見上げれば、青空。



──ぱこんっ

学校の校庭付近にある、ソフトテニス部専用コートからもれて聞こえる、ひとつのボールの音。
それは、どこか怒りに満ちていて…
それは、向かい側の誰もいないコートに1人で打ち込んでいる本人が1番理解していた。

「くっ……」

柚木凛太、ソフトテニス部の部員の一人。
特に目立った成績はあげてないが、積み重ねの努力と、底知れない忍耐力で部長の先輩からは一目置かれている。
部活をしている柚木は、普段のふわっとした雰囲気からは感じ取れないほどの豹変っぷりを見せる。

───ぱこんっ

「……ふぅ」

自身の傍に置いてあるボールを一通り打ち終えて、柚木はその場に座り込む。

(うまくいかない…)

髪の毛を片手でくしゃりと潰して、もう片手ではテニスラケットを地面に立てる。
柚木は、放課後他の部員よりも早く、ラケットを振りに行くことを決めていて、その時に今日のコンディションを把握し、それに見合った練習法を行っている。
しかし、いくらそんな努力をしても、なかなか上達していく傾向が見えないということで、今してることは無駄なんじゃないかと最近気づき始めているのも現実である。

「あっれ、凛太じゃん!」
「え……」
「1人で何してんだよ〜」

どんどん落ちていく気持ちを断ち切ったのは、見覚えのあるテニス部の面々であった。
柚木は立ち上がり、ぱんぱんと両手で砂を叩き落とすと、いつもの笑顔で彼らに近づいていった。

「あれ、楠野たち何してるの?」
「俺らはパン買いにー!」

な!と柚木にも負けない笑顔で両側にいる前村と古井に共感を求める楠野からわざとらしく視線を逸らす2人を見て、柚木は小さく微笑んだ。

「大ちゃん〜〜!2人がいじめるんだけどっ」
「ぬぁ、バカ!今ボスなんだよ触んなっ」
「ひ、ひどっ」

校庭とはいえ、一応学校という場所で平然とスマホを出してゲームができる藏宮の神経には驚きだ。
大事なところらしく、助けを求める楠野の手をいとも簡単に振り払った。
涙目になりながら、「俺とボスどっちが大事なんだよ!」と問いかける楠野に、即答で「くすけん」と言える藏宮の神経にも、柚木は驚きを隠せなかった。

「…邪魔してごめんな?俺たちもう行くからっ」

ゲームに夢中で真剣な表情を見せる藏宮と、思ってたのと違う回答が来て目をぱちぱちさせる楠野と、柚木のテニスラケットを見て、何やらぶつぶつ呟いている古井を無理矢理引っ張り、「じゃあな!」と軽く柚木に挨拶をした前村は、3人に説教しながら歩いて行った。

「相変わらずおもしろいなぁ、4人は」

柚木は、4人の後ろ姿を見送りながら、1人でぽつりと呟いた。
その瞳は、彼らの関係を羨むようで、どこか哀しげだった。

「おーそうだ!」
「!」

声のする方からは、微かにしか表情を把握できない距離にまでなってだが、確実に古井の声だとわかった。
目を見開いて見ていると、

「柚木さんのこと考え過ぎて、怪我するんじゃねぇぞー!」
「…っは!?」

いきなり古井の口から出された人物名。
それは、自身の名字ではあるが、すぐに名前の違う人物であることがわかった。
かあっと顔が焼けるように熱くなっていく。

「もう、なに言ってるの…古井」

再び座り込み、顔を両手で被って俯く柚木は、しばらくその場から動けなかった。
まるで心を見透かされたようで、恥ずかしさを我慢することができなかったのだ。





「亮ちゃん、なに言ってたのー?」
「ん?いや…」

走って楠野たちに追いついた古井は、異様な笑みを浮かべては1人で何か楽しむように鼻歌を歌い出した。

「変なの〜」
「ほら、2人とも早くパン選べって」
「はいはい。行くぞ、くすけん」

未だに気になっている楠野ではあったが、さらりと流された話をそれ以上聞き出すことができなくて、不満で頬を膨らませるのを見て、古井は満面の笑みを浮かべて手を差し出した。




(見え透いた心の中)





第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -