「うっわ!つばさ……お前何の冗談や、その顔」




練習後、日誌を書いていると、最後に部室に入ってきたユウジが思いっきりアタシの顔を指さしてきた。
わざとらしく身体を小刻みに震わせながら。

同じオカマなのに小春とはえらい扱いが違うじゃない。失礼しちゃうわ?
大体、人様を指さすんじゃないわよ。




「…るっさいわね!保湿パックよ保湿パック!なんたってアタシ今度の土曜、跡部様に会うんだもの〜!」

「は?跡部やとぉ?頭わいたか」

「ちっがーう!ホントなんだから!だからアタシ土曜の部活は…」

「あれ、俺もう言うたっけ?氷帝との練習試合の話」

「……は?」








***






「ちょっと!どういう事?!」

「え?どしたの」

「跡部様のことよ!練習試合ってなんなの?」

「…練習試合?」




え、何こいつまさか知らないわけ?
ぽかんとした顔で見上げられ、余計に腹が立つ。
……アホ面。
知らないとは言わせないわよ!
頬をねじりあげながら、目の前の小娘を問いただす。





「だから土曜に跡部様とデートさせてくれる話よ!」

「え、わたしデートとは一言も言ってな「あぁん?」…いいえ何でも」

「まったく。せっかくデートプラン考えてたのにぃ!台無しだわ」




はぁ〜あ!と、昼にニンニクネギ餃子を大量に食べた口で至近距離から溜息をついてやった。




「くさ!」

「はん!存分に苦しむがいいわ!」

「し、白石く、つばさちゃんの息めっちゃクサ、ふごぉ…!」


「ちょっと卑怯よ!蔵に助けを求めるなんて!」



蔵に誤解されたらどうすんのよ!
ジタバタ暴れる手足を無視して口と鼻を全力で塞ぐ。
まったく。
…こいつアタシの扱い段々わかってきたわね。





「コラ、つばさみょうじさんいじめたらアカンやろ」

「…ひどーい!蔵はこいつの味方するの?」

「あんなぁ…」

「……っだはぁ!」

「アンタほんと色気ないわねぇ…」



蔵に言われて、しぶしぶ解放してやれば、なまえは顔を真っ赤にしながら、ゼェゼェと息を繰り返していた。
あ〜ぁ、おもしろくな〜い。
なによなによ、蔵に守られて、跡部様の幼なじみで…!お姫様気取り?
きいいいぃ!つくづくむかつく女だわ!



「フン!」

「こら。つばさ、ちゃんと謝り」

「…嫌」

「あは、大丈夫。ありがとう白石くん」

「アタシ、絶対謝らないから!」




最後にキッと睨んで教室を後にする。
それでも呆れ顔の蔵の横でへらへらして手を振ってくるあの女の神経はどうかしている。
蔵と前後の席ってだけでも腹立つのに!

教室に戻り、ドスッと自分の席に腰を下ろせば、前の席の謙也が面白そうにアタシの顔をにやにやと見てくる。





「……何よ」

「いや、最近なまえちゃんと仲ええなぁ思て」

「ハァ?!やめてよ。あんなボケ女と仲良い訳ないじゃない」

「そうか?てっきりもうつばさの"お気に入り"に入ったんやと思っとったけど」

「…冗談!」




…誰があんなボケ女。
アタシより醜い女の分際で。





「でも、なまえちゃんええ子やし結構人気あるんやで?」

「ハッ!物好きもいたもんね」

「…ちなみに俺も結構ええなぁ思っててんけど」

「……は?マジで言ってんのあんた」

「おん、普通に可愛えやん?変に気取ってへんし」




どこまで本気だか分からない謙也に、またムカムカが止まらなくなってくる。
…どいつもこいつも!何がいいのよあんな女。
あ〜いらいらする!




「アタシは嫌いよ!あんな奴。仲良くするのなんて御免だわ!」

「ちょ、…つばさ、」

「大体…話してても反応薄いしなに考えてんだかさっぱりわかんないし!あの子と話してるとほんっとイライラすんのよね!正直ほんと迷惑」

「つばさ!!」





謙也の大きな声に、ハッと我にかえる。
そこでようやく、自分らに向けられた好奇の視線と、教室の入り口で突っ立ったなまえの姿に気づいた。




「…あ、これ渡すの忘れてたから」




早口で言われ、何かメモのようなものを渡される。
その時一瞬だけ、感情の読み取れない表情のなまえと目が合った。急速に頭の中が冷えきっていく。

…なんなの、何でこいつは普通にアタシに話しかけてくるの。





「なまえちゃん…」





謙也が何かを言いかけて、でも言葉にならなかったのかすぐに口をつぐんだ。
なまえはそれには反応せず、何でもないような顔で「またね」と、教室を出て行った。




「……今のはあかん」

「……」

「なまえちゃん、つばさに懐いてたやろ?ほんとは嬉しかったんちゃうん?」

「…別にアタシは、」

「嘘ついたらあかん。それに、つばさは人傷つけて何も思わん奴と違うやろ?今の自分の顔見てみぃ」





ひっどい顔してんで。はよ頭ん中冷やし。
諭すようにそう言って、謙也は前を向いた。
何時の間にか授業は始まっていて、教師が何やら黒板に文字を書き連ねていく。
頭を埋め尽くすのは、あの感情の読み取れない表情。




……なによ、アタシにどうしろって言うのよ。





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