腕に、キスをおとして。



「あーくそ、あの程度の連絡で呼び出しやがって…」

教室に戻るための階段をのぼりながら藏宮がぼやいた。

「まぁ、仕方ないんじゃない?だって今日、部活これないって言ってたじゃん、先生」
「まえけんは物分かり良すぎんだよ」

呼び出された理由は、同じ地域の普通校との練習試合が決まったこと。そして、その試合の対戦カードを決める部内試合を放課後行うということ。
以上。

「くすけん、誰とあたりたい?」
「んー、圧倒的に負けない人かなー」
「なんそれアバウト」
「亮ちゃんは?やっぱりかずま?」
「あったり前!次も股抜きしてやる」

にぃ、といたずらっぽい笑みを見せる古井に、楠野も亮ちゃん、楽しそうだ、と微笑む。

「うわぁかずまカワイソ」
「大ちゃん全然思ってないでしょ」
「おう」
「認めるなよ…」

藏宮を返り見てはぁ、とため息をもらす前村。
次の瞬間、背中に何かがぶつかった(ような感覚)

「まーえーけんっ!!」
「とっ、わ…じゅん?」

振り返ると頭上に、にこにこと笑顔をみせる中迫がいた。

「うんっまえけん見えたから走ってきた!」
「ありがと、てかあつい。」
「ごめーん!まぁいいじゃんっ」
「いたた…まぁいいんだけど」

くすっとやわらかい笑みをうかべて、くしゃりと中迫を撫でる。

「ふみっ?まえけん?」
「じゅんって、大きい子どもだね。可愛い」

にこり、
当たり前のように発言した前村に中迫はもちろん、後ろにいた楠野たちも固まった。

「なっちょ、まえけんっ!?おおおれ!男なんだからね!?」
「の、わりには顔真っ赤だよ?」
「っ、言うなばかけん!」
「前村の要素なくなったんだけど…」

ぽかぽかと前村を叩く中迫を眺めていた楠野はふんわり笑って呟いた。

「ふたりとも、かわいいねぇ」
「「(そんなお前が一番かわいいと思う。)」」

藏宮と古井が内心シンクロしていたことは秘密である。

***

中庭には愛夏の話を真剣に、それは真剣聞く、鈴音と林檎と千仍がいた。

「……ってことがあったんだけど」

にこっと笑っていう愛夏に対し、女子はだんまり。

「え、なに?足りない?」
「ちかげ、多分ちが…」
「ちか!!よくやった!!褒める!!」
「愛夏くんありがとう!よくぞ、よくぞ黒宮さんを出してくれた!」
「琥陽くんいっくんに話しかけてくれてありがとうっほんといっくんいい!」
「…アリガトウゴザイマス…」

怒涛の発言に驚いた愛夏はかたことで(心の中で黒宮さんって誰、いっくんって誰、とツッコミながら)返事をかえす。凛太と疼吾は明らかに脱力した。

「まさか夢にまでみた黒宮さんがほんとにあったなんて…!みやのぐうかわ!」
「いのもかわいいよっ困るいっくんが目に浮かぶ〜うはっ」
「うわ、りんごのにやけがやばいですよ、とうごくん!!」

笑ったりにやけたりを繰り返す女子たちのうち、千仍から急に話しかけられた疼吾はびくぅっと肩をゆらす。

「あああ、はい…りんご、よくにやけるから…うん…」
「とうやん動揺しすぎっおもしれぇ!」
「っ〜笑うなちびちか!!」
「ちび言うなーっ」

顔を真っ赤にしたり青くしたりと忙しく変わる疼吾の表情に、林檎はさらに噴き出した。

「あはははっ!とうご最高っあれ、こーゆうのなんて言うんだっけ、えーっと…」
「百面相?」
「りんねちゃんそれっ」

鈴音にも笑いがうつったようでさっきから些細なことで笑い出す始末。

「りんね、楽しそう…よかった」
「りんりん?」
「…なんでもないよ、ちかげ」

凛太は優しげに微笑み、視線は鈴音に固定したまま愛夏の柔らかいミルクティー色の髪を撫でた。

「変なりんりん〜…」

そう言いながら疼吾に視線を移すと、なんとも言えない表情で林檎を見つめていた。

(…あぁ、“おなんじ”だ。)

心のなかで呟き、ふたりに習うよう愛夏も千仍を眺める。
自分のいとこに見られていることなどまったく気にせず、みやのだとかいのだとか話している鈴音、林檎、千仍。

「りんちゃんりんちゃん!黒宮さん書いてよ〜」
「よしっ愛夏くんの話でテンションの高いゆうきがみやのを書こうっ」
「わーいっりんちゃん大好き!」

ぎゅうっと千仍が鈴音に抱きつく。
そんなとき、愛夏が声をかけた。

「ねぇちぃー!ネタ提供者の俺はー?」
「もちろんちかもだーいすき!」

笑顔で答える千仍に愛夏の動きはぴたりと止まる。

「あ、りんねちゃんっちよちゃん!そろそろ歯みがきして掃除行かなきゃ!」
「ほんとだ!りんごありがとー!」
「じゃあまた、午後の授業でね、りんたたち」

荷物を持ってぱたぱたと教室に戻る女子たちに、凛太は笑顔で手をふって見送った。

「あーぁ、生殺しもいいところだよね。ねぇ、ちかげ」
「っ、りんりんうっさい…」
「うわ、ちかげ顔赤っ」
「とうやんもうるさーい!」

座りこんだ愛夏はぐしゃぐしゃと髪を掻きむしる。

「ちよの、ばかやろー」

呟いた声は風と雑ざって消える。
愛夏の覗き見えた赤い頬。
対照的な青い空には、飛行機雲。




(きみをこいしたっているのです、)








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