埋もれる杭にも似た感情 | ナノ




どうしたら、良いのだろう。

「タイガーさん、」
「おう、どした」
名前を呼べば笑顔で返事を返してくれるし、言葉を洩らさずとも困った顔をしているとすぐに気が付いて声を掛けてくれた。周りから見れば内向的で関わるのも面倒臭い奴であろう僕にさえ、世話焼きな彼は優しい。

正直言えば僕の後輩でもある彼の相棒が華々しく現れるより前、つまりは彼とのランキングに一つの差しかなかった頃から僕は彼が羨ましかった。純粋に誰かを守る為に戦える確固たる意志も、誰にでも隔たりなく向ける明るい笑顔と態度も、果てない障害に折れることなく立ち向かえる強靭な心も全て、(そう全てが)僕には無いものだった。
確かに見切れてスポンサーを喜ばせる事は大切かもしれないし、僕自身それを間違った行為だと思ったことはない、けれどもそれをヒーローとしての枠に当て嵌めてしまえば如何に滑稽でそして役立たずなことだろう。
彼の、僕にしか出来ないことがあると背中を押してくれたその言葉は確かに自分を良い方向に成長させてくれたし性格だって前よりは明るくなった、(けど、)
彼は何だか遠くなってしまった気がする、(昔から近しい存在であった訳でもないのに)今や伝説に残るような英雄たるバディの片割れとしてランキングの上位に並ぶ彼は、努力を重ねたところで結局底辺に存在することしか出来ない僕の鬱鬱とした視界にはにあまりにも華やかに映っていた。

そうして羨望から湧いた彼に対する傾倒がより一層と増していく内に、いつしか純粋な憧れであった筈の感情が間違ったモノに摩り替わっていると気付いたのは幾分か遅すぎたかもしれない。
(あァ、僕は彼が)
彼が男であり僕も男なのは分かっていたし、その手の恋愛が世間では快く思われないというのも十分に自覚しているのに。
(手が、目が、声が、心が、)
(あなたが、)
『ワイルドタイガー』というヒーローだけでなく『鏑木虎徹』という存在が、自分は、好きなのだ。あの暖かい空気と笑い声に包まれるだけで幸せで、我ながら女々しいとは思うが感情の暴発が怖くて声を掛けるのすら遠慮がちになる。そしてそんな内面の汚れた雰囲気に浸っている自分が嫌だった。

「好き、です」

嗚呼この気持ちを吐き出してしまえたならどんなに楽だろう、そしていっそ酷い答えで自分の想いは世迷い言なのだと断ち切って欲しかった。僕が臆病な限りそれは実行されないのだけれど仮に伝えたとして優しい彼はきっとその言葉を真っ向から拒絶してはくれない。好意を受け取ってくれた上でやんわりと断るであろう(きっとこれも倒錯の産物たるただの自惚れなのかもしれないけれど)彼の優しすぎる言葉が僕は何よりも恐かった。

「だから、」
(もう、忘れてしまおう。)

日本の諺では出る杭は打たれるのだ、ソレは一般的には優れ過ぎた存在を指すけれども行き過ぎたという点にしてみればこの気持ちも同じだった、決して受け入れられずに非難の視線を浴びせられる浮いた感情。
ならば、埋めてしまえば良いのだ。
木に埋もれ姿を消した杭は打たれないばかりかその存在すら忘れられていく、それと同じようにこの想いも心の奥深くで無かったことにしてしまおう、この泥々としたカタマリには批判も答えもいらない、要らない、イラナイ。

(結局今度も逃げ出したのだ、)
けれどこれでまた、


(また貴方の名前が、呼べる。)



もれるにも感情



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