違和感は日常から



皆が皆、真っ青な空の下で、それぞれの自由な時間を過ごしている。

時計の針が軽快で且つ一定なリズムを刻む中、それを遮るようにあらゆる場所に設置されたスピーカーから落ち着いたトーンの声が響いた。
ガヤガヤとしている教室が瞬間、時が止まったかのようにシン、と静まりかえる。

『硬式テニス部の生徒は、1時15分までに体育館前に集合してください、』

その言葉に反応したのは、おそらく『硬式テニス』に所属してるであろう、3人の男子生徒。
放送が終わると、再び動き出した時を楽しむ生徒たち。

時刻は1時10分。
反応した生徒たちは、一斉に動き出した。



「あー、呼び出しだ」
「まじかよ!俺を1人にすんの?」
「バカ!すぐ帰って来るし!」

両手を後ろに組み、空を仰ぎながらめんどくさそうに呟く前村に、隣にいた貴本はというと、かなり分かりやすい嘆息を漏らしながら地面に座り込んでいた。
普段しないような貴本の上目遣いからの問いかけに、思わず怯んで大きな声をあげる前村。
そんな前村の反応を見て、満面の笑みを浮かべた貴本だった。



「......っ!?~~~~~~~!」
「だ、大ちゃんどうした?!」

放送中、スマートフォンをいじるのをやめて聞き入っていた蔵宮がしばらくしてはっと我に返ると、手に持っていたスマートフォンの液晶画面には、真っ赤なGAME OVERの文字。
目にした瞬間、今までの努力が水の泡となったことに気づいた蔵宮は、言葉にならない声をあげながらバッと藤木を見た。

「......そういえば、呼び出しくらってたな」
「あ、あぁ...。大ちゃん、行くの?」
「おー、俺硬式テニス部だし」

まだ事情を把握してきれていない藤木を前に、蔵宮は自分のスマートフォンの電源を落とすと、ポイッと藤木に投げつけた。
落ちかけたスマートフォンを慌てて受け取った藤木を確認して、蔵宮はふっと、柔らかな笑みを浮かべていた。



終わりそうもない宿題に一生懸命向き合って、ひたすらシャーペンを走らせている中迫を見ながら、古井は机に顎を乗っけたまま、大きな欠伸をしていた。
中迫の質問は3分の1しか受け答えない。
3分の2は、ほとんど聞こえないフリをしていたが、教室のスピーカーからの声はきちんと聞き取っていたらしく、ぷつんと放送が終わると、古井は勢いよくイスから立ち上がった。

「あっ!ちょ、どこ行くの亮ちゃんっ!」
「や、ほらっ、召集かかったから」
「亮ちゃんは行っちゃダメー!」
「は、なんだよそれ!あとは自力で頑張れよっ」

どうしても行かせまいと、だだをこねるように古井を引き留める中迫だったが、その思いも虚しく、古井の簡潔な返答によって全て受け流されてしまった。
『じゃあ行けばっ』と頬を膨らませながらツンケンした言い方をする中迫の頭を、古井はポンポンと優しく叩いた。



「......ん、」

1人、窓際で眠りこけていた楠野はもちろんスピーカーからの呼び出しに気づくはずもなく。
耳を澄まさないと聞こえないほど小さな声で、寝息をたてていた。

.

「.....ぬあぅっ!?」
「いつまで寝てんだよっ、行くぞ?」

突如、楠野の脇腹をつんとツツき、深い眠りから覚ましたのは、さっきまで廊下側の席で中迫と一緒にいた古井だった。
起きたばかりで、目を何度も瞬きさせる楠野の腕を、古井は絶対に放さんとばかりに掴んで、廊下へと足を運んでいった。



キラキラ日差しに照らされて、ほんのり木の香りのするベンチに座っていた数人の生徒たち。
そのうち、大きな欠伸をしていた愛夏は何か思いついたようにガバッと立ち上がる。

「あっ!」
「どうした、ちかげ?」
「ちょっと俺、行ってくるっ」
「は、行くってどこに?」

頭に疑問符を数個巡らせて、問いかける疼吾に、愛夏はふふっと鼻で笑いながら、

「ん、楠野クンにっ★」

それだけ言って、可愛くウインクを作ってみせると、愛夏は嬉しそうに鼻歌を歌いながらその場から離れていった。
そんな愛夏の後ろ姿を見つめながら、疼吾は凛太と顔を見合わせて不思議そうに首を傾げた。

「ぶはっっ」
「ちっ、ちよ!?」

そんな2人をよそに、千仍はちびちび飲んでいたいちごミルクを思いきり吹き出していた。
鈴音は心配しながら背中をさする。
そんな中、林檎はというと、暖まっている木製の机に顔を乗せて、自分以外の4人を見渡した。
ふと、妙な違和感、

「あ..........そっか、1人いないから...」

なんだか嬉しいような、悲しいような複雑な表情を浮かべながら、林檎はそっと瞼を閉じた。


(少しずつ変わっていく、私たちの日常、)







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