「帝都ネットワーク建設の社長さん・・・なんて、本当にすごいですね。恐縮です」
(ちーん。人生詰んだ)
親権者候補の名前は泉宮司豊久。
パトロンが欲しいとは思ったがもう少し猟奇的じゃない人物が良かった。
自分の気持ちなんておかまいなしの人選にこの状況を笑ってしまう。
(学園長って本当に人を見る目無いよなぁ・・・役に立たない老害ですこと)
内心苛立ちとそれから冷や汗が無いこともない。
それでも笑顔は崩さないようにと気をつける。
「そんな凄い人がわざわざ私を引き取りたい、と・・・」
言いかけて、目の前に座る泉宮司がニヤニヤと笑っている事に気付いて一旦止まる。
瞬きもせずに笑うさまは不気味だ。
人並みの不快感は持ち合わせているので気味悪く感じながらも「せっかくのご厚意ですが、私なんかがその立場を受け取る資格があるのでしょうか」続けた。
暫し、無言。
耐えられずに「ええと、泉宮司さん?」と呼びかけて初めて彼は口を開く。
気味の悪い笑い声付きで。
泉宮司と2人きりになるよう取り計らった園長に心の中で救援信号。
(・・・もう老害なんて言わないから帰ってきて学園長。耐えらんない。コワイヨー)
「人というのは自分の置かれた状況で進歩もするし退化もする。私の元で世間の事を学ぶのは不服かね?」
「・・・」
泉宮司の薄ら笑いを浮かべた目を見つめ、嫌な感覚に心臓がドクドクと高鳴る。
確かに金持ちの家に引き取られる選択肢は魅力的だ。
相手が殺人鬼でさえなければその誘いに乗っていたかもしれない。
けれどもこの誘いは、余りにも安っぽい。
安全しか提供されない状況なんて幻想だ。
人は生きている限り、絶対に危険と苦悩と隣り合わせ。
(・・・寄生生活の代償、かぁ)
元より、藤間学園での寄生生活はいつまでも続かない。
自分自身が防衛の手段すら出来ない現状には勿論うんざりしていた。
自立するための就職という選択肢。
自分の怠惰が引き伸ばしていたそれを、そろそろ視野に入れるべきだ。
「“安全なストレスケア。苦しみの存在しない世界へ”」
ぽつりと呟いた。
「・・・それは?」
「とある製薬会社の広告です」
(あーめんどくさい。でも今しかないよね。この状況を回避するのは)
「児童養護施設から教育機関に掛け合ってもらったんです。学力考査は受けたし、あとは職業適性診断だけ」
少しだけ顔を伏せ、なるべく殊勝そうに泉宮司に喋りかける。
「泉宮司さんの提案は、本当に魅力的です。私には勿体無いくらい。でも私、一刻も早く就職してこの学園に恩返ししたいんです」
本来ならまだ遊びたいと、就職までの準備期間と、引き伸ばしていた筈の時間だったのに。
自分の心変わりに笑ってしまう。
(藤間さん、佐々山さん。2人の創作のおかげで良く分かったよ)
『苦しみだけが人生だ』とまでは流石に思わない。
けれど、安穏とした暮らしを生きるとは言わないだろう。
皮肉を織り交ぜて人生を謳歌する。
自分のしたいように生きてこその生。
(殺人鬼の所で飼い殺しなんて反吐が出る)




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