もう時間だと呼ぶ声がして、少し驚いた。
ゆっくりと分厚い紙の本から視線を外す。

知識も知恵も無い、そう育てられてきた自身に。
あいつは何を思ったのだろう。何故この本を薦めてきたのだろう。
考えてみても分かるはずもない。けれど確かに、面白い本だと思う。
洋書でもSFでもないから分かりやすい。
フィクション色は強いからそれなりに愉しい。

「聞いてんの?ちょっと」
「・・・分かってるよ」
やかましい女のハスキーボイス。
それでもその女は確かに、自分を助けてくれた一人。
「そろそろライブ始まるんだから。そっちにも集中してよね」
うるさいとは思うが、そんな事は言わない。

頭が割れそうなほどに喧しい音楽。
胃袋が悲鳴をあげるほどの暴食。
それぐらいしか楽しみを感じられなかった今までだけど、たまにはこんなのもいいかもしれない。
そう考えて自嘲する。

自分は今、きっと少しずつ前に進んでいる。
だからこんなに愉しい。

食べて寝て、その生活に満足だ。
仲間と共に音楽、なんて青春そのもの。
少しずつここでの知り合いも増えてきた。
親が望んでいた暮らしとは違うかもしれないけれど、そんなの今更気にするつもりは無い。

「そろそろ、だよ」
幕の向こうを見ながら念押しする彼女に苦笑。
確かに、そろそろ考える時間は終わりだ。
今からは、狂ったように騒ぐ時間の始まりだから。



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