フラペチーノと謝罪と轟焦凍



※自由に読んでお楽しみいただけるよう夢主のヒーロー名はあえて出しません。


体育祭から数日後。轟くんに言われたことが頭を離れなくて休みの間は正直外に出る気分じゃなかったが、両親に励まされながらなんとか学校に足を向かわした。

授業ではヒーロー名を考えたけれど、今の私の状態でヒーローを目指していいのか分からなくていまいちすっきりとしないまま終わってしまった。同時に職場体験の話もあったが、もちろんのこと私にはスカウトなんて来てなくて体育祭の失敗を思い出しては落ち込んだのだ。
つまり私は気持ちが定まらないまま授業を終えてしまったのだ。

「名前ちゃん、放課後教室に残って皆とおしゃべりしない?」
「......ごめんね。今日は疲れちゃったから家に帰るね」
「ゆっくり休んでね。無理しないように!」
「ありがとう三奈ちゃん。皆もまた明日ね」

お茶子ちゃんたち女子組が放課後に声をかけてくれたけれど、正直気持ち的にどっと疲れていた私は皆に悪いと思いながらもお誘いをお断りしてしまった。
どこかで気持ちを切り替えないといけないなと思い、私は放課後大好きなスタパに来ていた。

頑張った日のご褒美に期間限定のフラペチーノを飲むのが私の習慣となっていて、今日はご褒美ってわけじゃないけど疲れた心を元気にするために寄ってみたのだ。

(あ〜美味しい!生き返る〜!)

今回の期間限定はいちごのフラペチーノで、いちごのほんのりとした甘さとクリームの甘ったるさが疲れに染みる!
なんだか自分頑張ったなぁと自身を労りつつ、目の前の幸せを噛み締めていたのだ。
そのうちもっと癒しを求めたいと思って、推しのたくみくんの画像をスマホで見始めた。

(たくみくん今日もかっこいい〜!)

今日も推ししか勝たん!と思いつつ、目の前のスマホの画像を見ながら自分の顔がにやけてるのに気付く。まわりにバレないようにしなきゃと思いつつも推しが輝きすぎていて!
ふー、幸せ。
そんな目の前の幸せを噛み締めていた私には向かい合った椅子が動くのが気付かなかった。

「名字」
「え......と、轟くん?」

な、なんで轟くんがここにいるの?このお店轟くんの行きつけだったの?!いや、今まで会ったことはないよね。
ってそんなどころじゃない。なんで轟くん?なんで私に用があるの?も、もしかして私の態度を改めに来たとか?!
や、やだ。なに言われるか分からなくて怖いよ。

「えっと、私もう飲み終わるからこれで失礼するねっ、」
「待て、名字。話がある」
「......わ、わたしはないかな?また学校でね」
「待て、」

今の私にはきっと轟くんからの言葉を受け止められない。轟くんがなにか言う前に立ち去ってしまおうと思って、フラペチーノを片手に逃げようとしたら「待て」と手首を掴まれて制止されてしまった。
轟くんの私より暖かい温度を感じながら私はその場に立ち止まる。ま、まって。私話すことない。

「名字に謝りたい」
「......えっと、なにを?」
「体育祭。名字に八つ当たりしてきついこと言った」
「......そのことだったらもういいよ。全部本当のことだし。わ、わたし急いでるから、」
「悪かった」

どうやら轟くんの謝りたいことは体育祭のことらしい。でも全部轟くんの言う通りだし、なにより当の本人から話を蒸し返してほしくなくて、私は掴まれたままの手を振りほどいて逃げようとするが目の前の相手はそれを許してくれなかった。
「悪かった」そう言って私の手を掴んだまま頭を下げる轟くんに私はどうしたらいいか分からなくてその場に立ち尽くしてしまった。

「えっと......このままじゃ目立っちゃうから、まずはその、手を離してくれないかな?」
「悪りぃ」
「このまえのことならもう大丈夫だから。気にしないで」
「それじゃダメなんだ......名字とちゃんと話がしたい」

