ロマニチェル。
思わず聞き返したクラブの名前を口の中で呟き、笑う。
ロマンティックなのか女の名前か・・・よく分からないとは思ったけれど、本来ジプシーと同じ意味らしい。
(しっかし言い得て妙だよなぁ。このご時世に外国の民族の名前なんて。どんな趣味してんだろう)
志撫子 藹。煙草屋の女が教えてくれたクラブ。
雄飛をは途中まで付いて来たものの、やはりクラブの空気を肌で感じて気分を害したらしい。申し訳なさそうな顔をして途中で帰ってしまった。
自分に対する態度は軟化していたけれど、やはり彼女はこの世界の善良な市民だ。
ただ・・・次があればどうするのだろう。次は断るのだろうか。それとももう少しこの空気を楽しめるのだろうか。自然と次を考えている自分に気付いて苦笑した。
(それにしても・・・凄い音だなぁ)
ライブともなればこんな物だろうが、シビュラが全てを取り締まっているこの世界ではなんだか別の場所に来てしまった気がする。
壇上で声を張り上げて歌っている女のバックステージ。
『HURT AGONY PAIN LOVE−IT』
その悪趣味さは好みで笑う。
曲もアップテンポのものが多く、純粋に楽しめた。
このバンドに変わった瞬間から増した歓声。やや黄色は声が多く感じてしまうが。
壇上には志撫子 藹。
ボーカル以外のメンバーが男だらけなのも女性受けがいいのだろう。ギターはインテリっぽい眼鏡。ベースは癖毛以外に特徴の無い地味顔。そして一際目を引くのはドラム。筋肉質な半裸に内心ガッツポーズ。
『痛みを愛せ』なんてシビュラに対して挑発的ともとれる言葉からも分かるように公認じゃないのが残念だ。
曲だけならこのバンドの前に演奏していた公認よりも遥かに強烈なのに。
まぁ、だからこそともいえるだろう。
強い感情を喚起させるものをシビュラは排除するのだから。
けれど不思議だ。こんなにも人が集まっているのなら自分に呼び込みをかける必要も無かっただろうに。
もしかしたらあの時音楽を聴いていたから少し興味を持たれただけなのかも知れない。
鳴り止まないアンコールに苦笑が零れた。




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