僕らのエデン



青い絵の具を撒き散らしたかのように真っ青な空を仰ぐ。ひゅ、と風の凪ぐ音がして、心地良さに目を瞑った。
瞬間、自分のしていることがとても阿呆らしく、そして恥ずかしく感じた貴本は、はっと我に返って周りを見渡した。思った通り、口の端を吊り上げてにや、と笑っている自分の友人がそこにいた。
少しの後悔を溜息にのせ、はあ、と吐き出す。

「ロマンチスト気取りか?ゆうき」
「ちげーよまえけん、」

言葉を切り、言い訳が見つからないことに気づいた貴本は、未だ頬を弛めている前村に自分の心情を静かに訴える。

「空、すげえ青かったから」

ぼう、と空を見上げながら眩しげに目を細めて貴本はそういった。前村はほんの数秒、ぽかんと口を半開きにしていたが、やがてもう一度口元をゆるりと三日月に形作る。
自身の細い腕をす、と上に振り、手のひらをうなじに当てた。前村は自分より背の高い貴本を見上げて、ぽつと呟く。

「ゆうきってやっぱ分かんねえ」
「まえけんに言われたくねえよ」

話の論点がずれやすい二人は、同時にお互いを見合って、それもそうかと噴き出した。





「ゆうきがまたぼけてんのかな」
「何が?」
「ああ、ほらあれ。まえけんとゆうきが一緒に笑ってるからさ」
「ほんとだ……あ、亮ちゃんここ分かんない」
「どこ?げっ、俺現代文苦手なんだけど」

古井と中迫は、昼休みという自由な時間にもかかわらず、一心不乱に机に向かっていた。
残っていた宿題をそれぞれ解きながら、質問を繰り出す。ただし、聞くのは一方的に中迫のほうが多かったのだが。

「あああ分かんねえ、じゅんそこパス」
「ええ?亮ちゃん頼りねえなあ」
「お前今まで答え聞いてたくせによく言えるな!」

古井がそう叫ぶと、中迫はノートにペンを走らせながらころころと笑う。目の前にいる中迫の柔らかい笑い声が耳に入り、古井はこれ見よがしに溜息をつきたくなった。
代わりに、右手に握り締めていたシャープペンシルで中迫の頭を小突く。

「いて、何すんだよ亮ちゃん」
「ちょっとむかついただけだし、ほらやるぞ?昼休み終わるぜ」
「あ、やべ」

古井の一言で机に向き直した中迫は、再び現代文の難問にうんうんと唸るのだった。





くあ、と欠伸をした藤木は、持て余した時間を潰そうと机に突っ伏しかけた。睡眠時間が常に足りていない所為で授業中に居眠りをしてしまう藤木は、やはり暇潰しの方法も睡眠になってしまうようだった。

「おい藤木!お前そこ俺の席だからな」
「うお、大ちゃんかよびびった……」

ひょ、と背後から現れた影に飛び起きた藤木は、その影が自分の友人であることに気づき、胸を撫で下ろした。
藤木の驚きように、蔵宮は思わずにんまり笑うと、スラックスのポケットからスマートフォンを取り出す。携帯等の持ち込みは禁止なのだが、それを守っているのはごく少数派だ。もちろん、藤木も蔵宮もそれを守るような真面目な生徒ではない。

「藤木さ、このゲームやってる?」
「あー、やってるやってる」
「ここのさ、このアイテムがどうやって使うのか分かんねえんだよな」
「あ、それね、ここでこうして……」

ゲームの話に熱中し始めた二人は、そのステージをクリアするまでひたすらに挑み続ける。

「あああ、またしくった!大ちゃん助けて!」
「待って、俺今無理無理むり、あは!やべえしぬしぬ!うははは」
「しぬのにめっちゃ楽しそうだな……」
「やー楽しいわこれ、あ!やべ、うわああ!」
「ちょ、大ちゃーん、おーい」

ゲームの進み具合が良いのか、声を上げて笑う蔵宮に、一人取り残されたような気にさせられた藤木は、携帯画面を触りながら項垂れた。





騒々しい周りの会話を聞きながら、楠野は自分の机でぼんやりと時計を見つめる。昼休みが終わるまで少し時間が空いていた。
ふわふわとした心地良い静寂に、うつらうつらと微睡みかける楠野は、頬杖をついて頭を支える。

「ふ、みんな元気だな」

電波的な会話を広げる貴本と前村。
終わらない宿題に焦る古井と中迫。
携帯の画面に釘付けな蔵宮と藤木。
それぞれの会話と笑い声を子守唄代わりに、楠野はほんの少しの眠りにつくことにした。

柔らかい陽の当たる教室。
それぞれの想いと会話が交錯することを、彼等はまだ知らない。




(ここがぼくらの楽園だ!)





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