敵のいない負け戦 | ナノ




馬鹿だなあと我ながらにいつも思うのだけれどもだからといってどうにか出来る程に軽い感情ではなかった、それは人間として生まれたことによる暗黙のルールでありまた『カリーナ・ライル』と個別化された存在の持つプライドでもある。わたしは誰構わず尻尾を振り腹を晒す落ちぶれた雌犬ではない(けれど一生を笑って添い遂げられる鴛鴦夫婦になれる訳でもなかった。)

ねぇ折紙、
普段はあまり言葉を交わさない同僚の名を呼べば大袈裟な位に肩が揺れる、仲間なんだから話ぐらいあるわよと溢せば申し訳なさそうにごめん、と呟いて隣に腰掛けてきた。
「絶対に勝てない勝負のこと、日本語でなんて言うの」
その言葉に少しだけ目を見開いた彼はけれども(性格は内向的だけど賢いのだろう)すぐに自分の言わんとすることの意味を察したのか思い出すように俯いてからしばらくして口を開いた。
「負け戦、だったと思う」
まけいくさ、と小さく反芻する。負けると分かっていながらにしても挑む戦い。彼の愛して止まない国が戦に溢れていた頃は多勢に無勢であっても潔く挑んで死ぬのが武人としての美徳であるとされたらしいけど、わたしのそれは美徳だの何だとの形容していいモノでは、ない。それを同じく知っていながらも彼はただ黙って側にいてくれるから気が楽だった。(経験せずして成長はあり得ないと言ったネイサンは全てを理解した上で背中を押してくれるから甘えてしまうし、まだ無邪気なホァンは何も知らないが故に大丈夫と笑ってくれるから夢を見てしまう)
ありがとう、と席を立ちながらもし好きになったのが彼だったならこんなことにはならなかったのだろうかとぼんやり思った。


思い出になった過去程に美しいものはないのだ、個々の中で一生色褪せずに暖かくきらきらとしている幸せに一体この世界の何が敵うと言うのだろう。(だから、それだから。)例えばそれは昔馴染みと酒を飲み交わすときの声色だとか、時偶トレーニングルームから彼の実家を眺める時の目付きだとか、(未だ左手の薬指に収まる誓いを愛しげに触る表情だとか。)
決してわたしには向けられない彼の愛の全てを抱いたのであろう彼女が嫉妬ではなくただただ羨ましい、戦う間もなく既に終わった負け戦を一人でずるずると引き摺っているだけの自分はひどく惨めに見えるに違いない。

それでもわたしが彼を好きでいるのは既に結果を得ているからかもしれなかった、顔を合わせる度に、言葉を交わす度に、体温が伝わる度に、早く気付いて欲しい感情とこのまま一生気付かなければ良いという感情とが共存するのはどちらに転ぼうと結局は解答が同じなのを知っているからだ。(彼の答えはとうの昔に形になって、そして思い出になってしまった。)
だから、それだからその先は、

(知らなくて、良い)



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