あなたは素敵・あなたは無神経・あなたは良品



任務で意識を失った翌日。スマホのメッセージに野薔薇ちゃんから「元気になったお祝いやるわよ」と来ていた。何かある度にお祝いだの皆で集まってパーティーを開くことが好きな高専の生徒たち。今回だって私のことをだしに皆で集まりたかったんでしょ、と私はスマホを見ながらくすりと笑った。

でも今回は懸念材料が一つ。それは昨日あんなに不機嫌だった恵くんのことだ。
恵くんと昨日別れてから今日のいままで接点はなく、これから皆でパーティーなんて気まずいにも程がある。もし恵くんがまだ私に怒ってたら?そんなのショックすぎて立ち直れない。
結局私はいつも恵くんに依存していて、彼が私から離れる可能性があるということを受け入れられていない。それこそ恵くんに好きな人でもできたら私は見捨てられる立場なのに。

恵くんに会うのが不安でゆっくりパーティーが行われる部屋に向かえば後ろから誰かが歩いてくる足音が聞こえてきた。
もしかして恵くん?どうしようと思って後ろを振り向けば大好きな狗巻くんがいた。

「明太子!」
「狗巻くん、昨日はありがとう」
「しゃけ」
「元気になって良かったって?ありがとう。狗巻くんがお見舞いに来てくれたからすぐに元気になったよ!」
「しゃけ〜!」

にこりと笑う狗巻くんの笑顔が私にとっては毒だ。今だけはその笑顔が私だけに向けられていると思うと私はちっぽけな優越感を感じる。狗巻くんは優しいから誰にでも笑顔を向けるのに。
狗巻くんと一緒に会場に向かうとすでにほとんどのメンバーが集まっていて、回帰祝いの言葉を次々にかけてもらった。
嬉しいけど重要な恵くんの姿がない。どこにいってしまったの?

「あれ、恵くんは?」
「伏黒なら任務で遅れてくるって言ってたわよ。もうそろそろ帰ってきたんじゃない?名前さん見てきてくれない?」
「え、私?」
「なによ、伏黒と一番仲良いの名前さんじゃない」
「ついでに飲み物よろしくー!」
「真希ちゃん私今日の主役なんだけど......」
「いくら!」
「狗巻くんも一緒に来てくれるの?ありがとう」

野薔薇ちゃんから見たら恵くんとは私が一番仲良いのか。確かに仲良いんだけれど私と恵くんの場合ただの健全な友人関係だといえるかと言われると疑問なところがある。だって私たちはお互いに寄りかかって生きてるもの。

だからこそすれ違いが起こるとどうしたらいいか分からなくなるの。恵くんのところに一人で行くとなると不安だなと思っていたら狗巻くんが一緒に行ってくれると手を挙げてくれた。
狗巻くんと一緒なら安心だなと思ったけど、狗巻くんは昨日の私と恵くんの事件を知らないんだ。話しておかないと狗巻くんびっくりしちゃうかも。

「狗巻くんあのね、昨日恵くんを怒らせちゃったんだ」
「すじこ?」
「原因は分からないの。恵くんイラついてて、きっと私のせいなんだと思う」
「おかか」
「ありがとう。恵くんとは仲直りしたいんだけど正直どうしたらいいか分からなくて。だから狗巻くんが一緒に来てくれて良かった」
「しゃけ」

狗巻くんは私のせいじゃないって言ってくれたけど、きっと私が原因に関わってるんだと思う。そうじゃないといつもあんなに優しい恵くんがイラつかないもの。
狗巻くんと恵くんの部屋の前に着いて、どっちがドアを叩こうかと顔を見合わせる。私が来たなんて知ったら恵くん出てくれなくなるかな?でも、このまま恵くんと気まずいままでなんかいたくない。頑張れ私、と心のなかで気合いを入れてドアをトントンと叩いた。恵くんの名前を呼べば、少しだけ開いたドアから恵くんの姿が見える。

「恵くん、いる?迎えに来たよ」
「......先輩」
「恵くん昨日はごめんね。まだ怒ってる?」
「いえ、こちらこそすみませんでした。先輩に怒ってなんていません。変な気使わせてすみません」
「良かったぁ。恵くんに嫌われたらどうしようかと思った。本当に良かった〜」
「本当に大袈裟な人ですね、アンタは」

恵くんの機嫌が元通りになっていて一気にいままでの不安や焦りが襲ってきた気がする。良かったぁと安堵のため息をつけば安心したからか泣きたくなってきてじんわりと目頭が熱くなった。良かった、本当に良かった。
恵くんが呆れたような表情をしていて、そのいつもの恵くんの姿にほっとした。恵くんがいなくなったら私はどうしたらいいか分からない。

