なるべく急いで男の指差す先を目指していたが、階段自体がどこにあるのか分からない。
冷や汗が背中を伝うがそう遠くない場所の筈だと思考を巡らせた時。
「――て――よ!」
「――」
「――、どこ見てんのよ!」
がんがんと金属が鳴る重い音と騒がしい声。
まさかと思いつつも声のする方へ向かうと。
「変態!」
「うるせぇ!階段を降りなかった自分を責めろ!俺は悪くねぇ!」
鉄骨階段の中ほどで、一番最初に見かけた黒服の男が制服の少女を追いかけている。
(え、ていうかあれが警察?ガラ悪すぎだろ・・・)
白い男の言っていた言葉がだんだんと怪しく感じてきた。
場所だって思っていたより遠い場所だったし・・・土地勘が無いから余計にそう思うのか、と考えた所で。
ひゅん、落ちてくる黒い何か。
「あっ――」
見れば、多分制服の少女のものであろうローファー。
持ち主の方を見れば黒服に抱きかかえられている所で
「はい、ゲームオーバー。おとなしく帰りましょうかね、お嬢様」
(んーなんか・・・リア充っぽいな。腹立ってくる)
見たくもないアンダーグラウンドでの抱擁を見せ付けられているようで、理不尽な怒りがこみ上げてくる。
(いや、駄目だ。私は今からこの2人に助けを求めるんだ。しかも一人は可愛い女の子。一人は警察)
悶々と考えているおかげで、少女が黒服のみぞおちに拳を叩き込んでいる姿も、黒服が少女の首根っこを掴んでいるバイオレンスな映像も視界には入らない。
(人に物を頼むときには下手から。いやでもいっそこのローファー隠してしまおうか、それで探すふりして二人に恩を売るんだ。あー・・・茶番臭はんぱねー)
いつの間にか上からはにぎやかな笑い声が聞こえてくる。
こうなってくるともう道を聞こうにも、二人の邪魔をするよう横槍を入れるようで声を掛けることすら躊躇われてきた。
(今考えるとあの変人ってこの2人に私を押し付けたわけだよな。この空気知っててそうしたのかな。だったらもう性格ひねくれすぎだろ)
なんだかこの2人に助けを求めることも間違いのようだと、それでもここで安全そうな2人を見過ごしてはこのまま犯罪に巻き込まれて死んでしまうと気を持ち直そうとした所で。
2人の静かに話す声がようやく耳に入ってきた。
「俺も、お前がただの潜在犯なら見逃すさ。でも、違うだろ?お前は潜在犯でもなんでもない。ただの健康な未成年だ」
(あれ、デジャブだ・・・)
ふと、黒服の言葉に違和感を覚える。
「そういう奴が、わざわざサイコパスを曇らせようとするのを見過ごすほど、不真面目じゃないんでな」
(・・・・・・おかしい)
男の言葉を吟味し、やがて思った。
(ここでも、サイコパス・・・?)
白い男に出会ったときにも連想されたけれど、冗談も多分に含まれていた。
だがこの場合は違う。
自らその言葉を放ってきた。それが当然のように。
再度2人をじっと見上げる。
少女は・・・確かに制服が似ている。似ているからこそサイコパスを想起させた。
顔は背を向けているせいで確認できないが、黒髪はそう珍しいものでもない。
聞き違いだろうか、それともあの白い男同様に少し度を過ぎた信者か・・・
答えは出ずに黒服に目を向ける。
明るめの色をした短髪。それなりに整ってはいるが雰囲気がそうさせてしまうのか顔は三枚目。下がり気味の目元、眼光は今は鋭い光を浮かべて・・・
2重の意味ではっとした。
(目が合った・・・!)
サイコパスなんて単語を聞くまではあれほど盗んで隠してやろうかと思っていたローファーもそのままに。
その場から慌てて駆け出した。




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