なんとか歩き回って着いた地上はけれどやはり異質な場所。
(アンダーグラウンド・・・?)
ごくりと唾を飲み込んで、再度携帯を確認するがやはり圏外のまま。それでも明らかに人の気配が息づいているその場所にようやく一安心した。
(・・・うん、一服しよう)
親にばれないようこっそりバッグに忍ばせていた煙草に手を伸ばす。
怪談話で道に迷ったら、喫煙するのがいいと書いてあった。つまり、これは英断だ。
ゆっくり紫煙を吐きながら、もう一度周りを見る。
(あー・・・死亡フラグ回避とは言えるのかな。なんかここもここで安全だと思えないけど)
よく見れば薄暗い路地の中には明らかに浮浪者が横になっている。
ガラの悪そうな黒服の男が何かを探す様子なのも見えてしまった。
これでも若い女子。今日は上京の晴れ舞台だからと化粧だって念入りにしてきた。
ついさっきまで歩いていた場所ほどではないが、こんな自分がこの辺りに居ればそれこそ事件に巻き込まれてもおかしくない。
そして未だに現状は把握できていない。
(しょうがないな・・・なんか怖いけど、誰かに110番してもらおう。出来れば無害そうな女の子。出来ればイケメン・・・あ、でも都会のイケメンって無条件に怖そうだよなぁ)
考えながら、一箇所に留まるのも危ないかと歩き出す。
(優しそうなイケメン、可愛い女の子・・・いや、都合よくそんないないよな)
携帯を確認すれば時刻は0時を過ぎてしまっている。更によくよく目を凝らせば日付表示がおかしい。
(11月って・・・流石に今日は4月にはありえないくらい寒いけど・・・ないわ・・・いかれてるわ・・・)
確かに、体感的には冬だ。今日の唯一の幸運は春にしてはやや厚着をしていたこと。
もちろん、携帯が圏外でさえなければこんな寒空の中外をうろつくことも無かったが。
自宅に着いたら連絡を入れるように言われていた親にも電話出来ていない。
自分の状況に、一生分の幸せを詰め込んだ様な溜息を吐いた時だった。
(わ、イケメンだ)
裏社会の一角のような、そんな世界にそぐわない男が独り。
清潔感があるその身なりはこの場所は似合わず、目元の泣きボクロが男の顔立ちを際立たせている。
どこか現実味の無い絵画のようなその男をしばらく見て、再度溜息。
(イケメン。大人。これ以上ないってくらいタイプだけど、あれは駄目だ)
ただでさえ先ほど思ったのだ。都会の男は怖いと。
不幸が連続しているこの場面。
自分の好みすぎる端正な顔立ちは、甘い餌で死神が手招きしているように見えた。
やはりこの場所が悪いのか。改めて自分がいるこの区画を見つめなおす。
色とりどりのネオン。浮浪者の巣窟。
自分の地元に近いその眺めに改めて溜息。
(なんかこんな場所でも安心する所が特に怖いわーありえないわー)
きっとここよりも遥かに安全な場所は存在している筈だ。
気を取り直してこの場所から離れようと踵を返そうとしたそのとき。
(・・・女の子!可愛い!無害そう!)
慌てたように掛けて行くセーラー姿の女の子が見えた。
そして、白兎を追いかけるアリスよろしく、迷わずその女の子を追い掛けてしまっていた。




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