「……何か最後に言うときたいことはあるか?」
「謙也シャツにご飯つぶついてるよ」
「……」





放課後の教室。
そこには一人は椅子に座りながら難しい顔で腕を組んでおり、
もう一人はスカートで床に正座をしているという異様な光景があった。




「……どうやら自分の立場がようわかってへんようやなぁ?」
「あ、ズボンにもついてる!きったね〜」
「……」
「わー?!っぎ、いっ痛い痛いいいいー!」






なまえの言葉がスイッチになり、謙也は笑顔で彼女の頭を両側からゴリゴリリリと挟みこんだ。
女子供に暴力はよくないが、脳みそスッカラカンの目の前の女子は例外である。

普段はへたれ・いじられで通っている謙也だったが、
四天宝寺のアホ四天王(ちなみにうち1人は金ちゃん)であるなまえに対してはいつも心を鬼にしている。
むしろ自分が彼女を一人前にしなくては、社会になんらかの悪影響を与えかねないと危惧していた。



「これはなんや?」
「謙也のYシャツです」
「せやな。じゃあなんで第二ボタンがキティちゃんになってるんかな?」
「かわいいと思ったからです」
「死にたいんかな?」
「ごめんなさい」





現在までの流れを大まかにまとめるとこうである。
謙也がYシャツのボタンが取れかけていると白石に話しているのを聞いていたなまえは、
謙也が部活をしている間にこっそりとボタンをつけようと考えた。
その際、取れたボタンをそのままつけてもつまらないと考えたなまえは、
あろうことか偶然持っていたキティちゃんのボタンをつけたのである。

ここで大事なのは、本人には決して悪気はなく、単に謙也を喜ばせようとしてやった行動であるということ。
残念ながらそれは結果として謙也の逆鱗に触れることとなったのだが。



「…なんで、そんな怒るの?」
「何でって、当たり前やろ?!
何が悲しくて俺が第二ボタンキティちゃんのYシャツ着なあかんねん…!自分そんなに俺んこと怒らせたいんか?!」




着替えずに上だけ未だTシャツ姿である謙也が早口で捲したてると、
それを大人しく聞いていたなまえは、少しだけ俯きながら小さく首を振った。




「……ちがうよ」
「あぁ?!じゃあ何でこないなことしたん?!こんなん着れる、わ…け……!」

「…っ、……っく…」

「?!!」



(な、なななんでコイツ…泣いてんねん…?!)


訳が分からず頭の中が真っ白になった謙也は、ピタ、と不自然な格好のまま、その動きを止める。
さっきまでアホ面でへらへらしていたはずのなまえが、今は目の前で両目に涙をいっぱいに溜めて肩を震わせていた。





「ちょ、…ちょ、待て!待て待て待て!お前何泣いてんねん!」
「っ…だって、謙也喜ぶと思っだんだもん…!うえぇ〜ん」
「…お前、……」





子どものように泣くなまえを前に、謙也はすっかり怒る気をなくしていた。
それどころか、目の前に置かれたちょっと曲がったキティちゃんのボタンのついたシャツをみると、自然と笑いがこぼれる。




「はは、…ホンマ、あほやろ」





先程とは声色の変わった謙也に、なまえがおそるおそる顔をあげると、
ぽん、と頭に大きな手がのっけられる。


「なまえ」


「話しも聞かんと、怒ってすまんかった。…これ、おおきにな」
「…もう、…怒ってない?」
「おん、俺を喜ばせようとしてやったんやろ?」
「……うん!」




しっかしお前へったくそやな〜キティちゃん逆さまやん。
Yシャツを手にしながら謙也が笑うと、ようやくなまえの顔にも笑顔が戻った。
いつもなまえには怒鳴ってばっかりの謙也だったが、
今回ばかりは話をちゃんと聞かなかった自分が悪かったと感じていた。



「せっかくやから着たるわ、これ」
「ほんと?!絶対かわいい!」
「まったくもって可愛さは求めてへんけどな。…まあ、今日くらいは着たるわ」




目を真っ赤にしながらも喜ぶなまえに苦笑しながら、謙也はYシャツに腕を通した。



そして、気づいた。






「……これは、なんや?」
「かわいいでしょ?袖のところは光くんのアイデアでフリフリにしたの!」
「……」






……。





…こ  ん   のアホんだらあああぁあ!!やっぱりそこに正座せぇえええええ!!
(光は明日絶対シバき倒したる!!)








アホの子シリーズは謙也が教育おかん担当で、白石は父親的な感じです。
悪気のないヒロインと悪気200%の財前くんが組むと究極にやっかいです。


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