モのくろ#スかい



ずっと青かった空が、少しだけ暗くなってきた頃、貴本にスマホを渡した後、なんとなく外に出ていた藤木は、サッカー部のゴールネット近くに寝転がり、ぼうっと目を細めながら空を見つめて考え事をしていた。

「やっぱり...........ん〜っ」

さっきから何かを言い掛けては、大きな背伸びをしてを繰り返している。
しかし、ふと空を見つめていると、先ほどまで真っ白く空にかかっていた雲が、ほんの少しだけ灰色に染まっていた。
その瞬間、ブブッとお腹の上に置いていた自らのスマホが何かの通知を報告する。
そこに映し出されていたのは、見慣れた緑色の画面。
どうやら藏宮が、貴本からスマホを返してもらえたみたいだ。

【スマホさんきゅ!】

液晶に映った藏宮からの短文をじっと見つめる藤木からは、自然と笑みがこぼれていた。

「そろそろ......戻るかな」

よいしょ、とその場からゆっくりと立ち上がって、だぼっとしている灰色のズボン持っていたスマホを入れ込んだ藤木は、少々急ぎ気味で靴箱へと向かった。



「うっわ!」
「なん?」
「藤木のやつ、既読だけつけやがって!」
「は?まじかよっ、」

用事を済ませた硬式テニス部の生徒たちは、雑談をしながらだらだらと教室に帰り始めていた。
半笑いする藏宮は、藤木とのLINEのトークをほらっ、と古井に見せつける。

「ははっ、藤木らしーっ、」
「ま、それもそーだな、てか亮ちゃんスマホ貸して」
「は?なんで............ちょ、おいっ」

藏宮からのころころと変わる話題に、困惑気味の古井の手から、藏宮はいとも簡単にスマホをひょいっと取り上げる。

「何する気だよ大ちゃんっ!」
「えー?亮ちゃんが誰と最近LINEしてんのかなって思っ.........」
「............」

見られてもまずい会話でもしてるのか?とか、彼女との会話が見られたくないのか?とか、藏宮は意地悪っぽく笑いながら散々古井をからかう。
もちろん彼女とか、見られたくない会話とかに全く見に覚えのない古井は、周囲の目を気にして焦りながら必死に否定する。
そんなことはお構いなしに、にやにやしながら古井のLINEの一番上を見た藏宮の目は一瞬、時が止まったように硬直した。

(何くすけんとしゃべってんの、)

まさか楠野とのトークが最新だとは思わなかった藏宮は、少し下唇に歯を乗せて、悔しそうな表情を見せて、黙ったまま古井にスマホを返した。
不思議そうに首を傾げながら、古井は受け取ったスマホの液晶を見て、なんとなく状況を把握してちらっと藏宮の方へ視線を送った。
そんな視線を感じた藏宮もまた、古井の方へ目線を切り替えた。



足並みを揃えて入ってきた楠野と貴本は、いつになく楽しそうに会話に花を咲かせていた。

「ふっふ、来たぜ俺のメロンパンっ!」
「くすけんはしゃぎすぎだわ!ちょっと抑えろよー」
「無理に決まってんだろーっ!」

いつもの席に腰を降ろし、楠野が自慢げに貴本にメロンパンをちらちらと見せつける。
貴本は楠野たちを待っててあげたことに触れてもらえず、やや不満げに持ってきた自分の弁当の蓋を開け、二本の箸を一度立ててから手に持った。
2人がそれぞれ昼食を取ろうとした瞬間、教室に息を切らしながら入ってきた2人の男子生徒。

「はぁっ......ちょ、お前ら何俺を置いていって......はっ!?嘘っまだ食うなよ!」

1人は楠野と貴本に飲み物を頼まれて、せっかく買って購買から出てきたのに、2人はもういなかったオチに納得のいっていない様子の前村。

「......っ、あ、大ちゃんっ」
「?......あ!藤木っお前なぁーっ」
「え、えっ!?」

もう1人は、靴箱から教室へと猛ダッシュしてきた藤木。
笑顔で教室に入ったが、急に藏宮に怒られて少し後ずさる。
その数秒後、集まった6人の口元が緩んで一斉に笑い出したのだった。

ほとんどの生徒は昼食を食べ終えていて、雑談したりはしゃいだりしていた。

「あれ、そういえばじゅんは?」
「「...........」」

残り時間は少しずつ進み、削れてゆく。



「なんかさ」

一度教室へ向かおうと階段へ上っている、3人の女子生徒。
1人は髪をおろし、1人は髪をひとつに束ね、また1人は髪をふたつに結んでいる。
その内の1人、髪をおろしている鈴音は、その場で足を止めて目線を天井に向けながらぽつんと呟いた。
2人は首を傾げて、鈴音の言葉の続きを聞こうと耳を傾ける。

「ちかげくん、なんか様子が変じゃなかった?」

その言葉にピンとこないらしく、林檎と千仍は口をへの字にして、そうかなぁと心の中で考えを巡らせた。

「思い過ごしならいいんだけどねっ」
「............あっ」

はっと何かに気づいたようで、林檎はちらっと千仍に目を向けて、気づかれないように小さく何度か頷いた。

「あ!あれって、なっちゃんじゃない?」

さほど今の話題をそこまで気にとめていないようで、千仍は目を輝かせて冷水機で水をガブガブ飲んでいる中迫を見つめていた。
もちろんそれは、恋愛対象ではないのだが。
周りから見たらごく一般的な、男子生徒に片想いしてる女子生徒。

(大変だな、ちかげくんも)

林檎は小さく微笑んで、さっき別れ際に見せた愛夏の表情を思い出して、少し眉を下げて俯いた。

そんなことをしている間、雲行きが少しずつ怪しくなってきたことを、私たちはまだ知らない。




(気づかなくて幸せなこともある、)







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