「......狗巻先輩もいたんですね」
「高菜」
「狗巻くんも着いてきてくれたの。真希ちゃんに飲み物頼まれてて、三人で一緒に行こう?」
「しゃけ」

部屋から出てきた恵くんは私の隣にいる狗巻くんの存在に気付いたようだ。私にとったら狗巻くんも恵くんも大好きな二人だから一緒に買い物できて嬉しいな。
恵くんが入学した頃はよく三人で一緒にいたけれど、最近は二人とも忙しいようで三人揃って過ごすことは少なくなっちゃったから久しぶりに揃って嬉しい。

「こうやって三人で過ごすのも久しぶりだね!両手に花って感じで嬉しい」
「先輩、言葉の使い方間違ってませんか」
「いいのいいの。実際恵くんと狗巻くんが一緒にいて私嬉しい!」
「......先輩って結局俺と狗巻先輩どっちが大切なんですか?」
「へ?え、なに?」
「明太子」
「え、狗巻くんまで知りたいって一体どうしちゃったの?二人とも」

楽しい会話だったはずなのに、楽しいなんて思ってるのは私だけだったみたいで恵くんの「どっちが大切なんですか?」との言葉をきっかけに場の空気が不穏なものになる。
恵くんも狗巻くんもそんなこと聞いてどうしちゃったの?二人は私にとって大切な二人なんだよ。

「ただの興味本意です。先輩にとって大切なものが知りたくなったんです」
「恵くんも狗巻くんもどちらも大切だよ。どっちの方がなんて決めつけられない」
「おかか」
「え、それじゃダメって?そんなこと言われても......どちらも私にとって必要な二人なの。二人がいなきゃダメなの」

いつも味方でいてくれる恵くんも大好きな狗巻くんもどちらも大切でも必要不可欠なの。二人のうちどちらがより大切かなんて考えられない。
どうしよう。なんて答えればいいんだろう。二人の考えてることが分からない。そもそもどっちが大切なんて聞いてどうするの?
早く皆のもとに帰りたいけど飲み物はまだ買えてないし、二人とはもう少し一緒にいなきゃならないようだ。

「私たち仲良くしてたよね?これからも三人で仲良くじゃダメなの?」
「例えばの話です。どちらかが欠けたら先輩はどうするんですか?」
「え、そんなこと聞かないでよ。そんな悲しいこと言わないで」
「いくら」
「どっちの方が頼りにしてるかって?二人とも頼りにしてるよ。いつも困ったとき助けてくれるよね?それじゃあダメ?」

どちらかが欠けたらなんて悲しいこと言わないで、恵くん。呪術師の私たちにはどちらかが欠けてしまう未来もあり得るんだよ。そんな日が来たなら私は今まで通り呪術師ができる自信がない。
狗巻くんもどちらを頼りにしているかなんて聞かないで。恵くんにはいつも悩んだときに味方をしてもらってるし、狗巻くんの笑顔に励まされているときもあるの。どちらかなんて選べない。

「ごめんなさい。どっちかなんて決められない」
「すじこ〜!」
「え、聞いてみたかっただけ?真剣に答えなくてもいいの?......恵くんは?」
「先輩が答えられないのは分かってましたよ。別に無理矢理決めなくていいです」
「あっ、そうなの?!良かったぁ〜!どうしようかと思っちゃった」

狗巻くんが聞いてみただけだから真剣に答えなくていいと言ってくれて正直ほっとした。これで答えを出さなきゃいけないなんて言われた日にはどうしたらいいか分からないもの。
恵くんはなんて答えるかなと緊張しながらも恵くんに尋ねてみれば、恵くんも無理矢理決めなくていいと言ってくれた。
ならこんな難しい質問は最初から聞かないでよと思ったけれど、二人が怖いから言えない。

「さぁ、飲み物買って皆のもとに行こうね!」
「しゃけ」
「先輩、荷物持ちます」
「ありがとう、恵くん」
「明太子」
「狗巻くんも持ってくれるの?ありがとう」

それから飲み物を買って皆のもとへ帰ったら真希ちゃんに「遅い!なにを話し込んでたんだ」と言われたけどこっちは大変な目にあってたんだよ。二人から難問を問われて悩んでいたんだから、少しは許してほしいよ。
でも皆で仲良しなこの平和な時間がずっと続いてほしい。誰も欠けることなくこのままずっと一緒に......きっとそんなこと呪術師の私たちには望んではいけないことだと思うけれど、少しでもこの穏やかな時間が続きますように。

「先輩、今度は答えを出してくださいね」
「しゃけ」

皆のもとへ帰る前に恵くんと狗巻くんに言われた言葉が思い出される。私はいずれどちらか二人を選ばなきゃならないの?このまま二人と一緒にいるのはいけないことなの?
狗巻くんへの想いが叶うこともないと思う。でも狗巻くんとも離れたくない。同じように恵くんがいないと私には支えがなくなってしまう。恵くんがいないと日々を過ごせないほどに。
どちらも私にとって大事な存在なの。どちらかを選べというのなら私は生きていけない。ねぇ、どうしたらいいの?恵くん。狗巻くん。二人の思いを聞かせてよ。





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