店内で立ち尽くしている私たちにお客さんの視線が集まってきているのに気付いて、慌てて手を離してもらった。
轟くんに掴まれていたところにひんやりと外気を感じ、自由になった身体は反射的に後ろを向いてこの場から逃げようとする。
しかしそんなことを轟くんは許してくれないらしく、続けざまにかけられた言葉に私は轟くんと向き合うしかなかった。

「は、話があるんだったらとりあえず座らない?このままだと目立つというか、」
「あぁ、分かった」
「轟くんもなにか飲む?ここお店だからさ」
「......頼み方が分からねぇ」
「え?あ、ついていくね」

頼み方が分からない?今や若い子に人気になったスタパの?SNSにも毎回新作を発表する度にトレンド入りするのに?
え、もしかして轟くんって庶民の楽しみを知らないくらい富裕層なの?あ......お父さんエンデヴァーだもんね。
なんだか一人で轟くんのお金持ち具合を納得してしまった。うん、住む世界が違う人だ。そう思おう。

「なににする?コーヒーとか紅茶とかいろいろあるよ」
「メニュー見ても分からねぇ」
「轟くん甘いの好き?この期間限定のいちごがおすすめだよ。どれにするか決まってなかったらこれにする?」
「あぁ」
「すみません。いちごのフラペチーノ一つください」
「名字は何もいらないのか?」
「うん。もうフラペチーノ飲んだから」
「......このいちごのケーキ一つください。名字になにかあげてぇから奢らせてくれ」

轟くんにいちごのフラペチーノをおすすめしてしまったがお口に合うだろうか?甘くて飲めないとか言われたらどうしよう。
おすすめした割にはそんな不安が横切ってきて心臓が別の意味でバクバクしてる。
そんなことなんて轟くんには伝わっていないと思うが、轟くんは轟くんでなぜか私にとケーキを頼んでくれた。奢りたいってなに?というか頼み方分からないって言わなかったっけ?

「ありがとう。えっと、話ってなにかな?」
「体育祭で名字に辛くあたったろ。それを謝りたくて。理由にならないが親父のことでイラついてた。悪かった」
「......う、うん」
「正直名字とはもう話せねぇと思った。けどそれじゃあ前に進めねぇんだ。名字には悪い。俺のこと殴っても蹴ってもいい。俺を許さなくていい。ただ......できたら俺と話をしてほしい」

「話をしてほしい」そう言う彼の顔は真剣なものだった。でも体育祭以前の轟くんとは違う、少しやわらかくなった雰囲気を身に纏っていてこの前の轟くんとは変わったことがこの数分で分かった。
彼は変わったのに私は相変わらず轟くんから逃げたい気持ちのままじゃ私だけが体育祭のときから変わっていない気がして、私は少しだけ轟くんの話を聞いてみる気になった。

「......轟くんの言葉は正しかったと思ってる。今でも体育祭の自分を思い出すと悔しいし、情けない。でも正直轟くんと話すのは少し怖いかな」
「怖い思いさせて悪かった。あの時名字を泣かせたことも謝る。もし名字が俺と関わりたくねぇっていうならそれも受け入れる。けどこの先も俺の気持ちは変わらねぇ。名字とこれからも関わっていきてぇって思ってる。我が儘なのは分かってる......悪りぃ」
「なんで私と関わりたいと思ってくれているの?同じA組だから?」

我ながらめんどくさいことを轟くんに言っているのは分かってる。けど、それと同じくらい轟くんも我が儘だ。
体育祭のとき私は轟くんに嫌われてるんだって思ってた。きっと私に愛想を尽かしたんだとも思った。それなのに私と関わりたいなんてどういうことなんだろう。これもA組のメンバーってことで情けをかけられたのかな。

