市民からの通報。
デバイスの表示に警戒しつつも回線を繋げた。
「こちら公安きょ・・・」
「聞いてください刑事さん!」
繋げた瞬間聞こえてきた金切り声に眉を顰める。
「友達を逮捕して欲しいんです!今すぐ!」
「あー・・・詳しく聞かせて頂けますか」
げんなりしながらも努めて冷静に尋ねる。
電話の女性は深く深呼吸すると話し始めた。
「私・・・同居してるんです。マー君と」
知ったこっちゃないと思いながら続きを促す。
「彼、家では常に全裸なんです」
「は?」
「でも、友達は服を着せた方がいいとか言って・・・でも、そんなの個人の自由じゃないですか!どちらかというと服を着せてる友達の方が体調管理とか難しいと思うんです!」
絶句しているこちらに構わず彼女は続ける。
「布団に潜り込んで来るのもお風呂に入ってくるのも・・・マー君がしてるのはしょうがないじゃないですか!」
「・・・・・・それで?」
「今までは我慢出来ました・・・でも、でも今日は!」
(泣いてる・・・)
鼻水の音が混じり始めたその声にいっそ常守に電話を回そうかとちらりと室内を見る。
「マー君が私の手におしっこしたんです!!!」
「!?」
デバイスから大きく漏れた音に、室内に居た常守、六合塚と目が合った。
正直、いたたまれない。
「申し訳ないが、個人の性癖についてとやかくは・・・」
「だってしょうがないじゃないですか!」
まくしたてる彼女に、気圧されて閉口してしまう。
「私がいけないんです!トイレが汚れてるのに気付いてなくて・・・気付いた時には洗濯物にしようとしてて・・・気付いて咄嗟にち○こ手で押さえちゃったんです!」
なんだか今、女性の口から出たとは思えない単語が聞こえた。
「でも間に合わなくて・・・私の手も彼の下半身も、おしっこでびしょ濡れになっちゃったんです!」
「それで、」
これ以上聞きたくない、が、通報という形になっている以上一応全て聞かなければならない。
うんざりした。
「さっき、それでマー君とお風呂に入ったんですけど・・・友達にその話したら躾がなってないって・・・それはいいんです!二人の世界だし、躾したらマー君の魅力が損なわれちゃうじゃないですか・・・」
徐々に低くなる女性の声。
「でも、でも!そう言った私に友達言ったんです!
ウチはハーデリアがおいたしたら叩いて躾してるって!」
「・・・は?」
一瞬意味が分からずぽかんとする。
「確かに飼い主によっては躾大事ですよ?犬は従順な生き物ですしウチの猫とは勝手も違うと思います!でも、でもですね!?悪い事したから暴力なんてあんまりです!!あんなのもう友達じゃありません!早く逮捕して下さい!」
ゆっくりと彼女の言葉を吟味して、ようやく冷静な声が出た。
「失礼だがマー君はどういう種類の?」
「雑種のキジ猫です!」
「ハーデリアは?」
「チワワです」
「・・・了解した。その友人の住所は?」
彼女が言う住所を確認し常守と六合塚に指示を出す。
「住民の通報があった!対象は凶悪な犯罪者だ!見つけ次第拘束しろ!」
先ほどの彼女の発言からきょとんとしていた常守は、その言葉に表情を引き締める。
「保護対象はハーデリア!チワワだ!」
「・・・はい?」
だがすぐにその表情が崩れた。戸惑いを見せる常守に六合塚が肩に手を置く。
「気にしないで。行こう」
2人に引き続き、自分も一刻も早く犬を助ける為にその後を続いた。

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