白石は目を少しだけ細めてどこかを見た。
自分が今どんな顔をしているのかも当然知らないのだろう。
そんな様子に気づかないふりをしながらも、謙也も謙也で考えを巡らせる。
帰る方向の違う2人は駅前でそのまま別れたが、最後まで白石の表情は晴れなかった。
……さっさと認めたらええのにな。
電車に揺られながら、付き合いの長い友人の珍しい表情を思い出して、謙也はゆっくりと目を閉じた。
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謙也が謙也じゃない^∇^
16話の視線の主は白石でした
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