「名字なら俺のことを理解してくれると勝手に期待した......初めて話したとき俺のことオールマイトも超える唯一無二の存在になれるって言っただろ。あの言葉が頭から離れなかった。そう言われて嬉しかったんだと思う。けどその分俺が勝手に名字に期待したところがあっていろいろ言っちまった......あとこれがほとんどの理由だが、直前まで親父と話しててちょうど名字が現れたから八つ当たりしちまった......名字のこと傷付けるつもりはなかった。本当に悪かった」

轟くんから謝罪の言葉を聞いて、なんだか私も私で勝手に勘違いしているところがあるかもしれないと思った。
エンデヴァーとの確執はよく分からないけれど、ちょうど悪いタイミングに私が轟くんの前に出ちゃったってこと?
いまいち轟くんの言葉が理解できてるかも分からなくて、私はただ黙っているままでいた。

「名字を混乱させていることは分かってる。ただ俺は俺のことをオールマイトを超える存在になれると言ってくれた名字とこのまま関係を終わらせるのは避けてぇ。名字が良ければだが、親父と俺のこと、今までの過去のこと聞いてくれねぇか。自分のことも話さずに相手に勝手に期待するなんて違げぇって話だ。名字のこと理解してぇからまずは俺の話をさせてくれねぇか」

轟くんは我が儘だ。そんなことそんな真剣な表情で言われたら肯定するしかないじゃないか。
轟くんが私のことを嫌ってるんじゃないってことはなんとなく分かった。でも轟くんに言われたことは私のなかでまだ消化できてないわけで、お互い前に進むには話し合いをしないといけないことは分かった。

「うん。轟くんのこと教えて」

それから轟くんのお父さんのエンデヴァーのこと、入院しているお母さんのこと、個性婚のこと、轟くんが戦闘において炎を使わなかった理由を聞いた。
あまりに壮大な話に自分の悩んでることがちっぽけに思えるほどだった。轟くんとは育った環境も与えられた環境も期待されていたものも全く違うんだなと思ったが、それで別に轟くんを特別視するわけでもない。

「俺の話は以上だが、俺は名字の話も聞きてぇ」
「えっと、私の話?なにを話せばいいのかな?」
「あぁ、そうだな......名字が好きなもの教えてくれ」
「うん。あ、フラペチーノ溶けちゃうね!まずは先に飲もう!私もケーキいただくね」

気付けば轟くんのフラペチーノの容器も汗をかきはじめた。私のケーキの生クリームもへたってきて、私たちはまずそれぞれ買ったものを口にすることにした。
轟くんに感想を聞けば「甘ぇ」とだけ返ってきた。お口に合ったか心配になって聞いてみたら「うめぇ」と返ってきたから安心した。
そういえばいちごの赤とクリームの白って轟くんみたいだよね。そう伝えればわけの分からない表情をされてしまったけれど。

「私の好きなもの......轟くんは興味ないと思う」
「俺がどうのこうのじゃなくていい。そういえば俺が来たときスマホ見ながら笑ってたよな?あれなに見てたんだ?」
「え、バレてたの?!えっとあれは私の推しを見ていて......」
「おし?なんだそれ」
「えっと......私の一番好きな人の話していい?」
「あぁ、聞かせてくれ」

私がたくみくん見てにやけてたのバレてたんだ......はずかしい。変質者だと思われてなかったかな、大丈夫かな。
そんなところを見られていて推しの話をせざる得なくなってしまった私はたくみくんの写真を見せながら、いかに推しが私を幸せにしてくれているかを語った。
途中轟くんの表情が険しいものになっていたから私の説明が意味分からなかったのかもしれない。それとも私を変なやつだと思ったのかも。

轟くんの複雑な家庭環境の話からしたら私の話なんて呆れられちゃうかもしれないけど、たくみくんの写真を見せながら熱弁する私の話を轟くんは文句一つ言わず最後まで聞いてくれた。

それにしても轟くんなんで私がここにいることが分かったんだろう?たまたま外から見つけたのかな?いや、でもここ内側の席だしな。
まぁいいや。今度話せるときに聞いてみよう。多分この先も轟くんと話すことはあると思うから。


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